caguirofie

哲学いろいろ

樹々はみどりか

樹々はみどりか――胎動のころ――


1.
史朗(アハスウェルス)は旅立つ
朝もやの中
誰も見送らず
孤り歩く
待つ者もなく
とぼとぼと
あてのない旅


2.
たたなずむ山々白く
かすみ立ち
三郷(みさと)の村の朝の訪れ


わが宿の燕舞い交う軒下に
     目を射るほどの山々の青


夕焼けに 大滝の山は 赤く咲き
  水田に映える 炎と燃ゆる


3.
山 青く
水 白く
田は 翠
   空 黒く
樹々は緑か

4.
山の頂き
霧たちこめる山の頂き
赤き炎の
灰白色の靄のさなかに
一塊の炎が赫赫と燃え上がっている
山は動かず
煙も動かない
炎が燃える
上方に異様な空気が舞い上がる
黒く舞い上がった空気が降りてくる
灰白色の煙を突き抜けて
尾根を伝って俗界に降りてくる
黒い列車となってじわじわと降りてくる
麓の村は眠っている
窓の明かりはみな消えて
孤り僕だけ
山を眺めている黒い雲が降りてくる
頂きの炎は盛んに燃えている
あとからあとから雲が起こる
長い長い列車となって降りてくる
雲が窓辺に降りてきた
黒い黒い雲の列車よ


 été 1974 Chinano