caguirofie

哲学いろいろ

若いパルク La Jeune Parque (全)――ポール・ヴァレリー ――

アンドレ・ジッドに――
これは 
長いこと詩を作るのを止めていたわたしが
いまひとたび試みて成ったものです。1917年


             不思議な事どもを集めたこの堆積を天が作ったのは
             一匹の蛇を棲まわせるためだったのか。
                          ピエール・コルネイユ







星を散りばめたこんな時間に ひとりして
そこで
もし 風の音でないとすれば 泣いて
いるのは だれかしら
いまにも泣こうとしているわたしのこんなにそばで
いったい だれが泣いているの


何か心の深い意図に対して憑かれたかのように ・・・・・・4
わたしは わたしのこの手は
そっと 目鼻をかすめて
わたしの中から それは多分 わたしの弱さの中から
ひとつぶのしずくがこぼれるのに 触れたように
思っている


〔わたしは〕わたしの運命をおもむろに超えて ・・・・・・7
《もっとも純粋なるもの》が 静寂のかなたから
この傷ついた心を照らし出してくれることを
待っている
〔大波は〕大波のうねりは わたしの耳に〔は〕・・・・・ 9
咎めのうねりをささやいている
岩礁の喉のほうへと 欺かれた藻くずを
ものを苦々しくも呑むことになったような
心を締め付ける嘆きをざわめかせ
送りやっている


髪を逆立て 凍ったような手をかざして ・・・・・・・・・13
おまえは 何をしているの
あらわな胸の谷間を抜ける
こんなに執拗な 風に吹かれた落ち葉が
ざわめきつづけるのは なぜなの
この未知の天空につながれて
わたしは きらめいている
災厄を求めるわたしの渇きに 限りない天体は
輝やいている


全能の異邦人のような ・・・・・・・・・・・・・・・・・18
星ぼし
あなたがたが そんなに遠くから
ええ じっさいきよらかなそのひかりを
この世に送るひかりを わたしたちは
避けられない というのでしょうか
人びとのなみだは 
あなたがたに射抜かれたからなのでしょうか
おおきな腕を伸ばすように
長い時間 射抜くゆえに
散る火花には 王者の風格があると
いうのでしょうか
あなたがたとただ独りわたしは ・・・・・・・・・・・・・24
ここにおります
寝つかれず床を離れ来て おののいています
暗礁も 驚きに咬まれたように
目をさましました
でもそれは どんな苦悩のゆえなのでしょうか
わたしの犯したつみが
わたしに犯されたどんなつみとともに
咎められるのでしょう
それともわたしはただ 夢を見ているのでしょうか
わたしは――部屋の明かりの金色が ・・・・・・・・・・・29
ビロード色の風に色褪せ――
こめかみを腕に抱き
この魂の火花散る瞬間を待っていたのです
それらのすべてですって? でも
わたしも これらすべてを身に引き受けて
――わたしは この身のあるじなのですから――
おののきで 身をまるごとこわばらせ・・・・・・・・・・・33
血のめぐりも止めたかのように しかも
身のひろがりとつながりは
わたしが見ていることを知っていますし
そのわたしをわたしは知っています
そのわたしは くねらせた身をながめながら
こころの森のあることを知っています


わたしは ここまで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
わたしを咬むあの蛇を追って来てしまったのかしら


蛇が這っています 欲望が重なっています・・・・・・・・・38
そのわたしの貪欲から逃れ出た宝の山
これをもわたしは明らかに 暗い渇きで
欲しがっているのです
なんとかしこい蛇 でも 苦しみの山の中から・・・・・・・41
艶めく傷に われを知るのも人のつねです
魂の欺きのきわみに わたしはわれにかえります
毒 わたしの毒が わたしを照らし出し
毒は毒で自分を知ります
自分にからんだおとめ 多分ねたみでからんだわたしを
毒は 色どります そして・・・・・・・・・・・・・・・・45
だれをねたんでいるのか なにをこわがっているのか
毒は毒で 知るのです
かれ――毒のことです――に
その所有物であるわたしが だまっていてやるからです

かみがみ とわたしは呼びかけるのでしょうか・・・・・・・・48
深手を負ったわたしの中に
わたしは ひそかに妹が燃えているのを見出します
妹は 用心深い姉よりも 自分を愛します


去れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
だからわたしは言います 去れ
するどくおとなしい わがへびよ
まばゆい存在の種族よ
わたしはわたしにからみつくのであって
おまえの絡みに用はない
わたしをすり抜けてわたしを占おうとするわたしの友よ
去れ 滅びの衣装でわたしは じゅうぶんです
わたしは 夜ごとにでも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
胸の暗礁があまりにもうるわしく
その岩根をかき抱きながら 苦しみを
その岩根のさまよう影に浮かべるのです
わたしは――それは わたしの魂です――魂は
ゆめをみはじめます ゆめのながす乳をすすって眠ります
むねの宝石類はこぼれ落ちてゆきます
愛でわたしのさだめをおびやかしていたのは それです
きばを抜かれおもしろくもなくなったおまえたちは・・・・・・・60
わたしを素通りして
波をしづめ うずまきを巻き戻し
昔のけがらわしき約束を引っこめ
おまえたちも ねむりなさい
わたしのおののきがちぢんでいったとき
わたしは目をあけます
わたしの砂漠は ものがゆたかで
こんな真田紐を編んだような・・・・・・・・・・・・・・・・・65
おそろしいドラマを用意していることは
まえから 知っていました
いまも砂漠です
遠く かすかに遠く 乾いた砂が
その地の底を 情熱でかがやかしています
わたしはすすみます なおも見ようとして
もの想うわたしの地獄の望みのない境を
わたしは知っています
もの想いに倦んだところが 舞台であることを
まだ精神も・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70
偶像をおがんだためしはないとは言え 孤独のうちに
燃える炎で舞いあがっても
暗い墓のかべを打ち破るほどには 高くはないのです
まだここでは
何でもあらゆるものを待ちうけていたように
何でもが現われ やってきます
わたしの影も くるしみを浮かべづらく
しつこいたましいが顔を出し 怪物のように・・・・・・・・・・75
火のとびらの敷居に立って身をよじらせる怪物のように
官能にもだえます
でも とわたしが言えるのは
すばやい気まぐれの爬虫類に対して
おまえは何ものかと問うからです
からだじゅう愛撫を走らせたうねり
重たい倦怠のいらだち
長い長い自由のわたしの夜の前に おまえは何ものか・・・・・・・80
おまえが わたしの手抜かりの眠りをながめていたからといって
わたしは あやうさに めざめ
あやうさよりも素早く あやうさのあだしごころをしのぐのを
酒神の杖たるおまえよ 知らないとでも
わたしを逃れて ねばねばした糸すじを たどりなさい
もと来た道をゆけ
おまえの重々しい踊りのための閉じた眼を さがしなさい・・・・・・85
ほかの臥床に向かっておまえの長々しい裾を引きずってゆけ
そこにいる心の中に その眠った眼の悪の胚子を孵すがいい
畜生の夢のとぐろの中で夜の明けるまで
罪のない気がかりにあえぐがいい
わたしは眠らずにいましょう・・・・・・・・・・・・・・・・・・90
何も惜しまず蒼白いかおをして
まだ流してもいない涙に濡れて
わたしの周りのこんな涙をあやしながら
そのまぼろしを追い出しましょう
墓も壊すのです 気をもみながら肱をつき
でも きっぱりと
夜と眼とのあいだに広がったわたしのこのまぼろし・・・・・・・・・95
このまぼろしの動きには こたえてやります


わたしは 神聖な苦しみまでを失うかとおもいました
わたしの手の上のこのうつくしい傷口に そっと口をやり
わたしはおもいました
わたしの古い麻痺した肉体には
わたしにつきまとって燃える火があるだけなのと・・・・・・・・・100


この《わたし》  死すべきいもうと  このつくりごとに
別れをつげようと



こころよい《わたし》 夢からさめて
沈黙のなかにきよらかなおこないを従えたおんな
ひたいは澄んでいます ながい髪があたらしい芽のようにかかって
よろこびの波をなびかせ
――やわらかい毛のはえたようなそこはかとない風が
とおくから吹いてきているのです――・・・・・・・・・・・・・・105
むちゃくちゃにもつれさせ
ひるがえすのです
言ってほしい
わたしは太陽でありその妻であったよと
あこがれた全能の天のたかみに愛をもって
自分で自分をきづいたほほえみを浮かべたそのただひとつの
ささえだったよと


まつげ まつ毛はわたしには見えずにきらめいた・・・・・・・・・110
まぶた まぶたは今 宝の夜がふたぎ
まばゆい闇のなかを手さぐりしてわたしは
わたしは 祈っていた
おそらくはわたしを包みこむ
永遠にむかって漏れこぼれていくわたしは
おそらくはかれが喰いつくすビロードのわたしの果実のなかに
わたしをささげていた
だれも言いはしなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
この光りにさらしたブロンドの果肉のなかで
死へのねがいが発酵しうるとは
わたしににがい味わいは訪れてきていなかった ただ
はだかの肩をわたしは光りにいけにえとしていただけ そして
蜜の胸が やさしくかたちづくられて
この胸に来て 人びとの姿がまどろんでいる・・・・・・・・・・・120
わたしは 捕らわれてひとりの神となり
やがて出かけてさまよい
燃えつつよろめき
大地を踏みしめていた
薄きぬの引きずるわたしの影を結びつほどきつ
幸福・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・125
背丈ほどの花の野を行けば
花々はわたしのきぬ裾に引かれて花冠をかたむけ
ほこらしげなもろさをなびかせていた
もしこの自由の糸すじにさからって
着物をいばらのとげにさらわれたなら
からだは 肌色のおおいの下に裸が息づき・・・・・・・・・・・・・130
くっきりとしたすじをあらわにし しずしずと
幸福の種族を宣言します


