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哲学いろいろ

第一章 あらまし(c)

全体のもくじ→序説・にほんご - caguirofie050805

第一章 あらまし

第一章の目次
§1 文
§2 文の成分

§3 文の要素:語――:2005-08-09 - caguirofie050809
§4 言語表現の素材:音素――:本日
§5 文の生成と構文――:2005-08-11 - caguirofie050811

§4 文表現の素材とは 語を形成する音素である。
4−1 音素すなわち 母音Vおよび子音Cにかんして それぞれの生成を捉える。
4−2 日本語の形態素(最小限の意味ある音節)を 一子音+一母音 すなわち CVと仮定する。
4−3 母音の生成(分節――たとえばアとイとが 互いに語の意味をつくるに当たって 異なるということ)は 用言(動態用言)の語末母音を例にとってみるのがよい。それの変化すなわち法活用の形態に即して 捉えるとことができる。
4−4 語ルという用言は たとえば語ラという形態にかんして その特に末尾母音/‐a/をめぐって いま不定(未然形)に活用したという。語ルという動態相にかんする法判断が 発話者によって 不定相=未然相におかれたのが 語ラであり その末尾母音の -a であるとする。

  • 語ル(末尾母音 ‐u )は 《話を述べる》という動態の相を 存続の相に置いたかたちゆえ 存続法という。
  • 話者は 存続の相へ置くという判断をおこなっている。意志による判断を法判断と言い 形態としては 法活用という。存続法へ活用させたという。

4−5 ほかの法活用を含めてまとめておこう。

  • 語レ katare=命令法(命令形)(《語る》を促すよう指示する相=命令の相に置く)
  • 語レ katarä=条件法(已然形)(《語る》を既定条件の相に置く)
  • 語ル kataru=連体法(連体形)(《語る》を体言に連絡する相に置く)
  • 語ラ katara=不定法(未然形)(《語る》を話者がまだどの相にも置いていない相)
  • 語リ katari=概念法(連用形)(《語る》を概念の相として扱うかたち)
  • 語ル kataru=存続法(終止形)(《語る》を存続の相に置く)
  • いまの課題は 活用形態それぞれの末尾母音にある。
  • 結局――katar‐の部分は すべて同じであるから―― 末尾母音の違いによって 用言の法活用を使い分けている。
  • たとえば 音素/ a /は 言ってみれば広く体言を含めた語の相(意味内容)について 何らかの形で《不定の相・未然の相》を示すように はたらいているかも知れないという疑いである。
  • たとえば マ・メ(目)や タ・テ(手)のうち 不定相の末尾母音/ a /を持つほうは つまりマとタのいづれも 単独では用いられない。それは 体言にしても 不定の相を帯びているからではないかという推理である。語ラという不定法活用が単独のそのままの形では用いられないことと同じようだと。
    • マ(目)-ナ-子(=眼) マ-ツ-毛(=睫) マ(目・真)-サ-シ(=正し) マ(目)-へ(辺)(=前)
    • タ(手)-ナ-心(=掌) タ‐綱(=手綱) タ‐元(=袂) タ‐洗ヒ(=盥)
  • 音素/ i /は 概念の相を 一般の語にも 与えているかも知れないという疑惑である。実際 イという語(形式名詞)がある。或ル‐イ‐ハのそれで 《事・物》を意味するとされる。次項に継ぐ。

4−6 条件法活用の末尾母音‐ä (‐ëと書かれる場合がある)が 仮りに ‐ä<‐a‐iという生成であるとすれば ここに現われている ‐aと‐iとの両方に注目できる。‐aは不定の相に ‐iは概念の相に それぞれ関わるとすれば これは 不定相で一定させたものを 概念相におくという複合相である。一旦 既定のこととしたというような相であろうか。

  • 目:ma + -i > mä メ
  • 手:ta + -i > tä テ
  • 髪:ka + -i > kä 毛
    • 末尾母音 ‐äのメ・テ・ケは 単独でも用いられる。マ・タ・カは 難しい。
    • もっとも 末尾母音‐aでも カ(髪)kaは 白髪sira-gaのごとく 言い切りの形にも現われる場合がある。

4−7 あらためて言って 条件法活用の基本の形態と考えられる末尾母音‐äは 掛け算としての不定相(‐a)x概念相(‐i)といったような相生成のあり方であろうか。

  • 用言では 既定条件法(已然形=《すでに然り》)として用いられる。
  • 現代語では 既定相に限らず 仮定としての条件を提示する用法がある。そうだとすると 不定相(-a)のほうに 重点がおかれたとも考えられる。
  • 《自由 しからずんば死を。》のごとく 絶対格もしくは概念相で《自由》という語が言い出されたような条件提示の表現形式である。

