caguirofie

哲学いろいろ

地中海の晩鐘(#7)

7.

アンフォラの輝く双眼は
ネプチューンの静かに見守る
島の沖に深く沈み
法皇の季節が続く
晩秋――


日蝕とともに
天体のヒエラルシーは固められ
月の司祭の塗油を受ける
恒星は
引力の関係を見事に保ち
群がる惑星を従えて
銀河の秋を飾り立てる


王シャルル・ダンジューの引き寄せた
祖地の衛星が飛び回る中
アラベスクの島も
蒼白い月光を浴びて
村々に
古えのアルテミスを讃え
恩寵に祈る声が七日ごとに聞かれ
町々に
月の司祭の発行する
かなたへのパスポートが満ちあふれる


このパスポートが
後にアイスレーベンの人ルーテルを生む
この緑の世界の秋の夕暮れ
後にジェノヴァの人マルコ・ポーロ
東方へ旅立つころ
フィレンツェの人ダンテが生まれ
後にヴィンチの人レオナルドを生む
《神の喜劇》を用意するころ


エトナに織られた赤い糸は
プロチーダの人・某を魅して
あのマンフレートの娘コンスタンスを
娶ったアラゴンの王ピエールを盾にして
シャルル・ダンジューと敵対する
ビザンチウムのくすぶる太陽を矛にして
鮮やかな画布を
悲壮な戯曲を
編んでゆく


島は
シャルルの公転を待つ
シャルルのビザンチウム遠征の日を
待つ
じっと
朝また朝
夜また夜


聖霊(サン・スピリート)の教会で
晩鐘の
鳴るとき
ある日
祈りを捧げる島の女に
フランク兵士が乱暴をくわえた
とき
赤いエトナが海に落ちた
一二八二年三月三十日
月の王の復活の祭りの日の月曜日
悲劇の上演の日を前にして


ああ 山にかぶさる砂埃
雨が至点をとおりすぎ
緑が砂を押しのけて
赤いエトナが海を染める
聖霊(サン・スピリート)の会衆は
兵士数人をただちに虐殺


その祭りの夜のうちに
パレルモ
フランクの女・子供まで血祭り二千人
ヒメラ タオルミナ カタニア シラクーサ
マルサラ セリヌス ゲラ アクラガスも
○○を発音できない者すべて
シャルルの星からやってきた者すべて