かつてこのむなしいちからがあって
わたしは欲望とひとつになって
つややかな膝に従い かけぬけていた
わたしののぞみも ほしいものに従い・・・・・・・・・・・・・・・135
わたしのねがいは かつてかろうじて先んじていた
わたしのブロンドのたましいが官能のかがやきに向かって泳ぎ
自然の夢の灼熱のやすらぎのなかで
その果てしのない歩みもわたしには とこしえのものに思われた・・・・140
わたしの影も かがやきも
わたしの足の下の敵にすぎないものならば
しなやかに動くミイラとなって わたしの不在に色どられ
しげしげと
かつてわたしがあの軽やかな死を逃れた大地を
かすめていくことでしょう
薔薇の花とわたしのあいだに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・145
わたしの影が身を寄せています
つちぼこりの踊る上を 影は
すべりゆき 木の葉をさわがさず とおりゆき
あちらこちらに砕けちるでしょう
すべりゆきなさい 喪服の船


立ちあがりなさい わたし 固く
わたしのむなしさをひそかに闘いのよそおいにあて
愛の火にほてった頬は オレンジの・・・・・・・・・・・・・・・・・150
樹々を抜けてきた風を吸いこみ
もう太陽にはよそよそしいまなざしを返すだけ
わたしのおかしな夜のなかで
わたしの孤独のこころのめづらしい世界がひろがり
目の見えないさまに手さぐりして進むわたしのおもいは
そこはかとなく深まっていきます・・・・・・・・・・・・・・・・・・155
晴れやかな周囲から遠く離れてわたしは
捕らわれているのです
かんばしい大気が打ちひしがれて消えゆけば
わたしは 身ぶるいする大理石の像となって
あの太陽が 金色のきまぐれな光りをふりそそぐのを
おぼえます
わたしは知っています・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・160
もはや消えたわたしのまなざしが何を見ているのかを
わたしの黒ずんだ眼が 地獄なる住みかと
へだてあう敷居であることを
わたしが思っていることは
時の歩みをそよ風にまかせ 魂を
このにがみを持った低い木々の中へ今はすべて打ちやりながら
わたしが思っていることは
――いまはもう宇宙の 光りをそそがれた岸辺に立って――
あのピュトンの巫女が囚われたその滅びへの・・・・・・・・・・・・・165
趣味についてです
この世が滅べというねがいが
かのじょたちには うごめくのです
わたしはふたたび あのなぞを
わたしの中に振り返ります
わたしのかみがみのことでしょうか
天に向かって語りかけることばも途切れ途切れに
なったわたしの 歩みの
その休みの
夢の想いをはこぶ足取りの上の この
なぞのことです
鏡に想いをうつしその想いは翼を生やして
また小鳥を追いかけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・170
小鳥がそのすがたを変え
ふたたび陽の光りをあびた小鳥のすがたを見て いくたびも
あのむなしさと たわむれます
ぽかんと口をあけたわたしの大理石が
その暗い果てに行き着いて 鏡も
そこで 燃え上がるのです



小鳥のすがたを追うところの餌食


なぜかというと 精神の眼は すでに
その絹の岸辺のうえで
おびただしい日々が かがやき 消えうせるのを ・・・・・・・・・・・175
見ており その色もみちすじも移り変わりは
わたしが知っていたことなのですから
ものうい色
移ろいを映し出す晴れやかな物憂さ これはすでに わたしに
喪服の将来をおしえていたのですから
あかつきの時に 日の沈むまで敵がのぼることを
わたしはすでに知っていた なのに
わたしは なかば死んでいた それだから・・・・・・・・・・・・・・・180
たぶん神であった それだから
未来とは 王冠を固めるひとつの金剛石にすぎない
と夢み それだから
わたしの額の中の絶対の火から生まれ出る
冷ややかな不幸のかずかずが
この王冠の世界で あきなわれるにすぎない
のだと夢みていた


《とき》は わたしにさまざまな墓の中から・・・・・・・・・・・・・185
鳩のむれとぶと或る夕暮れを わざわざ
よみがえらせるというのでしょうか
きれぎれの想い出の糸をたぐり
ほほを赤らめるわたしの幼かったころの
そのばら色のはづかしさを
あざやかなみどりの中に浸らせる
とある夕暮れを


