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哲学いろいろ

第五章

全体のもくじ→序説・にほんご - caguirofie050805

第五章 母音組織の生成(§15)

§15 ここでは母音組織の成り立ちをとらえよう。
15−1 まず 体言の内的な格活用という現象について 前章からの議論をさらに継ごう。
15−2 この現象を 末尾母音がになっているから あらためてその母音の分類を再検討する。むろんすでに 用言の法活用の基本・第一次組織(〓〜〓の六類および〓)の観点をも交えて捉えたい。
表にまとめた。

  • 《体言の内的な格活用と 用言の法活用とにかかわる 母音の変化》
末尾母音 相認識→体言 法活用=用言
〓-a 不定相→無格(ha ハ)/ 名格(ha 端) 不定法: hakar-a 計ラ
〓-ä<-a-i 已然相→名格( hakä〔水〕ハケ 条件法 : hakar-ä 計レ
〓-i 概念相→名格( hahaki 箒) 概念法: hakar-i 計リ
〓-e<-i-a 主観要請相→? 命令法: hakar-e 計レ
〓-ö- 保留相→無格(hö 火; hak-ö-bi運ビ; hör-ö-bi 亡ビ/ 名格(hö穂) 連体法: hakar-ö- 計ル‐
〓-u 存続相→? 存続法: hakar-u 計ル
〓-o<-ö-a/-a-ö 確保相→? 意思・推定法: hakar-ô計ロウ< hakara(〓)-mu 計ラム

15−3 もう一例 自体の認定相の子音/ m /の形態素 mV について見てみよう。

  • 《母音変化による体言の内的な格活用とその体言による用言の形成》
名辞mV 体言 →用言の形成
〓 ma 目( ma-sa 目サ=正) ma-gV(一次〓=)覓ギ(探し求める);masa-si(変則〓=)正シ
真( ma-rö真ロ=丸) marö-mV(二次〓=)丸メ
-マ( haka-ma 穿カ‐マ=袴)
間( hasa-ma狭サ間)
〓 mä 目・芽 mä < ma-i mä-kV>mekV(一次〓=)‐メキ(〜の如く見える。〜の如くなる)
〓 mi 霊(山ツ霊 mi) mi-rV(二次〓=)見ル
〓 me 〔雌・女 me < mä-i?〕 〔me-sV(一次〓=)見シ・召シ;飯←mi 見の使役相・尊敬相〕
〓 mö 身(ム‐クロ=身躯;モ‐ヌケ=身脱ケ・蛻) mö-rV(一次〓=)守リ;(一次〓=)盛リ・杜〔充実相〕;(二次〓=)漏リ〔対極・欠落相〕
〓´m ï 身・実 m ï < mö-i;神 kam ï < kamö-i m ï-narV/-nörV(一次〓=)実ナリ/実ノリ
〓 mu 〔mö>mu 身; kamö>kamu 神〕 -mu(一次〓=)‐ム(意思法・推定法の補充用言)
〓mo < mö-a/ < ma-ö momo 腿 mo-yV(二次〓=)萌エ(芽が出る);hage-ma-mu>hagemô 励モウ

15−4 語の生成の例を追加しておきたい。あえて 推測をも交えて次のように仮説して。

  • mö 身(モ/ム)の孕む相認識

〓 身体・自身
〓 自体の充実性・集合性
〓 対極として欠落性

  • 《mö 身(モ / ム)》からの語の形成
    • m¨:/モ・ム/→モ(身)抜け=蛻け;ム(身)クロ(幹)=骸・身
    • (註)動態用言は 〓概念法形態で 状態用言は 〓存続法形態で それぞれ示している。
  1. mö-i > m ï 身(み)〔概念相(-i)で確定させた形〕
  • mö-ki 向(む)キ〓→muka-hi 向カヒ;muka-hä迎へ
  • mö-ki 剥(む)キ〓
  • mö-gi 捥(も)ギ〓 (/ k・g /は反出・反定相)
  • mö-si 若(も)シ〓(《それ自身(mö)である(si)〔とせよ〕》=論述条件)
  • mö-si 生(む)シ〓(《自体の充実性の動態》)
  • mö-tö 本・元(もと)〓(/ t /は不定指示相・隔定相)
    • mötö-mä 求(もと)メ〓
  • mö-nö 物(もの)〓(/ n /=客体の同定相)
  • mö-hara( > moppara) 専(もは)ラ〓
  • mö-mi 揉(も)ミ〓
  • mö-rö 諸(もろ)〓(《両方の・多くの》)
  • mö-rö-si 脆(もろ)シ〓
  • mö-rä 群(む)レ〓(/ r /は自然想定相・自生相)
  • mö-ra 村(むら)〓
  • mö-ri 盛(も)リ〓→杜・森
  • mö-ri 漏(も)リ〓
  • mö-ri 守(も)リ〓(あるいは mö が ma 目・mi 見と共通相か)

