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哲学いろいろ

第二章e

全体のもくじ→序説・にほんご - caguirofie050805

第二章 作業仮説のもくじ 
§6 作業仮説(§6〜§9)の概要
§7 文の分析――格知覚および格活用――

§8 文の分析――相認識および相活用―― :→2005-09-03 - caguirofie050903
§9 文の分析――法判断および法活用―― :以下→本日
§10 作業仮説(§6〜§9)の次なる課題へ

第二章 作業仮説(§9〜§10)

§9 法判断・法活用――文表現をめぐる第三の理解形式として これらが取り上げられる。
9−1 格知覚や相認識の作業を承けて 一つの最終結論を出す際には 法判断がはたらく。
9−2 文じたいに即して見た場合 その文意のありかた(つまり発話者の判断)は 論述成分に収斂してゆく。
9−3 すなわち論述(Tn=P)が 法判断のありかと形式とを示す。
9−4 一般に論述用言に法判断が示され この用言は 判断内容の相に応じて 形態的にも 法活用をおこなう。つまり 形態の変化をおこなう。従って 

用言= 法活用x述格

のごとき中味となる。
9−5 法判断とは 判断形式の提示であり 意思決定としての一種の置きて(掟)である。または 発話者の気分( mood )。
9−6 文例での語ルという用言述格は 否定相としての法判断である語ラ−ナイとは 別であり また命令相での法判断である語レとも 異なり その他の相を持つ法判断とも区別されて 選ばれている。平叙・肯定・存続などの相を持って 存続法(終止形)に活用したという。
9−7 この法活用が 格活用や相活用とちがっているところは これら存続や否定や命令の相認識が 発話者の判断内容を提示する形式として 論述(P)におかれているからである。
9−8 たとえば 語ルという動態用言をその同義語である話スや述ベルなどと区別して選ぶのは まだ相認識の段階である。
9−9 あるいは 語ラ〔−ナイ〕 / 語レ / 語ルなどの形態のいづれも 《ことばで思いを伝える(仮りに katar- で表わすとする)》という語義そのものとしては 共通している。しかも この語義として共通なる相認識の上に 順に不定相〔−否定相〕 / 命令相 / 存続相という相認識を持つことになったのだが これら後者の相認識は そのとき発話者の格(統括機能)によって 文意を表現するための判断形式として提示されたというわけである。

  • 先走って言うならば この判断形式を表わすのは 結局 活用語尾の母音であるということになる。
相認識 法判断
(語義) (意思表示)
katar- -a 不定相→不定法活用
〃 -e :命令相→命令法活用
〃 -u :存続相→存続法活用

9−10 この法判断・法活用は 論述成分において 一個の用言(動態用言 / 状態用言)のほかに いくつかの補充用言(助動詞)を補充することによっても 提示される。
9−11 語ラ−ナイの−ナイが 否定相→否定法の補充用言である。必要に応じて 法判断の相および形式が 補充される。
9−12 このばあい 第一の用言(語ル)は 語ラという形態に活用している。語ルに対して 否定法を補充するのには 《語る》という動態の不定相(あるいは未定相・未然相)に接続するのが ふさわしかったと考えられる。不定相を表わす形態が 不定法なる活用である。不定相でよいと判断した結果である。
言いかえると 否定法を補充する補充用言・−ナイは 用言の不定法(未然形)に接続する。これが 文法である。

  • 法判断は 《置きて(掟)》である。気分( mood )でよいのだが やはり規範としての文法が形作られている。

9−13 概念法活用の語リにも 否定法はつくことができるが その場合(語リ−ナイ)には 語ルコト・ソノ存在ガナイという意味で 別の相認識となる。語ラ−ナイ=語ルコトヲシナイ。
9−14 このとき論述(P)は 論述収斂層にあっては 用言(語ラ)の述格と補充用言(ナイ)の補充述格とから成るとする。
9−15 否定法の補充用言(ナイ)じたいにも そのものの法活用がある。ナイという現代語としては その不定法=ナカラ〔−ム(ん)〕>ナカロ〔−ウ〕 / 命令法=ナカレなどである。ナイという形態が 存続法活用である。
9−16 用言にかんする法活用の生成および種々の活用組織(四段 / 一段 / 二段)の生成と体系とは 後述に従う。
あらかじめとしては 第一章の§§4−1〜4−9。
9−17 ただしこれには 基本の法活用組織があって これを概括的に述べておきたい。
9−18 法活用の形態は 語末母音などの変化によっており いわゆる四段 / 五段活用の動詞のばあいを例にとって これを 基本・第一次の法活用組織とする。
9−19 すなわち次の六類ないし七類(Ⅰ〜Ⅶ)の法活用を 基本とし それにもとづく第一次組織を例にあげる。