おもいでは じつに火あぶりの刑です・・・・・・・・・・・・・・・・ 190
そこをつきぬけてくるまたもや金色の風は
わたしにぶちあたると
恥づかしめのくれないの息を吹きかけ
炎に囲まれたわたし自身の中でわたしがもはや
昔のわたしでないようになっているのを
ゆるさないとささやきかけます
わたしはわが血にむかって言います
ただ遠い過去から そこでは青空が
わたしの周囲をけだかく青白く染めていたとしても その
過去から来た空間を 赤く塗ってやりなさいと
わたしがかつて祀った《とき》のつれない虹を かえって・・・・・・・・195
くれないに染めておやりと
そう こんな色あせた贈り物を焼きつくして
そう この自分の影におびえるこども
だまって共にはかりごとをたくらむ子
森の精気に身をひたす透きとおったやっかい者の子を
わたしがすでに憎むためにはっきりとみとめるように
わたしの凍ったような胸から・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・200
愛に曇りしわがれたようなわたしのまだ知らなかった声が
ほとばしり出るように
わたしの首がめぐって
翼のある狩りの女神をさがし求めるように


わたしの心は 朽ちてゆく或るこころに
こんなにくっ付いていた


ながいまつ毛のおまえ これは ほんとうに
わたしだったのかしら
おまえの脅しにもほほえみ返し なごむ心の・・・・・・・・・・・・・ 205
奥に自分をうずめようとしたのは
それとも わたしの頬のうえに うるさい
糸のようにもつれかかる葡萄の枝のおまえ
ただおまえだったのかしら
まつ毛のおまえと流れるような幹とで織られた
とある夕暮れのかすかな光りが
乱れる胸の中でくずおれただけだったのかしら





《むしろまぼろしのうちに 夜空に
わたしのやしろが えがかれて
この上ないささげものの庭が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・210
わが身にあらわれますように》


わたしの蒼白い大理石がからだごと さけんでいた
大地が ながれるような色の帯に見え
わたしの額のまぶしい白色だけをこばみ
宇宙がもうはや わたしの幹のうえに
よろめきふるえるかに見えました
考えるちからの冠が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・215
わたしの精神から抜け落ちれば
死者は この無上のバラの花をのぞむことができる
かれらはその闇の果てへたどるのに
花のうつくしさが欲しいのです


もしわたしのうつくしさが甘いかおりをはなって 死よ
おまえのうつろな頭をよわせるのなら
王さまにつかえるこのわたしをのぞみなさい
わたしを呼んで みづから ほどかれなさい・・・・・・・・・・・・・ 220
わたしののぞみを くじきなさい
自分に飽き果てた呪われたすがたのわたしのをです
聞きなさい 聞いているなら もう
ためらうことはないでしょう
このよみがえる年は わたしの血に
ひそやかな隠れた動きを告げるのです
この凍り固まった体は心ならず 最後の
金剛石をゆずりわたそうとします
明日には よき綺羅星がためいきをついて・・・・・・・・・・・・・・225
春を呼び 泉のせきを切って水を
湧き出させるでしょう
驚いた春は笑みを浮かべて やって
来ます どこから
やって来るのかですって? でも
うるわしいことばの中に あどけなく流れきて
大地のはらわたを そのやさしさが
つかむことでしょう
樹々はふくらみ うろこのような葉におおわれ・・・・・・・・・・・・230
多くの枝えだの腕をもって 地の果てへとひろがり
太陽にむかってうごめくと 葉ずれの音は
かみなりとなるのです
つばさをはやして にがい大気の中を
のぼりゆきます
みどりの葉群れが つばさを生やすのです
死は耳がきこえず この空をゆくことばが
音を立てて動くのを 聞かないのかしら・・・・・・・・・・・・・・・235
生きるもののきずなで満たされたこの空間に
一つひとつの梢をたわめ森をふるわせ
神々になびきまたあらがって樹々がこぞって
櫂をこぐおとを
死は耳が悪く 聞こえないかしら
波うつこの森が あらあらしい幹も
その気まぐれなひたいをうやうやしくも持ち下げて・・・・・・・・・・240
すばらしいその群島のちぎれるばかりの旅立ちのときまで
草の葉におおわれたやさしい樹液の河となるまで
櫂をこいでゆくその音を



わたしは――この渦巻きに誰が逆らって持ちこたえるでしょう
いったい どんなおんなが――
わたしは おんなです きよらかに
防ぐすべのない膝のおそれをおそれています・・・・・・・・・・・・・245
大気がわたしをくじく
小鳥がまだ聞いたことのないさえずりで
閉じたわたしの心の影を突き落とす
そしてバラ そして花かごを閉じるうるわしい胸を負かすバラ
バラをわたしは ためいきをついて もちあげる
それは わたしの髪の中にみつばちほどの重みをもって・・・・・・・・250
とがった口づけにいよいよ酔ってゆく
わたしのうつろな日々の甘い手先 だから光り
なのでしょうか
それとも 死よ おまえなのか
こんなするどいものが わたしをとらえるのですか
胸は鳴り 胸が鳴り ちぶさが燃えて
わたしをさそう
もりあがり ふくらみ はりついている・・・・・・・・・・・・・・・255
ことなのでしょう この
わたしの血の青いすじの捕らわれの証人
この目ざわりでとても甘い証人
わたしには目障りで かぎりない口の 人には甘い証し