15−5 用言の法活用組織については 次章へつなげたい。
15−6 いま分かっている法活用形態は 次のようである。

  1. 基本・第一次の法活用組織:いわゆる四段活用の動態用言および補充用言など
  2. 基本・第二次の法活用組織:上一段・上二段;下一段・下二段の動態用言および補充用言など
  3. 変則の法活用組織:状態用言(変則〓存続法=-si など)

15−6−1

第一次(四段) möku 向ク möru 守ル mösu生ス
不定法 -a (未然形) muka möra musa
〓条件法 -ä (已然形) mukä mörä musä
〓概念法 -i (連用形) muki möri musi
〓命令法 -e (命令形) muke möre muse
〓連体法 -ö-(連体形) mukö- mörö- musö-
〓存続法 -u (終止形) muku möru musu

15−6−2

第二次 :上一段(見ル) 上二段(滅ブ) 下二段(萌ユ)
二次〓=〓 mi höröb ï moyä>moye
〃〓 mirö-見ル- höröbörö-滅ブル- moyör-ö萌ユル-
〃〓 miru höröbu moyu

15−6−3

変則・法活用(状態用言) 正(まさ)シ〔シク活用〕 丸(まろ・まる)シ〔ク活用〕
変則〓 masa-sikö > 〃-siku marö-kö > 〃-ku
〃〓 masa-siki- marö-ki-
〃〓 masa-si marö-si

(註)欠けているところは 追って取り上げていきたい。
15−7 従って 言いかえるなら 母音の交替は 体言の無格 / 名格にかんする内的な格活用にかかわるとともに それだけではなく 用言の法活用にも 密接にかかわっていると言うべきであろう。法活用の基本六類(〓〜〓)とそれにかんする種々の活用組織〔第一次 / 第二次(数種) / 変則〕の形成に 主要な役割を果たしていると考えられる。
15−8 もう少し言えば 特に用言の第一次の法活用組織(〓-a不定法 / 〓-ä条件法 /〓-i概念法 / ・・・すなわち四段活用)は このそれぞれの母音の相認識が 体言の内的な格活用に対応していると言ってよい。

  • 用言の〓概念法 -i ( 向キ ) ⇔ 概念相にて体言の名格 ( 向キ )
  • 用言の〓不定法 -a ( 向カ‐ズ ) ⇔ 不定相にて体言の無格 ( 向カ‐シ=昔 )
  • 用言の〓連体法 -ö- ( 向ク‐時 ) ⇔ 保留相にて体言の無格 ( 向ク‐イ=報イ )

それゆえにも 四段活用(向ク;守ル;生ス)を 法活用組織として第一次と仮説している。第二次や変則の活用組織は 第一次から しかるべく再編成されて出来上がったという説明に従おうと考えている。

  • (註)昔:《ムカ(向)とシ(方向)の複合か。回想がそこへ向かって行く方向。すなわち 伝承や記憶の中で生きている一時点として過去を把握した語。・・・》(大野晋
  • 報い:《ムク(向)とイとの複合か。イは もの・ことの意の古語。自分への相手の行為 また 相手への自分の行為に対して ちょうど正面から向き合うような事の意。名詞が先に出来て 後に動詞化した語であろう。・・・》(大野晋
  • 無格の《向カ(不定相)》および《向ク(保留相)》とも 独立して用いられてはいない。

15−9 ここまでを見ておいて 母音という音素について考えていこう。
15−10 たとえば 形態素 CV にかんして 子音 C=要素主題t そして母音 V=要素論述p と仮説したこと それは 何故か。
15−11 それは 要素論述pとして 広義に法判断にかかわっている。すなわち 体言の内的な格活用や 用言の法活用に その形態変化として=つまり母音交替として かかわっているのだと考えられる。この点をさらに検討していきたい。
15−12 そもそも母音は その調音(発音)にあたって 喉から口の中を通って外へ出るとき そこには何の障害も受けない。しかるに 子音は 受ける。

