caguirofie

哲学いろいろ

少年ティウドゥリークス

#23

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 帰郷 vingt 伴の若い者たち兵士らは 崖を伝って降りて見にいくことに なかなか 乗り気となっていた。 先頭に立って がけの上から下を見下ろし 足場のよさそうなところを物色している。 ――トラ…

#22

もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 帰郷 dix-neuf 朝が明けた。山中では 暗い朝だった。

#21

もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 帰郷 dix-huit ふたりは並んで横になっていた。 ――ティウドゥリークス! とオストラゴータは かたわらのテオドリックに――しかし 仰向けのまま 真上の暗闇に向けて――ふたたび 小声で名を呼んだ。 《星の明かりが 少しで…

#20

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 帰郷 dix-sept 洞窟は異様なほど狭かった。あたりに生気はなく ここに人が住もうとは思いもつかないところである。かつて この人を尋ねて いく人となく野心家が この山のなかに入ったが ある者…

#19

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 帰郷 seize オストラゴータは 上から下までほとんど黒をまとっていた。黒色の布地というのではなくむしろ 羊皮の上着もそのほかの着衣も靴も すべて着古して黒ずんでいるといったほうが あたっ…

#18

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 帰郷 quinze オストラゴータは 歳はいくつか?と訊いても わからないとこたえるだけであった。三十を超えている法はなかったが テオドリックとおなじ十八歳であったとも また 二十四・五である…

#17

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 青春 quatorze テオドリックが ラーといっしょに曲馬団のなかに混じって逃亡をはかろうとしたことは すぐに見つかってしまった。 翌る朝。―― ラーは去ったが テオドリックはひとり部屋で 暢気…

#16

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 青春 treize 夜が明けた。 それは 奇妙な夢を見た夜から 丸二年たった夏の或る朝である。 テオドリックは 十六・十七の誕生日を過ぎて 十八歳になろうとしていた。 まどから射す曙光は テオド…

#15

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 青春 douze そこは 天とも地とも区別のつかないところである。 あたりは――幽かなひかりに照らされているような いないような――明とも暗とも見分け難い世界。死んだような靄のなかから いつしか…

#14

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 青春 onze テオドリックにとって 宮廷での生活は 軟禁状態であったが ひとつの優雅であることに まちがいはなかった。どこかにそう思うことの卑劣だという意識をもちつつも ふたたび寝台の上に…

#13

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 青春 dix はじめに社会があった。社会は 自然とともにあった。はじめて禁断の木の実をたべたとき 周囲におなじ会食者の集団をみる。同時に 木の実は 自然の・つまり社会的に必然の産物であると…

#12

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 青春 neuf 窓のあたりは やがて 月明かりがむしろ部屋の灯を凌ぐほどに照らしていたが テオドリックは 起き上がると その窓辺へと歩き寄った。海からの風は 相い変わらず吹いていた。テオドリ…

#11

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 青春 huit 闇がほぼ地面にまで落ちようというほどになっていた。 テオドリックは 依然として 今は かろうじて部屋の構成がわかる程度の明るさの中にたっぷりと浸ったままでいた。 とかく行動の…

#10

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 青春 sept 夏である。夏の到来である。 それはちょうど テオドリックがドナウ河をくだって人質という旅を ローマの使節らとともに敢行しはじめた季節でもある。テオドリックはひとり部屋にいて…

#9

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 青春 six テオドリックは 十五歳になっていた。そして夏である。 テオドリックは 一月の生まれであるから 正確には十五歳とちょうど半ばである。古代中国のエリートなら 学にこころざす年齢で…

#8

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 青春 cinq テオドリックは 十五歳である。かれにまだ 思想はなかった。 夏である。コンスタンティノポリス宮廷のなかの テオドリックの部屋には ほかに誰れもいなかった。夕刻である。しかし …

#7

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 幼年 quatre さらに一夜が明けて シンギドゥウヌムの朝にテオドリックはまた驚かされた。ふたたびドナウの船旅にもどるこの朝 街を通ると 一隅に大きな人だかりがあった。 それは 市であった。…

#6

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 幼年 trois( b ) 使節らは 中から灯の漏れる或る家の前で止まった。なんの変哲もない平屋建ての石造りの建物であった。ここだけは 黒ずんでいるものの 壊された様子もなく元のまま建っていた…

#5

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 幼年 trois( a ) シオ川は まもなくドナウに合流する。中流付近でおおきく階段状に折れ 南北に走るあたりである。河は 対岸がそれほど遠くなく とりたてて広大というほどでもない。支流のシ…

#4

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 幼年 deux( b ) やがて 空には月が出て 外は明るいといえば明るい。娯楽をもたない集落にとって 夜は長い。ゴートの幼年は 不必要に夜を更かすことは ゆるされていない。テオドリックは 眠い…

#3

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 幼年 deux( a ) ゴート国王の小屋は テオドリックを囲んで しずかな時がながれていた。 ドナウは アルプスの北・黒森に発して アジアの黒海にそそぐ。ヨーロッパ大陸の中央山塊を降りてしっ…

#2

――ボエティウスの時代―― もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226 幼年 un その日は 夜がなかなか降りて来なかった。 まず 夕凪ぎが居すわっていた。 西の方 チロルのやまなみには 陽は沈もうとしていたが 目のまえのバラトンのみずうみは いつになく 映えつづ…

#1

――ボエティウスの時代―― 幼年 un :2006-02-27 - caguirofie060227 deux ( a ) :2006-02-28 - caguirofie060228 deux ( b ) :2006-03-01 - caguirofie060301 trois ( a ):2006-03-02 - caguirofie060302 trois ( b ):2006-03-03 - caguirofie060303 …