むかしのまぼろし
なつかしのまぼろしが生まれて
その渇きをわたしに押しつけ
欲情をよび 晴ればれとした顔つきで
愛のうつくしき果実だと言い張り
神々がわたしにこの母なるかたちをとらせ・・・・・・・・・・・・・・260
くびれとひだとうてなのりんかくをとらせ
このやしろの庭の甘い土に口づけなさいと
さまようたましいを果てしない繰りかえしに誘いこみ
精液と乳と血がいつも流れるという寸法なのでしょうか
いいえ のろわしい仲の良さは そのかしこさが・・・・・・・・・・・265
わたしを照らし出します
口づけの一つ一つが くるしみなんかでもないでしょうのに
打ちしおれたたましいのほろにがい亡き骸が
ただようのは
ほこりたかき肉体を脱ぎすてたからなのです
ためいき まなざし また やさしさとやら
わたしのまれびとたち・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・270
わたしにすがって生きようとするものたち
幽霊たち
むなしくためいきをつくことは ありません
手に触れることもない死者の列に ならぶことはないでしょう
光りを影と見分けられないことはないのですから あなたがたは
墓のまわりに明らかに見られます・・・・・・・・・・・・・・・・・・275
わたしのくちびるから あなたがたが
いなづまを待ちのぞむことは ありません
わたしのこころから いかづちを待ちのぞむことは
ないのですよ
わたしは わたしたちがなつかしいのです
ちりのうずまきのわたしたち


かがやかしいかみがみたち
あなたがたのうちにわたしは わたしの
狂った歩みを見失います
わたしは このよわよわしい明かりにすがります・・・・・・・・・・・・280
しずくとなりたがっていた わたしの今にも
こぼれそうな涙の
わたしにこたえて わたしの眼差しにこたえて
いくつもの喪服のみちをふるえさせる涙の明かり
おまえは 魂 やしろの奥のほこりたかき魂・・・・・・・・・・・・・・ 285
から たしかに 来ます
おまえは こころから呼び起こされるしずくを運び
わたしのとうとい水をうばいとったのですから
目のまえで わたしの影どもをいけにえとし
水をふりそそいできよめ
わたしのこころうちのおもいを もういちど
わたしに飲ませてくれます
わたしの隠れた奥のうちでうがたれた恐れのほこらから・・・・・・・・・290
かむさびた塩が ものいわぬ水を
したたらせます
どこで すがたかたちをあらわすの?
おそらくは悲しくみずみずしいどんないとなみが
にがい影から いよいよ おまえを引き出して
なみだとするのかしら
おまえは 人であり女であるわたしの階段をのぼり
わたしの生きる時間のなかで
しつこく張ったふちなわのすじを切り裂きながら・・・・・・・・・・・・295
おまえが仕事をするそののろさは わたしには
待ちきれません
おまえの しっかりした足取りを飲みながら
わたしは口づけをつぐみます――わたしの
わかさの傷つきにおまえがかけつけるのは
いったいどういうことなのかしら


でも 傷つき すすり泣き やましいおこないが
どういうことなのかしら
むごたらしい宝は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・300
のぞみを避けて 開いた指で目をおおう
この冷え切ったからだに
だれゆえに しるしづけられるのかしら
このからだは
知らないゆえに答えもしないでなのか
ただ おのれの道におののいて
くろぐろした夜の中を また
どこへゆくのかしら
かなしみの大地 藻草のただよう大地
わたしをはこべばいい やさしくはこびなさい
雪のように白いわたしの弱さも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 305
まるで罠をもとめて
あゆむのかしら
わたしの白鳥も どこを這い進み
どこで飛び立つのかしら
大地 大地のつれなさを手につかみとり
わたしの歩みは この上に
おごそかなあかしを持ちました
そして さぐり足でやってきてあかしを築き
おずおずとその生まれのちぎりを
心に引き受けようとするその足のしたで・・・・・・・・・・・・・・・・・310
堅い大地は わたしの台座にせまってきます
ほど遠からず この歩みのあいだに
わたしの絶壁が夢をみています
心なしの岩が 藻を生やしてすべすべし
わたしたちが孤独に追われるとき避けどころとなるよう・・・・・・・・・・・315
あたまをもたげてきます
風は 死に装束をつきぬけて
海鳴りでとまどいの横糸を織るかと思われます
くだけちった波や櫂の音のまじりあった海風
わたしは いくたびもしゃっくりして
あえぐ息がぶつかりあい くだけちり
ふたたび沖のほうへ運ばれていくのです・・・・・・・・・・・・・・・・・・320
だれもが投げ出されて
その運命は がつがつとして そして
がつがつとした思い出さない思い出を
ころがしていくのです