  • たとえば 子音/ p /は両唇において また子音/ t /は舌先を歯茎にあてることによって それぞれ 発声に障害を与える。

15−13 言いかえると 母音は 口の開きや口の中の緊張点のありかによってのみ調音する。
15−14 従って一つには 発音にあたって何の障害も受けないという事態が 一つの前提となる枠組みを作ってのように あたかも法判断の提示ということに つながっていくのかも知れない。その法判断の枠組みの中に さまざまな相認識を持った子音を 位置としては先行させつつ 受け止めているとも考えられる。位置としては先行というのは 日本語の形態素CVで 子音Cが母音Vよりも前に来ることである。

要素主題t(相認識) +要素論述p(法判断)
’- -a / -ä / -i / -ï / -e / -ö / -u / -o
k-
s-
t-
n-
・・・

従って もう一つにはここから 口の恰好にかんする緊張の仕方が それぞれ具体的な法判断のあり方を決定するようになったのではないか。
15−15 もっとも法判断も その基礎が 相認識にあって このことは 子音にも共通している。すなわち逆に言いかえると 子音は その相認識が 要素主題tの提示までであって 法判断にはかかわっていかない。
15−16 たとえば 口の真ん中あたりに緊張点(もしくは むしろ非緊張)をおく母音/ ö /は 従って――物理的自然としても―― 保留の相を帯びることになり それに応じた格(つまり無格)や法活用(つまり接続用法=連体法〓-ö-)につながっていったのではないか。
15−17 さらにその緊張点が口の奥へ移って母音/ u /となれば――この母音は まだ触れていなかったが―― 存続の相(→存続法〓-u)を示すということになる。保留相(-ö-)の内容が深まるという意味である。

  • たとえばこの母音の重複(-ö-ö )が合成された形態(-ö-ö > -wö > -u )で 存続相を表わす母音(-u )が形成されたとも考えられる。
  • 体言での存続相の母音( -u )は 保留相( -ö )がそのまま発音じょう変化したと仮説した。

15−18 口の中の底に緊張点を置き できるだけ大きく口を開いた母音/ a /は 初めの直接的な・対象にかんする格知覚としての相を提示し その不定相のもとに 体言では不定相の無格 用言では不定法活用(〓 -a )につながっていった。

  • / a /なる音素は 対象との関係の初めの段階で・つまり必ずしも認識のないままの状態における知覚の段階で 一般に発する母音だという意味である。
  • その知覚段階としての母音/ a /から その格知覚の内容を保留するのが / ö /だと考える。
  • そのあと 認識を確定させたところでは 概念として判定したわけだから 概念相の母音/ i /が来るという推理である。
  • つづく次の議論では 保留相と概念相との順序を 逆にして捉えている。

15−19 不定相・無格( -a )や保留相・無格( -ö )とは異なりそれらの或る意味で中間にあって 独特で明確な一個の母音/ i /は 口の開きや緊張点のことを別としても 何らかの一定した相認識を持つものとして決められたと考えられる。これは 語としても i=イそのもので 《こと・もの・それ》を表わす無格体言を形成している。或ル‐イ‐ハのイ。
15−20 ここで 仮説としては 初めに三つの母音( a / i / ö )があったと想定する。
15−21 これらを 格・相・法の三段階に無理にでも当てはめてみれば 仮りにその母音だけについてその絶対表出を捉え その過程を次のように想定することもできる。

  1. 格知覚 -a :初発の知覚のまま 不定の相でともかく捉えた状態
  2. 相認識 -i :一定の概念の相へと進めた状態
  3. 法判断 -ö :むしろ法判断をしないで保留し記憶にとどめる状態

(註)§15−18での順序とのちがいについて:法判断は 保留という判断としてでも 格知覚から相認識への過程で 一旦 介在しているであろうという考え方である。以後は 母音として言えば 〓 -a 〓 -i 〓 -öという順序を基本とすることにしたい。
15−22 もう少し言語経験としての事実に即して分析するなら 次のように考えられる。

