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哲学いろいろ

第一章 あらまし(d)

全体のもくじ→序説・にほんご - caguirofie050805

第一章 あらまし

第一章の目次
§1 文
§2 文の成分

§3 文の要素:語:2005-08-09 - caguirofie050809
§4 言語表現の素材:音素:2005-08-10 - caguirofie050810
§5 文の生成と構文:本日

§5 文の表現をめぐって その生成は 主題(T)の羅列(中立的な意味で)による提示形式に発すると想定する。
5−1 たとえば 

T1+T2+T3+・・・+Tn(=P)。

または 論理的な意味にかんする格関係を 主‐賓‐述の三項展開で捉えておくとよいとするなら その限りで

T1+T2+T3(=P)。

を生成の形式とする。
5−2 これを日本文に従って 

Aハ Bガ C。

の基本文型として捉える。

  • 三項展開であるゆえ たとえば英文の S‐V‐O構文を満たすことが出来る。また その構文に対応させやすい。

5−3 言語表現にかんする一般的な文法(規範)は 文にかんしてその構成がどのように生成してくるかをめぐってであるならば いまの生成の形式〔T1+T2+T3(=P)ないし基本文型(AハBガC)〕によって ほぼ説明がつくと思われる。この視点でのかんたんな言語類型論を いくつかの言語についておこなうはずである。
5−4 S-V-O構文を基軸とすると言っていい英文などは 主題格(Aハ=中心主題格 あるいは Bガ=関係第二主題格)の提示層を もはや失くしてしまった場合であると考えられる。
ただし 論述主題格C=《用言述格X法活用》の成り立ちは――文であるからには―― 保たれる。
5−5 便宜上 次の二文を同義と見なしてよいとすれば その分析は以下のように捉えられる。

  • 〔1‐JPN〕 英語ハ 彼ガ 語ル(話ス)。
  • 〔1‐ENG〕 He speaks English.
基本文型 Aハ Bガ
〔1-JPN〕: 英語ハ 彼ガ 語ル。
主題提示層: 中心主題格 関係第二主題格 論述主題格
〔英語ニツイテ言エバ 〔ソレニ関係シテハ彼ガ〕 〔語ル〕〔存続法活用(-u)=平叙・肯定相〕〔直説法・現在時制〕
X・・・〔katar-u / speaks〕
論述収斂層: ‐対格(O)‐ 主格(S)‐ ‐述格(V)
〔英語ヲ / English〕 〔彼ガ / He〕 〔katar-=《言葉に表わす》 / to speak〕

5−6 AハBガCの基本文型は S‐V‐O構文をその内に含むと言える。
5−7 もしくは 史実に関係なく説明のうえで言うとすれば S‐V‐O構文の文法は AハBガC文型という生成始原相に近い文法から 主題格(第一中心と関係第二と)の提示という形式を 消滅させて出来上がったものである。
かんたんに言えば 論理的な意味関係をになう論述収斂層の一本で独立しており いわば一本の直線的な意味関係=格関係から成り立つようになっている。

  • 主題格の提示という観念が構文として ないゆえ 一つひとつ主題ごとに文意をになうような格活用は要らない。その代わり 語順が決まっている。

5−8 世界の言語の中には 能格構文という文法を持つものがある。カフカース諸語バスク語などである。
この構文は あたかも AハBガC文型とS‐V‐O構文との中間に位置するかのごとくである。
5−9 すなわちそこでは 中心主題格(Aハ←T1の絶対的な提示)を 絶対格ないし中立格として保ち 関係第二主題格(Bガ←T2の絶対提示)を 関係格ないし能格(ergative)として 一つの変種のもとに形成している。
または――つまり逆に言って―― 論述用言C の成り立ちが違って来ている。用言述格X法活用というあり方に従うことは言うまでもなく一般的にして当てはまるが そのほかに すでにその述格用言C一個のうちに 主‐賓‐述の三項から成る格関係を――したがって文全体としては重複するかたちで――表示する形態を採るようになっている。
これは――つまり述格(V)のほかの主格(S)・賓格(O)にかんしては―― 代名詞(代名接辞:S´・O´)を用いて表わしているのであるが この意味での用言の法活用形態は それ自身の内に S´‐V‐O´の形式と構文とを形成しているということになる。
5−10 もっとも そうは言っても 英文にしても 〔1‐ENG〕の文例で 述格用言《 speaks 》は 実際には《 he / she / it speaks 》という主‐述の格関係の部分をもともと同じく形成している。つまり 述格用言が S´‐V という部分的な構文を宿している。賓格の要素=代名接辞O´はそこに ない。
5−11 能格構文での述格用言は 法活用した形態として S´‐V‐O´の三項を形成し表示するようになっている。これを仮りに――まったく仮りに――表わすとすれば あたかも次のような構造から成り立っているという文法である。

  • 〔1-JPN / ENG〕に対応すると想定される能格文
仮りに翻訳した能格文: 《英語ハ 彼ガ he-speaks-it.》
論述収斂層: S´‐V‐O´
対格 主格 〈主-述格-賓〉
主題提示層: 中立格 能格 論述格〔法活用〕
≒Aハ ≒Bガ C´=〈S´‐V‐O´〉

5−12 能格構文が主題格提示の層をも保っているという根拠は 中立格が 自動文(述格用言が自動詞)においては それに対して 主格に立つことにある。あたかも 日本文のAハの中心主題格と同じように。

  • 能格構文の第一主題格の中立格は 日本文のAハという第一主題格と同じように Aガという主格にもなれば Aヲという対格にもなるという意味である。
  • 彼ハ英語ガ話セル。において 彼ハ→〓第一主題格(彼ニツイテイエバという提示)+〓主格(S)(彼ガ・・・話ス)
  • 英語ハ彼ガ話セル。において 英語ハ→〓第一主題格(英語ニツイテハという提示)+〓対格(O)(英語ヲ・・・話ス)
  • 〓が主題提示層を成し 〓は論述収斂層として 細かい論理的な意味関係を担っている。
  • 日本文が これら二つの層を保っているのに対して 英文は 〓の論述収斂層の一本に絞って合理化したような形態である。
  • 能格構文の言語では 論述述格の部分(広義のV)が 〓の論述収斂層の形態をすでに具体的に実現しているが 全体として 主題提示層をも保っているという文法のもとにある。

5−13このような独特の構文を持って 能格言語は 日本文(AハBガC)と英文(S‐V‐O)との中間に――しかし決してあいまいにという意味ではなく あたかもきちんとした折衷方式のごとく――位置しているように思われる。
5−14 このような構文という一視点から かんたんな言語類型にかんする検討を 本文でおこなってみたい。

  • この《第一章 あらまし》のあとは しばらく休みます。
  • [古事記・その史観]を完成させたあと 再開します。