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哲学いろいろ

第七章a

全体のもくじ→序説・にほんご - caguirofie050805

第七章 子音組織の生成(§23)

音組織の生成 もくじ
§23 日本語における子音=意義素なる仮説:→本日
§24 例証1:→2005-09-15 - caguirofie050915
§25 例証2:→2005-09-16 - caguirofie050916

§23 日本文では 音素たる子音にそれぞれ意義(相認識)が伴なわれているのではないかという仮説を検討する。
23−1 たとえば

  • / h( F )・b / = 順出・順定相( ha ハ)
    • →中心主題相(ha ハ=中心主題格)
    • 〔対極相〕副次主題取り立て相;周縁部分相(ha 端; he 辺・ヘ)
    • 順出→頻出→反復・習慣相(hu 経; -hu(-bu) 倣‐フ・学‐ブ)
  • / k ・g /=反出・反定相(ka カ‐;‐カ;彼;処)
    • →関係主題相(ga ガ=関係主題格)
    • 反省・思考・疑問相(ka ‐カ〔疑問・詠嘆法〕;kä 気)
    • 移行・変化・過程相(ku 来;yiku 行ク)

などのような子音=意義素なる仮設には まず愛嬌の部分があると認めなければならない。
すべての語にあてはまらなければ駄目となるか どこまで経験的な妥当性を持ちうるかとなると 必ずしも決められないからである。また単純に言ってこの仮説は 言語経験から逆推・類推しているのすぎない。
23−2 それでも この仮説によって 子音の位置づけをなしうるかも知れない。またそうだとすれば 形態素CVにかんして 子音C=要素主題t+母音V=要素論述pであると想定することを通して 語句の形成が説明しやすくなる。
23−3 あるいは いわゆる言語記号の恣意性なる理論に対して 一つの反証を挙げうるかも知れない。すなわち 子音や母音という音素は それぞれ互いに他との差異(たとえば h≠k≠m≠n・・・)を持つことによってのみ 組織立てられるといういわゆるド・ソシュールの仮説を疑ってみることができる。
語は 一定の言語全体の中で 互いとの音素上の差異関係によってのみ 従って言いかえると そのような差異の一大体系としてこそ 成り立っているというのであれば / h /=順出相・/ k /=反出相などという子音の相認識を立てる理論は ソシュール批判の立ち場に立つ。
23−4 以上の意味あいで いまこのわれわれの仮説を提示してみたい。
23−5 とはいっても この子音が一つひとつ意義を持つという仮説は――母音の・体言における内的な格活用や用言における法活用への関与とちがって―― それがなくとも ここでの日本語論は成り立つと考える。愛嬌の部分が大きいととらえる向きは この章を飛ばしてもらってもかまわない。
23−6 これまでにも 必要に応じてそれぞれの箇所に置いて子音の相認識について触れてきたので まず初めに 全体を一覧できるようにまとめてみよう。

  • 子音の相認識――分類・その一 ――
知覚対象
一般(初発) 順定相 h haハ=中心主題格 →代理一般相 r
その強意相p / w
反定相 k ga ガ=関係主題格;           ka カ=疑問思考法
関係構造 [われ = 自身] ←――――――――――――→ [対象]
認定相 m (ma目mö身) 同定相 n (na名) →代理一般相 r
自然想定相 r (ware我レ)
指定相 s (sö其zöゾ=断定法) →代理一般相 r
不定指示相 t (ta 手・誰)
称定相 y (yaヤyöヨ呼格実定法)
自同相 ' ('iイ=事)
その強意相 w (wa我)
否定相 n (na無)
推定相 m (möモ=主題条件詞/ム=推定法補充用言)

23−7 有声子音は 一般にそれぞれの無声子音の持つ相の継続状態を表わす相と捉える。それゆえ 強調相または逆に負の意味あいで強調相・蔑称相となる。

  • sö ソ → zö ゾ (断定法・補充用言)
  • sama 様 → zama ザマ(サマがなんらかの形で強調されている)

23−8 ta- タ(接頭辞=主題条件詞)の母音交替形・tö トを濁音にして dö ドとすれば 強調相を帯びる。

  • ika-si 厳シ →dö-ika-i > dekai デカイ→ dö-dekai ドデカイ

23−9 あるいは接頭辞なしにも 

  • hökä 呆(ほ)ケ→bökä 呆(ぼ)ケ

このときの子音/ h /は 中心主題相の対極の相を担っている。取り立て主題相(hö 秀・穂)または日常の反復習慣相(hu 経)の中で 緊張がゆるんだという対極の相。