法活用の基本組織 第一次形態(語末母音) 四段/五段活用の例
Ⅰ 不定 -a 語ラ katar-a(未然形)
Ⅱ 条件法 -a-i> -ä 語レ katar-ä(已然形)
Ⅲ 概念法 -i 語リ katar-i(連用形)
Ⅳ 命令法 -i-a> -e 語レ katar-e(命令形)
Ⅴ 連体法 -ö-> -u- 語ル‐ katar-u-(連体形)
Ⅵ 存続法 -u 語ル katar-u(終止形)
Ⅶ 意思法 -o-< -a-u- 語ロ‐ katar-o-(未然形)

9−20 この六類(Ⅰ〜Ⅵ)は 基本として動かない。
9−21 つまりこれら六類を基本の法活用組織(Ⅰ不定法 / Ⅱ条件法 /・・・)とし かつ同じこの形態(Ⅰ -a/ Ⅱ -ä/・・・)を第一次の活用組織とする。あとは ここから第二次に別様に活用形態を組織しなおしたものが 動態用言にかんして若干ある。

  • 上・下それぞれの一段・ニ段の活用などである。

9−22 状態用言にかんしては 第一次の変則的な活用組織が 形成されている。

  • 状態用言の無シ na-si にかんして(あらかじめ部分的に) 
基本組織 法活用 変則第一次形態
概念法 無ク na-kö
連体法 無キ‐ na-ki-
存続法 無シ na-si

9−23 補充用言の法活用は 動態用言の種々の(つまり第一次および第二次の)活用組織に従うか それとも 状態用言の変則第一次の形式に従っている。たとえば

  • 否定法の補充用言 ズ -zu(<-ni-su)=一次Ⅵ存続法 -u ( -ni- は一次Ⅲ概念法 -i)
  • 〃 ズ -zu(< -ni-su<* -ni-sö )=変則Ⅲ概念法
    • この*-ni-sö-は 基本一次Ⅴ連体法(-ö-)であり それが 変則的にⅢ概念法に用いられたのではないかと見られる。連体法=準体言が 初めは文中に絶対格で提示され これが 体言相当の概念法形態として扱われていったという見方である。
  • 〃ヌ -nu-(< -nö- )=一次Ⅴ連体法
  • 〃ネ -ne(< -nä-i< -nä< -na-i) =一次Ⅱ条件法( -ä)
  • 詳細は後述。

9−24 基本六類(Ⅰ〜Ⅵ)の法判断を補充するさまざまな法判断は さらに新しい補充用言を形成して それらによって提示されていく。
9−25 論述(Tn=P)が 論述主題(Tn)として体言(準体言)によって表現されるばあい その補充用言の例として。

  • (1)断定法の補充用言:ナリ・ゾ・ダ・ノダ
    • 語ル(一次Ⅴ連体法-ö- /=準体言)−ナリ
    • 語リ(一次Ⅲ概念法 -i)−
    • 語リ(Ⅲ -i)−
    • 語ル(Ⅴ -u-)−ノダ

9−26 その他の例としていくらかを かんたんに。

  • (2)条件法の補充用言:
    • 仮定条件相:語(Ⅰ -a)−バ
    • 既定条件相:語(Ⅱ -ä)−バ
    • (現代語で仮定・既定を混同)→
    • 語ル(Ⅴ -u-)−ナラ
    • 語ッ(Ⅲ katar-i)−タラ
  • (3)否定命令(禁止)法の補充用言:
    • (論述条件)−語リ(Ⅲ)−
    • 語ル(Ⅵ -u)−
    • 語ッ(Ⅲ -i)−テハナラナイ
  • (4)可能法の補充用言:
    • 語ラ(Ⅰ -a)−。/ 語(Ⅱ -ä)−。(現代語ら抜き形)
    • 語リ(Ⅲ -i)−ウル
    • 語ル(Ⅴ -ö-)−コトガデキル
  • (5)可能義務法の補充用言:
    • 語ル(Ⅵ -u)−ベシ
    • 語ラ(Ⅰ -a)−ネバナラナイ
  • ・・・etc. etc.

