caguirofie

哲学いろいろ

言語類型論のひとつ

 言語一般にとっての構文のあり方というものを論じるならば 大きく三つに分かれると見ます。非線形から線形への移り変わりとして次のようです。

 (α) AハBガC構文
 (λ) AハBガC(C=S´‐V‐O´)構文
 (ω) S‐V‐O文型

 印欧語の古代諸語は (ω)の手前に位置する。
 

 1. 世界の言語の中には 能格( ergative )構文という文法を持つものがある。カフカース諸語やバスク語などである。
 2. この構文は あたかも AハBガC構文とS‐V‐O文型との中間に位置するかのごとくである。
 3. 能格構文の例を日本文と英文を交えて説明すると:
 (a-α) 英語( A )は 彼( B )が 話せる( C )。
 ☆ この文を 能格構文では あたかも次のようなかたちで言い表わします。
 (a-λ): (a-α)に対応すると想定される能格文

 ・能格文の描像:《英語ハ 彼ガ  he-speaks-it.》
 ・論述収斂層 :  O    S    S´‐V‐O´
 ・  〃     : 対格   主格  〈主-述格-賓〉
 ・主題提示層 : 中立格 能格  論述格〔法活用〕
 ・  〃     :≒Aハ  ≒Bガ  C´=〈S´‐V‐O´〉

 4. すなわちそこでは 中心第一主題格(Aハ)を 《絶対格ないし中立格》として保ち 関係第二主題格(Bガ)を 《関係格ないし能格(ergative)》として 一つの変種のもとに形成している。
 5. ただしまた 論述C の成り立ちが違って来ている。
 論述部として《用言述格X法活用》――日本語でC:《話せる》――という一般的なあり方に従うことは言うまでもなく当てはまるのだが そのほかに変化が生じている。
 6. すでにその論述部の用言(動詞)C一個のうちに 主 S‐賓 O‐述 V の三項から成る格関係を表示する形態を採るようになっている。
 7. したがって文全体としては 分析した場合には この《S-V-O》連関が重複するかたちを呈している。
 8. これは――つまり述格(V)のほかの主格(S)・賓格(O)にかんしては―― 代名詞(代名接辞:S´・O´)を用いて表わしている。この意味での用言の法活用形態は それ自身の内に S´‐V‐O´の形式と構文とを形成しているということになる。

 9. もっとも そうは言っても 英文にしても この《C:S´‐V‐O´》の形式に近いものを持っている。 仮りに

 (a‐ω) He speaks English.

 の文例で見るなら 
 ○ 述格用言《 speaks 》は 実際には《 he / she / it speaks 》という主‐述の格関係の部分をもともと同じく形成している。
 つまり 述格用言が 《S´‐V》という部分的な構文を宿している。賓格の要素=代名接辞O´はそこには ない。だけである。

 10. だからあらためて 能格構文は印象風にこうである。

 ・能格文の描像(a-λ):《英語ハ 彼ガ  he-speaks-it.》

 11. 能格構文が 日本文と同じように 主題提示の層をも保っているという根拠は 中立格(≒ハ格)が 自動文(述格用言が自動詞)においてはその自動詞に対して 主格(主語)に立つことにある。《雨ハ降る》のたぐい。あたかも 日本文のAハの中心主題格と同じようにである。
 12. 能格構文の第一主題格の中立格は 日本文のAハという第一主題格と同じように 分析的にAガという主格(主語)にもなれば Aヲという対格(目的格)にもなるという意味である。

 13. 英文は 推測としては 能格構文のうちの論述部( S´‐V‐O´ 形式)が 単独分立し 文の全体へと進出し そこで独立した文型と成っている。このように考えられまいか。
 14. つまり日本文や能格構文が 主題提示と論述分析(論理連絡)の二つの層を保っているのに対して 英文は 論述分析層ないし論述収斂層の一本に絞って線形のごとく合理化したような形態である。

 15. このような独特の構文を持って 能格言語は 日本文(AハBガC)と英文(S‐V‐O)との中間に――しかし決してあいまいにという意味ではなく あたかもきちんとした折衷方式のごとく――位置しているように思われる。

 このようです。
 (ω)を現代英文だとすると ラテン・サンスクリットなど古代言語は 日本文や韓国文に見られる(α)の非線形の要素をなおまだ何がしか保っていて またバスク語などの(λ)類型も非線形として成り立っており その(λ)とそして(ω)との間に位置するかに思われるという見方です。