  • およそ 子音はそれぞれ 対極の相をも担うことが多い。

23−10 一般に 有声子音は 無声子音の相認識が決まったあと その継続相として意義を持つのであるから 固有には 語頭に立たない。その必要がない。
23−11 語頭に立たない子音としては 自然想定相の/ r /も 同じようである。自然想定相は 何らかの相を一般的に代理する相であることが多く やはり語頭には立たない。用言のR-派生活用のごとく 自然想定のかたちで つなぎの役割を果たす。その場合 語頭に立つことは 一般に ない。

  • この一つの傾向は 朝鮮語やそしてマンチュウ(満州)・モンゴル・チュルク系・トゥングース系などいわゆるアルタイ語族に一般的な特徴として指摘されている。

23−12 次のようにも分析しうる。

  • 子音の相認識――分類その二――
分類 子音 格知覚 相認識 継続相=有声音
一般 h 順出・順定 中心・副次中心;周縁;反復・習慣 '
(異種) ' 自同(自定・自称) '
(〃) w 特定・固定・強意 -
(〃) y 称定・実定 -
(〃) p 強勢 b
一般 k 反出・反定 思考・反省・疑問;変化・移行 g
補充 r 自然想定 自然生成(自発)・一般代理 -
n 同定;否定 属性;消滅(終了) -
m 認定;推定 確言・意思;推量 -
s 指定・肯定 再言・起動・人為・使役 z
t 不定・隔定 一回性・放出・完了 d

23−13 なお言語一般にかんして 子音は次のように分類される。すなわち子音は 母音とちがって 調音にあたって何らかの障害を与える。その障害の部位と方式にかんして さらに有声・無声 / 有気・無気 / 鼻音などの差に従って 分類されていく。

  • 言語一般にとっての子音の分類
障害の緊張点と方式 無声〔有気/無気〕 有声〔無気/有気〕 鼻音 母音化
喉・声門/摩擦 h / -(') ' / - 'N
咽頭/〃 ħ / - ' / -
口蓋垂/破裂 - /q R(仏独r) / - N
軟口蓋/〃 kh / k g / gh ŋ
〃/摩擦 x χ ŋ
唇/破裂 ph / p b /bh m
〃(歯)/摩擦 F / f v w
舌/破裂 th / t dh / d n l
〃/〔軟音〕 ŧh / ŧ đ ñ ļ//y
〃(反舌)/破裂的 ťh / ť ň r / rr
歯/摩擦 sh / s z
〃/〔軟音〕 - /ş 〔∫〕 ż〔з〕
〃(舌)/摩擦 θ ð
〃(反舌)/〃 š ř(漢)

23−14 日本語では 帯気音( -h)と無気音とを区別しないし その他 用いない音韻があるので 次のようにすっきりとした形になる。

  • 日本語における子音の一般的な分類
清音 濁音 鼻音 母音化
h / ' ' N
後舌 k g ŋ
p(F) b m w
t / ŧ〔チ〕/ ts d / dz n r // y
s / ş〔シ〕 z / dż〔ヂ〕
  • 註1:hy(ヒャ・ヒュ・ヒョ)/ ky(キャ・キュ・キョ)などの軟音を省いた。
  • 註2:p / bは Fやwをつうじて 息の音 h と互いに仲間を形成すると思われる。
  • 註3:/ ’/は 子音ゼロのばあいである。'e得=/ エ / および he > 'e へ・辺・重=/ エ /。

23−15 子音それぞれの相認識じたいについても 仮説的に次のように考えられる。
23−16 発音にあたって何らかの障害を加える子音のうち まずほとんど障害を加えず 息の音を出すのは / h /である。または 両唇で軽く(/ F /)あるいはやや強く(/ p /) 息の音をさえぎって 発音する。これが 順出相にかかわるのであろうか。そして相認識にかんして 初歩の知覚であり 一般的である。

  • ha ‐ハ・端; hi 日; hö 火

23−17 この順出相/ h /に対して 反逆を起こすのが 反出相/ k /である。喉の奥のほうで緊張点をつくり 強くさえぎって調音する。これが 反省・思考・疑問相を帯びさせるものか。