わたしのはだしの足跡を見出す人たちは
わたしを想うことをやめるでしょうか


いいから わたしをはこびなさい
藻にまみれたかなしみの大地




なぜ・なぞ の《わたし》は 生きます・・・・・・・・・・・・・・・・325
夜の明け染めるときわたしは
苦い味わいをもって わたしのなぞを認めます
やはりなぞのわたしを
現われ出た海のかがみに認めます
くちびるの上にきのうのほほえみを浮かべ
星ぼしのしるしが消えたことを ものうさそうに告げて
ひがしのほうに 光りと岩と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・330
もう青白いすじを凍らせ 水平線に浮かぶ
光りの輪の満ち満ちた捕らわれのやかたを凍らせ
わたしは見ます
寝巻きをぬいで きよらな胸は見られました
もういちど見ます
わたしの胸が あかつきを運ぶのです
まだ終えていないいけにえの ざらざらし
目覚め この敷居は甘く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・335
くっきりとしていて 暗礁が露われ出てしまった
引き潮の中で かすかに
浅瀬にのりあげた波のうねりが 洗っている
影がわたしを去り
滅ぶことのないいけにえが
わたしを思い出の祭壇のいけにえにしたまま去り
わたしはむごいすがたで立ちあらわれ・・・・・・・・・・・・・・・・・340
あらたな欲望でまっ赤です


水に泡が立って
波の肩ごとに現われる小船の上によろめきながら
永遠の漁師が現われ出ようとします
だれもが 厳かな仕事をはたして
つつましくおのれとなって現われ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・345
宇宙がほほえんで与えるめぐみの中に
心を燃えさせた墓を建て直します


おはよう バラのかみがみ 塩のかみがみ
そして若い陽のもてあそびはじめ
島じま やがて蜜蜂の巣・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・350
朝の陽で巌を赤く染められた楽園に変えられてゆく島じま
火ではらんだもう気後れしない峰みね
けものと考えごとと
大気につつまれ贈り物で満たされた人間のうたとを
ぶんぶん言わせる森
島じま・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・355
海の潮騒のなかで
押されるしるしを帯びながら処女である母
いくたりかの女神 ひざまづいたパルク
大気には花ばなが活けられ きそいあっていく
その海ごとに深く 凍りついた足に・・・・・・・・・・・・・・・・・・360
おはよう



おとなしいこめかみの下の魂の気取り
わたしの死 もうかたちづくられた秘密のことども
わたしを飛び去らせるかのような神聖な憎み
わたしの運命のきらきらしさをつつましく避けるもの
熱く気高く持ちこたえるにすぎないもの・・・・・・・・・・・・・・・・365
神がみにこれほど試みをせまられた女なら だれも
そのひたいに かれらの
うばいとっていくような息をあえて 描こうとはしなかったし
深い夜のだだっぴろさにすがりついて
いと高き唇のつぶやきを欲しがりもしなかった



わたしは すみきった死の・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・370
あざやかな飛び散りを ささえていました
かつて太陽をささえもっていたように
のぞみを断たれたわたしのからだは
はだかの胴体を押し伸ばし
たましいは 自分に酔い 映えあがる静けさに酔い
自分の想い出から逃がれ出るばかりに
のぞみをとりもどし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 375
この胸がうやうやしく壁を打つのを聞いています
胸は うちつづくなぞに叩かれ
こころを見失って
へつらうことによってやっと保ち
わたしのありか
木々の葉のこまやかなおののきとなっているのです


むしろ待つ人 待っている人が
むなしさを味わうでしょう
かのじょは 死ぬことができないのです
じぶんの鏡の前で 涙もろさをやさしさとして
泣くために泣き入るからです・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・380





狂女 でしょうか
わたしは 罰として
運命の明るさ暗さの色合いをみな
はっきりと見下すことをえらんで
わたしのとうとい勤めを果たして
いるべきだったでしょうか
わたしは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・385
こうして蒼ざめて 諦めて すすんで血を流すような
いま見つめている眼差しのうえで
なかば切り裂かれてしまったような
いけにえになることよりも
もっとすきとおった死を
そして
わたしが自分のほろびに這いつくばっている
そのもっときれいな坂道を
見出しているべきだったでしょうか
いまは秘密ではない血潮も
このいけにえに なにができるか
ということばを聞くべきでしょうか
でも このくれないの血は
心の奥にあって
人間の強さよりも強い弱さであるいけにえを
安らかな白さの中にとどめることでしょう・・・・・・・・・・・・・・390
時が来て
このいけにえを退けようとしても
この時をなだめます
しらけきらせる時も来ないでしょう
うつろなからだも
隠れた暗がりの泉に口づけているでしょう
それはそれで おのおのひとりで
迷惑をかけずにいることでしょう
わたしですか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・395
こんなさだめのわたしですか わたしは
このさだめにいつも心を近づけています
わたしの種族――喪のつらなり でも
いいとおもいます――は 精神が
糸杉とともに 揺れています
来るべきけむりのかおりに向けて
みちびかれ ささげられ やきつくされて
雲の幸福に向けられています
はい おぼろげにけぶるこの木のように・・・・・・・・・・・・・・・400
たけだけしさを少しまた少し無くしていき
このひろがりの愛に身をまかせています
おおいなる《有り》がわたしを従わせ
わたしのこころの神がみの燃えるかおりは
終わりのないすがたを息で作りだします
放射線をはなつあらゆる肉体は
わたしの有るところで
倒れようとしてふるえるでしょう・・・・・・・・・・・・・・・・・・405


