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哲学いろいろ

地中海の晩鐘(#6)

6.

秋深く
西風(ゼフィルス)の吹く新興のエウロペの地の
太陽と月との闘争の
どろどろとした渦中に浮かぶ
わが緑の島――


一二二八年
ロジェ二世の甥
コンスタンスの子は
延ばしに延ばした
十字軍(クロワザード)に発つ――第五回


聖地の王国の最後の王女を娶った主権者
スルタンを説きエルサレムを解く政治家
ハムの民ファラオの裔と交わる国際人
イスラームの聖所《岩の神殿》に泊まり
暁の朗誦を聞く怪人


中央集権を敷き緑の道に
絶対の王朝を築こうという自我の人
遂には蒼白い馬に乗り
絶対の神とともにあるという月の司祭に
刃向かう
絶対の良心とともにある
近代人フリードリッヒ


そのまま庶子マンフレートに見取られて
逝く五十六歳
嫡子コンラートは
ゲルマンの祖国から南下して
四年後あとを追う二十六歳
島を継いだマンフレートも
その十二年後三十四歳

日没とともに
月の司祭は
わが月光を讃え
《わが》緑の島に
フランスの王室アンジュー家から
シャルルを招んで
笏を授ける


《心から神を愛しその御業にならう
聖なる人物フランス王ルイ九世
の弟よ
あの蝮の一族が一人でも残っているなら
おまえの命は安全ではないぞ》


オートヴィル家の末裔
コンスタンスの曾孫フリードリッヒの孫
コンラートの子
その蝮の生き残り
美少年コンラーティンは
やはり祖地から南下ローマに入城


赤い糸を織る島の歓呼を遠く聞き
カピトルの丘に勝利の行進
の直後
タリアコッツォに落ち
ナーポリの断頭台に金髪の首をさらす
十六歳


蝮の家ホーエンスタウフェンの最期
太陽の帝国の大空位の時代
残虐王ハインリヒを凌ぐ
シチリアの王シャルルの弾圧と
圧政の時代


赤いエトナの空高く
向かいあってかかる二つの月の下に
神々の沈黙を聞きながら
島は
両天体の宿命の格闘に巻き込まれた島は
幾日も幾月も幾年も
暁の祈りを朗し
晩鐘を打ち鳴らし
一本の赤い糸を織ってゆく税に耐えるとき