  • ka カ‐・‐カ・彼・処; kö 此・処; ki 来

23−18 息の音をそれぞれ軽く遮って調音する/ '(ア行子音)・y・w /は / h /=順定相の異種だと考える。

  • / ' /=自称・自定相
  • / w /=強意の自同相

23−19 そして/ '・w /のような遮り方ではなく 断層をつけるように調音するとき 

  • / y /=称定・実定相
  • 'önö〜'ana
  • wa 我;wo ヲ
  • ya ヤ;yö ヨ 呼格;実定法

23−20 順定相/ h /にほとんど等しい/ F・p・b /と同じように 両唇の遮りで調音する/ m /は 順出という如く 自体にかかわって認定する相だと見られる。両唇の遮りは 対象との関係においてその主体じたいのことを 自同律のごとく(=/ '・w /) しかも おさめ・引き受ける相を帯びるもののように思われる。

  • ma 目・真; mi 見; mö身

ただしその自体の認定が 単なる思い込みであるのならば 口から出まかせとなり 逆に推定相を導くかと考えられる。

  • mö モ(主題条件詞); -muム(補充用言)

23−21 これに対して 舌先と歯茎で調音するとき その子音/ n /は 遮り方が大きい。もしくは 内側の歯茎にあてた舌先のあり方によって 粘着性が現われる。これが 同定相を呼び込んだものか。

  • na 名; ni ニ(与格); nö ノ(属格)

ただし より大きく遮ったゆえ 客体のほうにかかわっていくのだろうか。しかもこの同定(na 名; nö ノ)が ついにその対極へ突き抜けてしまうなら むしろ客体の否定相が現われる。否定の形で同定するわけである。

  • na 無 ;na ナ(禁止法); nö- > nu- ヌ‐(否定法・補充用言Ⅴ連体法)

23−22 / n /と同じような調音のしかたで しかも舌先の解き放ちがより素早い子音/ t /は 客体にかかわりつつ 粘着性が少ないゆえ 不定指示相を・そして隔定・放出・完了相を帯びることとなったかのようである。

  • ta タ‐・手・誰; tö 跡・所・ト; tu ツ(完了法・補充用言)

23−23 舌先を/ n・t /と同じような位置に・ただし軽く置きつつ なおも上下の歯を閉じ 閉じ続けるのは 子音/ s /である。歯を閉じつづける形で息の音を 遮りつつ しかも出そうとするのであるから その息の音の子音/ h /の順定相が 強い指定の相( sö ソ)を伴なうものと思われる。そこから 人為相( su 為)をも帯びることになる。

  • sa・si・sö 其; -su ス(使役法の補充用言)

23−24 舌先を口の中の天井のどこかに当てるようにして調音する子音――日本語ではただ一個の――/ r /は 息の音を遮ろうとする子音一般の現われを しるしづけるもののように見られる。これが ごく一般的な自然想定相にもなれば 他の子音いづれに対しても それぞれの子音を一般に代理しているものの如く 位置づけられる。

  • -r- R‐派生活用; rä ・ra 我レ・誰レ・我レラ・子ラ

しかもそれ( r )自体は 母音のように法判断を交えることは一切ない。(母音 -a=不定相→不定法判断; -i=概念相→概念法判断; -ö=保留相→連体法判断)
補充用言・ru ル・raru ラルが 自然想定相→自発法判断を担うようになるのは 母音との結合の結果だと思われる。語となった結果だと思われる。
23−25 従って 子音には 一般的に言って 格知覚や相認識はあっても 法判断の要素はない。言いかえると 要素主題tの提示にとどまる。
23−26 このような子音の理論は 決してこじつけであるとは考えないが どこまで正面から打ち出して行ってよいものか 迷うところがある。母音が要素論述pとして 体言の内的な格活用や用言の法活用に密接に関わるはたらきを持つということで ここでの日本文生成の文法は 下支えができると思われる。けれども すでに提出してしまったのであるから(つまり そのほうが 説明しやすいと思われた) そしてまた 思想としては主体の問題にかかわって 恣意性の理論が 無主体説の一つの根拠になっていると見られるので それに対する何の反論もないというのは寂しいゆえ 次には 具体的な例証を掲げて この子音の理論をさらに検討してみたい。

  • 言語記号の恣意性の理論は 人間存在には主体というものがないと説くように見られる。

§24 子音が相認識を帯びているという仮説を いくらか例証してみる。










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