でも この記憶をいら立たせることは なりません
影を負う百合
《九天の闇黒なる暗示》というのでしょうか
そのちからは こころたかき船を
やぶるにはいたりません
ただ いまのひとときに
いとたかきものに触れられています
だれが そのものに すすみいたったでしょうか・・・・・・・・・・・410
日の時間を見つめようとあくせくしているあなたは
日が あなたのひたいを輝ける塔に
じぶんでえらんだのですから


わたしの言い分は
夜が 死者の中から わたしを
どんなだまった声をつらねて
日のもとに ふたたびみちびいてきたのか
これを捜し求めること
せめて かたること
問いかけること
あなたは あなたみづからをしっていますか・・・・・・・・・・・・・415
この糸すじを本能にまでたぐっていくのです
――だから あなたの光りかがやく指が 
朝と きそいあいます――
この糸すじは きめこまやかですが
いまこの岸辺にまで手探られたなら
それによってあなたは生きているのです
抜け目なく むごたらしく いえ もっと
抜け目なく 未知への真実のうそで
ただ ですから どんな魔法が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・420
つまり あの爬虫類より出されて
わたしたちのなまあたたかい煙も
匂いやかな肉の胸のうれいも
そのおびえたようなあざむきの仕掛けを逃がれえず
わたしたちは この卑怯者の言いなりになって
かれは――かれは わたしたちの死のところにまでは
来ることがないのに――
かなしき精神をよみがえらせ
(死ぬことがないのに よみがえり)
わたしたちは かれのほこらの香水に酔っていくのか
抜け目なく むごたらしく いえ もっと
抜かりなく うそ(嘘)るのです




きのう深みをおびていたからだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・425
あるじであるからだは きのう
わたしをうらぎりました
夢にまどろむことなく 官能のさすりもなくです
つまり悪魔の鬼が その薫りが わたしに
男の首に抱きついて絶え入ろうとするあやうい想いを
あたえたわけではありません
けれども 白鳥の神が 羽根で わたしを犯して
その燃えるような白い色が わたしの想いを
かすめとっていくこともありませんでした・・・・・・・・・・・・・・430


神の白鳥は 巣の中でもっともやわらな
わたしを知りえたでしょうに
おとめの 手足のまとまりゆえに
わたしは 影のすがたで
いつくしまれるささげものであったのですから
というのも 眠りが
うるわしい大いなるものの火に燃えつき
わたしは あたまのうつろな場で
わたし自身にからんで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・435
だらけるように 神経の帝国をうしなった
というのが ほんとうです
こころの真ん中でわたしは
ちがうわたしになりました
だれもそれ以上
じぶんを離れることはありません
飛び立つことも
地の下に走り去って寝転がることも
どこで いったい きびすを返して
わたしの心は
ここに溶けてもどったのでしょう
わたしは どんなほら貝の音を聞いて・・・・・・・・・・・・・・・・・440
見失った名をおぼえたのでしょう
わたしが
わたしのきよらな果てには至っていない果てから
引き返したのは
わたしのため息がどちらに向かってひろがっていくかを
おぼえたのは
うらぎりの流れのどんな引き潮に乗って
だったのでしょうか
小鳥が羽根をやすめるように
まどろまなければならなかったのだとおもいます



それは たぶん 時間だった その中で・・・・・・・・・・・・・・・・445
心の内にひそむ占いの女が
ちからを使い果たして じぶんをほどくから
そして おなじじぶんではなくなります
心の奥にひそむ少女は
これでもか これでもかと
むなしく じぶんを守ろうとし
とうとう だめだった手をふたたび使います
冠をいただいた死者たちのねがいを聞き入れて
吐く息をじぶんの顔色だと
みなさなければならなくなります・・・・・・・・・・・・・・・・・・・450
しずかに そこで わたしが生まれるのです
わたしのひたいが
これをうべなった色をみせます
このからだ わたしはこれをゆるします

