caguirofie

哲学いろいろ

霜の降りた月面の中から

霜の降りた月面の中から
かのじょの薄氷りが立体派を成して
天体への飛翔に傷ついた雲間から
凍土が油彩画を破って
圧し掛かる砂嵐の下から
葉脈を伸ばして
黄道が公転して


鋭角の傾きが
夕凪を引きずる主体の回転を
海流を揺さぶって
少女の偏西風が
春の雨を吸って
プリズムの陽光を
楕円軌道に乗せて


草深い惑星のうなりを
花明かりの地殻の中から
膨張する陽炎の舌を
蛇行の中に抱き集め
潮騒のぼくを
アカシアの梢に飛ばす


波が憂えて
水しぶきが憶い出して
青い雲が震えて
少女が流れる
憂える波
憶い出す水しぶき
震える雲
かのじょの少女が流れる



偏西風に潮騒がさざめいていた


   *自分でも今となってはよくわからない作品。

《取り憑かれたるたましい L'irrémédiable》

 ----Ch. Baudelaire


 観念の死か? いや生活のあり方そのものか? 
 いやいや 人間まるごとだって? 落ちてゆくとは!! 
 この晴れた空の下 何を嫌ってのことか? 落ちてゆくとは!! 
 えっ? ここは三途の川だって? まさか? 
 へどろが鉛のように絡みつくからと言って まさか!! 
 ああ あの五月晴れの宙よ! いと高き山よ!


 だが 天使だったのだ。
 ちょこっとおっちょこちょいだとは言え 愛が 
 愛が ちょこっと臍を曲げただけさ。それを この
 悪夢か? 何と遥か先にまで広がっている夢路であるか 
 かくなる上は 苦しみ甲斐があるというものだ。


 縁起がよいとは到底言えないからと言って 
 われが たたかわないとでも? 
 それにしても この渦巻きは 何だ? 
 遥か先まで 歌をうたっているではないか。その調子はづれは 
 何だ? ああ 
 眩暈。まわれ まわれ おまえよ まわれ。


 これは われの所為ではない。われは ただ
 魔法にかけられたに過ぎぬ。この逃避行こそ 
 試みに値するのだ。青い空の下には 
 ヤモリにイモリ イグアナにオオトカゲ 
 この這い回る輩らを われは嫌っただけだ。
 われこそが光を手にする。
 

 ここは 暗闇。ランプくらいは持って来るべきだった。
 あそこには 地が穴を開けている。
 底無しの底から這い上がってくる匂い。落っこちたら 
 おしまいか。せいぜい手すりを作っておいてくれ。


 何かおるぞ。ぬるぬる坊主たち。
 燐光とは あやつらの目か。その光が 
 なお暗闇を深めておるわい。目と目とのみ にらみ合っている。


 われは ちがう。
 極北の星を われは 追い求めたに過ぎぬ。われは 船だ。
 宙を航く船だ。星のきらめきに惑わされたからと言って どうして 
 それが 罠だったのか。この落とし穴。あの星星のあわいを
 抜けて来たというその何処が まちがっていたのか。


 この定めを想えというのか。あの道こそが ここへと通じていたと
 いうのか。おれは 知っていたというのか。
 神こそが この海の導き手だったというのか。


 われが見るのは このわれのすがた。蒼白きわが面持ち。
 この井戸を覗くわれ。透き通った真実の黒き陥没。
 鉛をあおって揺れる星のおれ。


 これでも まだ 輝いている。人よ この光に寄れ。
 地獄が 何だ? これこそが 地獄の恵みよ。わがともし火よ。
 栄光なり。わが慰みなり。われは ただ この病める心を 誇るのみ。


 〔* 自由訳すぎますが〕。
Les Fleurs du mal

LXXXIV. L'Irrémédiable


1

Une Idée, une Forme, un Être
Parti de l'azur et tombé
Dans un Styx bourbeux et plombé
Où nul œil du Ciel ne pénètre ;


Un Ange, imprudent voyageur
Qu'a tenté l'amour du difforme,
Au fond d'un cauchemar énorme
Se débattant comme un nageur,



Et luttant, angoisses funèbres !
Contre un gigantesque remous
Qui va chantant comme les fous
Et pirouettant dans les ténèbres ;



Un malheureux ensorcelé
Dans ses tâtonnements futiles,
Pour fuir d'un lieu plein de reptiles,
Cherchant la lumière et la clé ;



Un damné descendant sans lampe,
Au bord d'un gouffre dont l'odeur
Trahit l'humide profondeur,
D'éternels escaliers sans rampe,



Où veillent des monstres visqueux
Dont les larges yeux de phosphore
Font une nuit plus noire encore
Et ne rendent visibles qu'eux ;



Un navire pris dans le pôle,
Comme en un piège de cristal,
Cherchant par quel détroit fatal
Il est tombé dans cette geôle ;



- Emblèmes nets, tableau parfait
D'une fortune irrémédiable,
Qui donne à penser que le Diable
Fait toujours bien tout ce qu'il fait !



2


Tête-à-tête sombre et limpide
Qu'un cœur devenu son miroir !
Puits de Vérité, clair et noir,
Où tremble une étoile livide,



Un phare ironique, infernal,
Flambeau des grâces sataniques,
Soulagement et gloire uniques,
- La conscience dans le Mal !