9−27 ちなみに テハナラヌ(禁止法) / コトガデキル(可能法) / ネバナラヌ(義務法) などが それぞれその合成語の形で 一個の補充用言だと見なすのがよい。

  • ちなみに このように用言の複合形を相活用し転用したとすれば 補充用言の法活用は 動態用言(動詞)のそれか もしくは 状態用言(形容詞)のそれに従うのは 当然である。
  • 必要に応じて新しい法判断をになう新しい補充用言が 形成されていくものと思われる。

9−28 基本・第一次の法活用組織(Ⅰ -a/ Ⅱ -ä/ ・・・/Ⅵ -u)を想定しておくと 母音にかんして その交替変化がそれぞれどのような相認識を帯びているかを 仮説することができる。(§§4−1〜4−9)

語末母音 相認識→法判断(法活用)
-a 不定相→不定法(一次Ⅰ)
-i 概念相→概念法(一次Ⅲ)
保留相→連体法(一次Ⅴ)
  • 母音/ ö /は / オ /か / ウ /の発音に変化したと思われる。起源がわかる形で示すと 母音によって格知覚・相認識・法判断が識別しやすいので そうすることとしよう。
  • nögö-hu→拭(ノゴ)ふ→拭(ヌグ)う。

9−29 もし母音の相認識をたとえばこのように仮説できれば 形態素CV(=名辞または無格体言)が 子音Cと母音Vとに分けて捉えられたことになるから 子音のほうに関しても子音だけの相認識を想定する仮説へも進みうるかも知れない。
9−30 否定命令法(語ル−ナ!)の補充用言・ナが 母音( -a=不定相・不定法)と子音( n-)とに分かれるとするなら この子音 n は それじたいで一般に否定相を帯びているかも知れないといった疑いである。
9−31 疑問法(語ル−カ?)の補充用言・カについても その子音 k は――この文例のままで 詠嘆法にもなることを考え合わせるなら―― 疑問・思考の相を帯びているのではないか というようにである。
9−32 その子音 k の濁音 g については 関係主題格(T2ガ)に用いられていて それは 疑問・思考相とかかわって 反出・反定・反省などの相にもつながっているのではないか というように進められていく。

  • 第一中心主題格ハを承けて その主題にかかわる関係第二主題を提示することは 内面における思考(認識)の過程に 折り返しが生じている。これは 反出・疑問などの相を帯びている。

9−33 すなわち 中心主題格(T1ハ)の子音 h(F) が あらかじめながら 順出・順定の相とつながっていないかと疑われる。これ( h;F )は 概して 息の音である。
9−34 法判断・法活用について 以上のように考えられる。課題は 追って 追求していきたい。
§10 作業仮説(第二章§6〜§9)の小さなまとめとして。
10−1 その理解形式(文法範疇)は 一般に 格活用・相認識・法活用である。

  • 相認識は 言葉の表現にかんして 基礎となる。格知覚や法判断はそれぞれ 格活用と法活用とに織り込み済みの内容として 捉えられるようになる。

10−2 語句の生成は 品詞分類として整理し得た。(§§8−20)
10−3 語の生成を 母音および子音という音素の観点から捉える課題を残している。
10−4 用言の法活用組織を整理し 明らかにしていかなければならない。
10−5 そのことと合わせて 語の生成は 形態素 CV の名辞=無格体言化から出発すると見ている。そのように派生するのではないか。
10−6 文の生成をさらに捉えなければならない。無格体言が主題として次々に絶対格に提示されていく始原相の形式=T1+T2+・・・+Tn=Pを想定する。
ここから出発し これを T1ハT2ガT3(=P)のかたちで三項展開させるとき さらにこれが AハBガCの基本文型となったと見る仮説である。これをめぐって 検討を進める。
10−7 すなわち特に AハBガCの文型を前提して 一般的な生成にかんする文の構造を かんたんな言語類型論のもとに 整合的なかたちに捉えることが ここでの締めくくりの課題となる。