母音〔としての絶対表出〕 内的な格活用 相認識 法活用
格知覚の局面 -a 不定相・無格 初発の直接的な知覚 不定法〓
相認識の局面 -i :名格 概念認識 概念法〓
法判断の局面 -ö :保留相・無格 判断保留 連体法〓
  • 連体法というのは 主題条件をつくって 主題体言へ接続するという用法である。ゆえに やはり 結論を保留した状態にあると言えるように思われる。
  • この母音は 歴史的に言って いつまでも あいまい母音/ -ö- /のままではなく / o または u /に分かれて確定されていった。わけであるが この/ ö /の表記を用いることによって 保留相や連体法の語尾を識別しやすいようにしたいという意図がある。

15−23 体言の内的な不定格活用( -a )と保留格活用( -ö- )とは 直接知覚したもの(-a)が 判断保留され記憶におさめられる(-ö)という関係で 互いにつながりを持ち 一般に交替しやすい。

  • 目 ma 〜 mö 身
  • 端 ha 〜 hö 穂
  • 手(方向) ta 〜 tö 跡・所・ト(引用格)
  • 彼・処 ka 〜 kö 此・処

体言としては おおむね 無格(非独立形)を導き出すと見られる。
15−24 体言としての名格( -i )と用言としての概念法活用(一次〓 -i )とは形態としても 相認識のあり方としても 概念相が通底していると言ってよい。

  • ma 目・真; mö守〔リ〕 〜  mi 霊・見
  • ta 手;誰; tö 所 〜  ti 道・血・霊
  • ka 日; kö 日 〜 hi 日・霊

15−25 このあと――仮説としては―― これら三母音( a / i / ö )から 言語習慣上の必要に応じて 母音はいわば二次的な絶対表出をおこなったと考える。二個の母音が互いに掛け合わさってのように=すなわち 要素論述pどうしで p1xp2(たとえば a x i →ä )としてのように 新たな別種の母音を形成した。
15−26 たとえば 次の例のように。

  • 手 ta → ta-i > tä 手
  • 目 ma → ma-i > mä 目
  • 彼・髪 ka → ka-i > kä 気・毛

これ( -a-i > -ä )は 体言を無格から独立名格にしたいという判断がはたらいている。
15−27 同じように無格体言の名格化として 次が考えられる。
《 -ö-i > -ï 〔 > -i 〕》という新たな母音形成の例

  • 箇 tö(ツ)→ tö-i > t ï > ti 箇(チ)
  • 身 mö → mö-i > m ï 身・実
  • 木 kö → kö-i > k ï 木
    • (註)ただし 箇(ツ・チ)は 保留相のツのほうが広く用いられている。
    • この母音/ ï /は――用言の法活用では 〓 -i=概念法に並べて 〓’-ï=概念法としたが―― 日本語では すべてと言ってよいほど 概念相の母音/ i /に吸収された。
    • したがって――必要な限りで この/ ï /の表記を用いるが 考え方としては 〓概念法( -i )を基本として そこに含ませるかたちで扱っていくつもりである。

15−28 さらにもう一種 -ö-a > -o  または -a-ö > -o という名格化としての母音形成があった。

  • 所 tö → tö-a > to 所・戸・外
  • 身 mö → mö-a > mo → momo 腿
  • 穂・秀 hö → hö-a > ho → 頬
  • 此・処 kö → kö-a > ko 子・小

15−29 用言の法活用のほうでの母音変化にかんしてはあと回しとして この母音の二次的な絶対表出(単母音→二重母音→合成母音)は 次のようにまとめられる。

母音の第二次絶対表出 格活用 相認識 法活用
a-i > ä 名格 已然・客観指定 条件法〓
i-a > e 要請・主観指定 命令法〓
ö-i > ï〔> i 〕 名格 名格概念化 概念法〓
ö-a > o 名格 意思確保・属性指定
ö-ö > wö > u 存続・肯定・承認 存続法〓

