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哲学いろいろ

国家・つづき

▲ ( J.-J.ルウソ:エミル) 〜〜〜〜〜〜
 もし 人がめざす〔* 自然および文化という〕二重の目的が一つにむすびつけられるなら 〔* 社会的な文化=経済状態にある〕人間の矛盾をとりのぞくことによって その幸福の大きな障害をとりのぞくことになる。
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 ☆ 《人がめざす〔* 自然および文化という〕二重の目的が一つにむすびつけられるなら》と言うよりは 《自然の状態とそこから磨き上げ現出させた文化の状態》との〔安易な言い方ですが〕調和ある総合をめざすこととして そのとき 《人間とその社会における矛盾》をどのように処理していけばよいかを考えるための材料を提供してみます。

 狩猟・採集・漁労の自然的な生活様式から採集の分野で 野生種の植物の栽培をヒトは初めました。農耕による生活様式です。
 ところがこの生活様式の移行にあたって 遊牧生活という様式も 例外的にではなく広くおこなわれていたし おこなわれているようです。
 アダムとエワの子どもとしての兄弟のはなしを持ち出しますと。
 ◆ (創世記4:2−3) アベルは羊を飼う者となり、カインは土を耕す者となった。
 ☆ とあります。弟が遊牧民で 兄が農耕民だと考えられます。
 その後 この聖書では
 ◆ (同上・承前) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 時を経て、カインは土の実りを主のもとに献げ物として持って来た。 アベルは羊の群れの中から肥えた初子を持って来た。
 主はアベルとその献げ物に目を留められたが、 カインとその献げ物には目を留められなかった。カインは激しく怒って顔を伏せた。うんぬん。
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 ☆ と続きますが いまはこのように神がどちらか一方にえこひいきをしたうんぬんやその後の悲劇には触れません。
 問題は ふたつの生活様式のあいだで もし共生の方式にちがいがあるならそれは何か? です。
 
 まづここでの話の大前提をのべます。それは ひとりの人に 農耕民と遊牧民それぞれの性格が同時に――潜在的ににせよ――混在しているであろうと見ることです。
 その上で考えるのですが 一方の農耕生活においては治水などの共同作業をつうじて 互いの信頼関係を培っていくであろうし じっさいたとえホンネではどうであれ 互いに甘え合うほどの依存関係を持つようです。またつぎの土地といった考えを必ずしも持たず 移動は稀なことだという思いと関連しているであろうと思われます。
 このとき 収穫は みんなの力で得られたものと考える傾きが出るでしょうし 出来るものなら一人ひとりにしかるべき配分がなされるほうがよいと考えるのでしょう。

 遊牧生活においては たぶんみづからの家族や親族ないし部族の内においては 共存共栄であるかも知れないけれど おそらくは《犀の角のように ひとり行け》と言うかの如く 互いの依存関係は弱いのだと思われます。甘えてはいけないとまで互いに言い合っているのかも分かりません。
 それでも総じては平和な民であると思うのですが 中には 農耕民の場合と同じく よからぬことを考える者も出て来るのではないでしょうか? それは 農耕民のあいだでは共同作業の和を乱すことが大きな罪だということになるのでしょうが 遊牧民のあいだでは 仲間内の《和》は――むしろその内の一人が外から被害を受けたなら報復をみなでおこなうほど強固であって――それほど問題にならないとしても 問題は よその民やその社会を襲いモノやヒトを収奪するというくせがあることではないかと思われます。
 あそこには宝物があると聞けば それが欲しくなる。とうぜんのごとく掻っ攫(さら)いに出かける。あるいは侵略してその国を乗っ取る。現代において M&A もさかんです。

 あとは手短かに述べます。
 まだ国家の成立にかかわらない段階のはなしですが 要するに 人がひとりとしては独立性の弱い状態にあって互いの依存関係が強すぎるといった甘え過ぎの問題が 一方にあり 他方には 単独分立のし過ぎとして独立性が強すぎ共生の和を知らなさすぎるという問題があるのではないでしょうか?

 後者では 自然で健全な甘えをかつてすでに歴史のかなたへ忘れて来てしまっていている。あたかも憑かれたかのように どこまでも前へ前へ外へ外へとすすむほかに道はないというところまで 《独立性・攻撃性(積極性と言いなおすべきでしょうか)》が強いと思われます。強迫観念のごとくです。

 前者・農耕民としての人間は そのように独立性に富んだ人びとが宝物の収奪競争を宇宙の果てまでも繰り広げるというその《刷り込まれ》現象を捉えて それは ちょっと待てよと言ってやるくらいの積極性を持っても おかしくない。むしろそれがふつうの積極性であるとさえ考えられます。引っ込み思案ぢゃあ 人生 おもしろくないでしょう。
 うんぬんうんぬん。