4−8 命令法活用の末尾母音-eについて -e <-i-a なる生成であるとすれば どうであろうか。順序をたがえて 同じような概念相(-i-)x不定相(‐a)の形態である。すでに概念相できちんと決まっているところへ それは不定であるとして あらたな相を作り出そうとしている。
わからないけれど 《語る》という概念を 話者が 自らのもとに・もしくは相手との間に 不定のかたちながら 持ち出して来ているというべきなのか。相手のあることであった場合 それは その相手への要請を示したというのだろうか。

  • 概念相(語リ katar-i =《語るということ》)を 不定相( -a )に置いて 無条件に現前させているといった推理が得られる。
  • これ( ・・・-i-a > -e )が 命令相として認識されたなら 用言の法活用にあてはめて 命令法判断を表わすとすることができた。

4−9 一般に基本の母音を――日本語にかんして そしてそれは歴史偶有的に―― / a ・ i ・ ö /の三つであると仮定する。
これらは 相認識として

  • / a / =不定相(初発の知覚相)
  • / i / =概念相(概念として認識しようとした相)
  • / ö / =保留相(判断保留。ともかく記憶におさめたという相)

のごとくさらに仮定する。

  • ちなみに / ö /は / う u ・ お o /のいづれかに変化したと見る。
    • nögöhu =拭(ぬぐ・のご)ふ
    • önö   =己(おの)れ・自(うぬ)惚れ 

4−10 子音も 子音じたいでそれぞれ一定の相認識を帯びていると想定する。

  • この件については この論文の中でおこなった議論を 別様にまとめている。→2005-06-17 - caguirofie050617:ささやかなソシュール批判として 《日本語において 子音みづからが相認識を持つ(音素がそのままで意義素でもある)という仮説》

4−11 たとえば

  • / k / =反出相→ 反定・反省・思考・疑問・変化・移行の相
  • / t / =不定指示相→ 隔定・放出・完了の相
  • / r / =自然想定相→ 自然生成(自発)・一般代理の相

などなどを仮説する。
4−12 これらの子音を用いて 語の例を挙げるなら いま不定相(不定法)の母音 -a / 保留相-ö / 既定条件相-ä を添えて:――

  • ka 彼・処  kö  此・処
  • ta 手・誰  tö  跡・ト(引用格)
  • ra ラ(親愛称)     rä  レ(親愛称)

などを得る。

  • ta手にかんして その子音 t=不定指示相というのは 仮説に合わないと見られるかも知れない。手じたいのことであるよりは 手で指示する方向が 不定相(つまり不定としては 不定が存在するということで一定した形を取り むしろ指示形式の一般となりうる)であることと関連するとも考えられる。

4−13  さらに これらから派生して:――

  • ka-ta  型・固      kö-tö 事・言  
  • ka-rä 彼レ       ta-r ä 誰レ 
  • körä   此レ        kö-rä-ra 此レラ

あるいは 用言として 次をも得る。

  • kata-ru 〔型 / 事・言‐ル→〕語ル
  • tö -ru 取ル
  • ちなみに 母音の交替を交えたかたちで:――
  • ta 手・誰・タ
  • tä 手・
  • ti 道
  • tö 跡・ト
  • tö-ru 取ル
  • tu ツ(完了法の補充用言(助動詞))

(手元のことよりは 手で指示する不定の方向を捉えるなら ある程度 意味の共通性が見て取れるかも知れない。)

  • 親愛称の名辞(=語以前の段階をいう)ロ・ル・ラ・レ rö が 体言などの語について 用言をも作り出すという見方と例示は 次を参照されたい:2005-07-31 - caguirofie050731[古事記・その史観]§29。目ma・ mä 〜 mi-ru 見ル などあり。

4−14 もし仮説のごとくであるとすれば これらの例は 語の生成・派生一般にかんしても 説明能力を持つと考えられる。
4−15 中で 体言にかんしては その語の母音交替(ka〜kö / ta〜 tä 〜tö / ra〜 rä // kata〜 kötö )は 仮りに体言の内的な格活用(もしくは相活用)とよべるかも知れない。そのように語が生成しているのではないかと疑われる。
4−16 体言(kata / tö )からの用言の派生(→kata-ru / tö -ru )も説明しうるように思われる。
つまり体言( kata )が 論述主題(T3=P)におかれて そのとき体言主題のまま定義文となる(たとえば 型(T3)-ナリ。)のとは違って 別様に 動態相なり状態相なりを帯びさせて(=相活用させて) 用言を形成するという場合である。
つまりあたかも 補充用言を補充するごとく 形態素 -ru / -si を補って kata-ru 語ル / kata-si 固シ といった用言を得るという場合である。仮説である。
4−17 以上のような事情と仮説とを 整合的に明らかにするのも 課題の一つである。

(つづく)