15−30 合成母音 ö-i > ï 〔 > -i 〕は もはや原形概念相の母音( -i )へ移行する一筋の道しかないから ここでは特には取り上げない。ただし 用言の第二次・法活用の形成には この場合が大いにかかわっている。
滅ブという用言にかかわって hö-rö-bö ホロボという無格名辞を仮想するとき ホロは ホロホロ・ホロリ・ハラハラ・ハラリ・パラパラというように分離・崩壊の相につながっており ここから höröbö-si=滅ボシ(一次〓)という用言を得る。そして同じく 滅ビ(二次〓・二段活用)という用言も höröbö-i > höröbï という経過で得られたものと思われる。だから 二次〓連体法が höröbö-rö- > höröbu-ru-=滅(ほろぶ)ル‐という形となる。
15−31 已然相・既定条件相の名格・また一次〓条件法活用となる合成母音 -ä < -a-i が なぜ客観指定相であるかといえば 概念相の名格・また概念法(〓 -i )が この絶対表出の限りで あたかもその法判断を締めくくっているからである。
つまり 要素論述p1= -a なる不定相を p2= -i で 概念相に置き直した。これは 単なる概念相(つまり -i のみ)ではなく 不定相( -a )を重ねて条件づけるわけであるから その条件づけなる特定は 已然相=既定相を帯びるようになる。その意味で 客観指定相だと推定した。

  • 単一なる不定相( -a )でも 動態用言であるならば それ自体にも 動態概念相(たとえば 〓不定法 muka 向カの 《向く》という行為の相)は すでに帯びている。

15−32 ただし 客観といっても あくまで主観=話者格の法判断であるのだから その範囲での相対性を免れるものではない。従って 已然相(已然形=〓 mukä-ba 向ケ‐バ)も 〓既定条件法であるに限定されず 現代語では 仮定条件法にもなりえている。
15−33 仮定条件法は もともと〓不定法( muka )から派生していた。

  • muka(向カ=〓不定法)-mu-ha > mukamba > muka-ba 向カバ
    • muka-mu 向カ‐ム(推量法の補充用言ムの〓連体法)の複合で 仮定条件の相を出している。
  • 急ガ(〓不定法=仮定条件相)‐バ 回レ。

(註)補充用言ムの推量の相を活かすためには 用言の〓不定法に活用したその不定の相に接続するのがよい。英語の助動詞が一般に 不定詞を要請するのと同じである。(仮定法や条件法の問題とは また別であるが。)
15−34 命令法活用(一次〓 -e )となる母音 e < i-a は すでに名格( -i )にあるものを 不定格・不定法(一次〓 -a )に置こうとして締めくくるのであるから それはあたかも何らかの名格体言( -i )なるものを ともかく目の前に(意識の上に)出そうと・あるいは 出して欲しいということだと捉えられる。
これが 言語表現の社会的な文脈から(つまり 話者と相手との関係やその生活上の習慣から) 話者はその相手に対して 何らかの形でそのものに注意を促し そのことを要請しようとしていることだと見なされた。ゆえに そのような主観指定相で 用言にとっては命令法判断として 定着したかと思われる。

  • muki(〓概念法)-a(ある種の不定相) > muke 向ケ(〓命令法活用)

15−35 保留相( -ö )を二つ重ねる合成母音 ö-ö > wö > uという想定は ともかくそのもの( -ö )が 記憶や意識に存在し( ö ) そのことが目の前に存続していることを承認しようとする恰好である。
15−36 体言に関して保留相・無格( -ö )を名格にした合成母音 o < -ö-a は 用言の法活用には=つまりその語幹末母音としては 現われないと思われる。あるとすれば (1)ö > o というように単純にそのまま派生したか または (2)〓不定法の活用で推定法の補充用言(ム -mu )を従えた時の形態〔isöga(急ガ〓不定法)-mu > isögaM(=ng) > isögau > isögô 急ゴウ〕として=すなわち -a-u > -o として現われたかである。
15−37 用言の命令法(一次〓 -e < -i-a )と存続法(〓 -u )のそれぞれの母音( -e / -u )は もともと体言の内的な格活用(=末尾母音)には現われなかったと推測される。
体言(モノの相じたい)には 主観指定相( -e )や存続相( -u )は 必要ないと考えられるから。したがって (1)一次〓条件法=つまり已然相の名格( -ä )から -ä(=-a-i) > -ä-i > -e としてのように 重ねて概念相の母音( i )を添えて 広いエ(ä)から狭いエ(e)へ変化した場合と (2)〓連体法=つまり保留相の無格( -ö )から 単純に -ö > -u となった場合にのみ それぞれ現われたのだと見られる。
15−38 日本語の母音は これらつごう八種でまかなったと考えられる。唇のかたちや 口の開き具合いについて記し難いが 次のように。 