そして 灰をかじってみるのです
わたしはじぶんを
くだってゆくことの幸福に ゆだねます
黒ぐろとした証人の眼に見られて 胸に責めを受けて・・・・・・・・・・455
終わりのない じぶんのない きれぎれの
片言たちのあいだで〔身をゆだねます〕
わたしのかしこさは ねむるでしょう
このねむりの何も無さに わたしは います
芽が現われ 影をもった 罪のなさに
立ち返りました
たしかに 生きて へびに たからに
これらに 身をまかせました
ねむれ おりるのです ねむれ ねむれ・・・・・・・・・・・・・・・・460
おりて ねむれ・・・
(低き門が指環で 薄い布がとおりすぎ
みんな死んで みんなが喉では しゃべりながら笑うのは
だれもがしっています
小鳥が口の上に飲みそれが見えないのは
みんながしっています
闇は闇なのですが おりるならおりなさい
かたるなら声低くかたりなさい)



死に装束は甘く わたしの乱れは生温かく・・・・・・・・・・・・・・・465
自らを注ぎ 自らに問い 自らを委ね
心臓の鼓動を溺れさせようとした寝床
わたしの部屋に生きているほとんど墓
息をして そこに永遠の音が聞かれる
わたしのすべてを奪ったわたしに満ちた庭・・・・・・・・・・・・・・・・470
わたしのからだのからだ
わたしが自分に帰るときその一つひとつを
認めなければならなかった虚ろな熱
ここで 高ぶりは 一つひとつの襞の中に
身を沈めて
いやしい夢の底に いつしか 混じり合った
と言うのでしょうか

このような敷布のなかで 庭のなかで・・・・・・・・・・・・・・・・・・475
すべすべした庭はみづからの死を真似て
あこがれのすがたは
身をよこたえ 眠りに入るのですが
疲れ果てたあこがれの女は
眼をなみだの中にためて このとき
その秘密があばかれたなまめかしい祠は
からだが自らに守りとおして来た
愛の残りとともにはたらいて
堕ちていった自らを朽ちさせ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・480
その滅びを引き受ける最後のこころを
朽ちさせるのです
隠されたところにあって しかも身近な
方舟
その鎖を わたしは この夜
気を狂わせて 打ち砕こうとしていたのです
日の目に満ちたものを作り出すちからの
そのわきばらを
なげきながら 嘆きながら
揺らそうとしていたのです
ええ 夜空の青さに戸惑ったわたしの眼は・・・・・・・・・・・・・・・485
冷たく そこで
めづらしき星の消えゆくのを見ました
わたしの驚きのこの若わかしい太陽は
母たちの恨みを輝かすように見えました
光の炎は 悔やみの留まりを奪い
夜の明けゆくとき
すでに墓の裏打ちをかたどっていた
たっとい裏打ちを作り上げるように・・・・・・・・・・・・・・・・・・490
遥かな海の上に わたしの足の上に
太陽はうつくしく見えました
そして方舟 それはただ わたしが
あなたののぞむ女であるというにすぎず
わたしの尼すがたが蒸発して
わたしを遠ざかって行ったあとは
あなたのくにであるというにすぎません

わたしは もし生きているなら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 495
いくつもの別れを告げて
いくつもの夢をかたどったにすぎないでしょうか
もし 着物を奪われ
そのまま 憚ることなく この岸辺に
高波のしぶきを吸いにやって来て
風にむかって 活き活きとした大気のなかに
立って
海の呼ぶ声をおもてに受けるのなら・・・・・・・・・・・・・・・・・・500
引き締まった魂が息吹いて 荒れ狂うままに
逆巻く波を崩れる波の上に湧き返らせるとき
波が 岬をとどろかせて
無邪気な怪物をいけにえに祀り挙げ
遥かな沖合いの海の深みを
岩の上に吐き出そうと言って
凍りついた火の粉をほとばしらせ
飛び散った目つぶしが
ものおもうわたしに降りかかり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・505
ざらざらした目覚めが齧っているわたしの
肌の上に打ち上げられるとき
そのときは
太陽がわたしの心にやって来て自らを識り
生まれるよろこびをうつくしく力強く繰り戻す・・・・・・・・・・・・・ 510
そのわたしの心を
わたしは わたしの考えに逆らって
あがめなければなりません
その火に向かって
恵みに満ちた乳房の
かがやく友がらのもとに身を持ち上げるのは
おとめの血なのです
  
参照URL:

  1. http://www3.kitanet.ne.jp/~isi234/wakaiparuku.html(ほかの方の和訳例)
  2. http://www3.kitanet.ne.jp/~isi234/wakaiparuku2a.html(同上・つづき)
  3. http://us.geocities.com/larbaudjr/valery.htm(原文)
  4. パルクは ギリシャ神話で運命の女神・モイライ→Parcae - Wikipedia