caguirofie

哲学いろいろ

たゆたえど沈まず 2

馬に乗る シャルルマーニュ
船縁の シテの寺院前庭(パルヴィ)に
ふさふさと 美髯をたくわえ
高々と 長槍を構え
厳かに 帝冠を戴き
中世の 騎士の華々
くつわ取る 勇者ローラン
くつわ取る 賢者オリヴィエを
従えて この伽藍より
西欧(オクシダン)の 統一帝国を遥かに望む


ガリアの地に 二千年前
ユリウスの 軍が押し寄せて
ドルイッドの 戦神(エスス)は敗退
円形劇場(アレーヌ)に 共同浴場(テルム)を残して
ルテチアに 歴史を始め
フン族の アッチラが迫り
ゲルマンの 波も打ち寄せ
フランクの 首長クロヴィスは
ラテンより ガリアを解放
メロヴィング王朝を開く 花の都に


アラブの徒は イベリアを廻り
迫り来て シャルル=マルテルは
波を塞ぐ トゥール・ポアチエ
カロリング ピピンを隔てて
嫡子が逝き 庶子のシャルルは
北西の 海岸平野
ネウストリの ノワイヨンから
遺領を継ぎ 世に登場
ためらわず 遺族を追放
広大な 帝国を築く 伝説の王


サクソン人 フリースランドを
北に討ち バヴァリアの地
東を攻め アヴァールを退け
ピレネーの 南の山を越え
イタリアに ロンバルドを滅し
フランクの 栄光を掲げ
征戦は 東奔西走
教会と 王国を守り
蘇える カエサルの途 ローマの荘厳


クリスマス 紀元八百年
教皇の レオ三世は
復興する 古代帝国を
蛮族の このシャルルに見て
頂きに 冠を授ける
背は高く 肩幅は広く
丸い顔に 銀髪をなびかせ
豪放に 質素な身成りで
栄冠を 予期せず受ける 戴冠の式


栄冠に 不満を漏らして
北の祖の 田舎君主は
一躍に ヨーロッパを統べ
その脇に 二臣は従い
その影に 二臣は添いつつ
アラブとの 歴戦の中
ロンスヴォに ああオリヴィエ
勇臣の 影を慕い
勇将の 歌を歌う ロランの歌ああ


ロランらの 後衛軍は
継父に 寝返りを打たれ
凱旋の 帰還の途中
サラセンの 軍に襲われ
ピレネーの 山の狭間に
凄絶な 戦いを展げ
オリヴィエと 善戦もむなしく
かねてよりの 合図の角笛を
吹き鳴らし 雄々しく戦死
馬を返す シャルルマーニュは 敵を裂き弔う


うまし国 フランスの幸
願いつつ 大帝のもと
栄光に 殉じて散った
華々に 添える花々
アーヘンに シャルルマーニュ
学芸の 復興(ルネサンス)を招ぶ
ヨークより アルクインを招き
学僧は 宮廷学校(パラチーヌ)を興し
ゲルマンの 伝統を活かし
アーヘンの 宮殿に咲かせる 第二のローマを


秘書官の エギンハルトは
狩りの間に 戦さの暇に
子どもらに 読み書きを教える
好々爺 大帝を伝える
大帝は 老いて世を去り
《このシャルル 学校なんて
こんなもの 考えたのは!》
伝説は 世紀を越えて
一度びも 住まわぬパリの
シテの地に 王の騎馬像 ふさわしく立つ


騎馬像の 寺院前庭(パルヴィ)の下に
埋もれる 古代住居は
カエサルの ローマの昔の
先住の パリシー人から
侵入する アジアの匈奴
ゲルマンは フランク族
ブルグンド 北の果てから
ヴァイキング セーヌを上り
攻め入って 通り過ぎ去った 跡を残して


シテ島は セーヌに浮かぶ
一艘の ああパリの船
波に揺れ 波にもまれつ
帆を掲げ 舵を取りつつ
風に吹かれ 嵐に見舞われ
帆を降ろし 舵を取りつつ
旋風の 荒れ狂う中
暗礁に 乗り上げ乗り上げ
たゆたえど さらに沈まず
陽を享けて 帆をふくらませ パリの船は航く


朗々と 銅鑼を打ち鳴らす
聖母寺の 鐘の響きは
ドルイッドの 秘教を閉じ込め
アポロンの 竪琴を奏で
ユピテルの 怒りを貯え
処女戦神(ヴァルキリー)の 騎乗を呼びつつ
時を告げ 英雄を招き
時を告げ 革命を刻み
延々と パリの船が航く
滔々と セーヌは流れ パリの船航く