i ・・ ・・ ï ・・ u :口の上層
e ・・ ö ・・
ä ・・ o
a :口の下層

15−39 これで母音組織の生成についてを ひとまず終わり 次の用言の法活用組織の分析・整理に進むことが出来る。
15−40 それを次章に継ぐとすれば この章でもう少し 母音の交替変化が 確かに その相認識を同じくしつつ 成り立っていることを捉えておきたい。一定の形態素において 子音が同じであれば 母音の交替によって 意味合いを変えつつ しかも 大筋で同類の相認識(語義)のもとにあるということ。
15−41 ここでは 称定・実定の相を持つと仮定する子音/ y /を取り上げよう。
15−42 子音/ y /は その称定に発話者の何らかの好感が伴なわれていたのだと考えられる。

〓(語幹末母音 -a ) 〓(語幹末母音 -ö )
ya ヤ;八(聖数) yö ヨ;四(聖数)
ya-ya 稍(《いかにも事の度合いが進みつのるさま》) yayö ヤヨ(呼びかけ)
yi-ya 弥 yi-yö 愈(イヨイヨ)

15−43 ここからの限りで 用言の生成をも捉えるなら。

  • 〓ya
    • ya-si ヤシ(?)(愛シケ‐ヤシ)
    • ya-ri 遣リ(《構わずに先へ進める。どんどん行かせる》大野)
  • 〓 yä > ye
    • ye-si 良シ
    • ye-ri 択リ
    • ye-ra-bi 選ビ(良きものを取り出す)
  • 〓 yö
    • yö-si 良シ
    • yö-ri 寄リ・依リ(好感の対象へ近づく)
    • yö-bi 呼ビ

15−44 《イヨイヨ(愈)というように 度合いの進む過程の中で その一段階・一期間を捉えた相》を称定・実定するならば 次の体言などを得る。

  • 〓 yö
    • yö 節(竹の節);代・世(一世代・一生という一期間)
    • yö-hö > yuhu 夕(一日という期間に関連して)
  • 〓 ya
    • ya-mi 闇
    • ya-mi 止ミ(一段階の終わり)
  • 〔〓 yö
    • yö-si 止シ〕
  • 〓 yo
    • yö-a > yo 夜
      • yo-rö > yoru 夜
      • yo-hi 宵
  • 〓 yi
    • yi > i 寝(い)・睡眠
    • yi-mä / 〔yö-mä > 〕yu-me 夢

15−45 《一段階の終わり》〔止(や)ミ・止(よ)シ〕 の相をめぐって さらにその結果や状態が実定されるならば。

  • 〓 ya
    • ya-sö-si 安シ
      • ya-sö-mi 休ミ
    • ya-ha-si 柔シ
      • ya-ha-ra-ka 柔ラカ
    • ya-sä 痩セ
      • ya-sa-si 優シ
  • 〓 yö
    • yö-kö 横
      • yö-kä 避ケ
    • yö-wa-si 弱シ
      • yöwa-ri 弱リ

yökö 横は 好感ではなく逆にむしろ邪悪(yökö-sima)な評価を帯びている。これは 対極の相だと思われる。
15−46 再び《一段づつ進む・つのる》の相で 用言としては。

  • 〓 yö
    • yö-mi 読ミ(一つづつ数える)
    • yö-ri 縒リ
    • yö-ri 揺(ヨ・ユ)リ

15−47 次の語例は 《一定の段階や範囲の内での距離にかんする動きや その果てまでへの到達》の相が からむものであろうか。

  • 〓 ya
    • ya 矢
    • ya-ri 槍
  • 〓 yi
    • yi 射(い)
  • 〓 yö
    • yö-mi > yumi 弓

15−48 子音の問題としては これまでにまとまって次のものを検討したことになる。
後半の三つは これからの検討課題である。

子音 その相認識
’(ア行子音) 自同相(§11−28)
h 順出相(§11−3〜21/ §14−10〜16)
m 自体認定相(§15−3〜4)
y 称定・実定相(§11−22/ §15−41〜47)
n 同定/ 否定相(§24−4〜28)
s 指定相(§25−12〜16)
sV-kV / sV-gV 〔k=反出・思考・疑問・変化相〕(§25−1〜10)