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哲学いろいろ

第六章a

全体のもくじ→序説・にほんご - caguirofie050805

第六章 用言の法活用組織の生成(§16〜)

用言の法活用組織の生成 の目次
§16 前提――作業仮説の整理――:→本日
§17 生成の輪郭(基本六段活用組織から第二次派生):→2005-09-11 - caguirofie050911
§18 法活用組織の展開(イ一段;イウ二段活用):以下→2005-09-12 - caguirofie050912
§19 つづき(エウ二段活用) 
§20 つづき(オウ二段活用)
§21 いじょう動態用言の法活用のまとめ
§22 状態用言の法活用組織の生成:→2005-09-13 - caguirofie050913

§16 用言の法活用組織は どのように成り立っているか。
16−1 用言の法活用は 発話者の法判断がさまざまな内容=形式をとりうるからには 多種多様であるはずだが まず 語幹末母音の変化によって 基本の形態が 六類(Ⅰ〜Ⅵ)として成り立ったと考える。
16−2 そのほかの法判断は 補充用言の補充によって 複合形態として 提示していくわけである。

  • 向ク→ Ⅰ不定法=向カ→ 向カ‐ズ=否定法判断

16−3 あらためて言って 発話者(表現主体の格)が 文の論述に対して統括するとき その判断形式をさまざまに提示するため 論述用言を形態的に変化させる。これが 法活用である。
16−4 その基本は 六類であって 語幹末母音の示す相認識に従って それぞれの法活用形態をつくる。
16−5 これを 基本(Ⅰ〜Ⅵ)・第一次組織( -a / -ä / -i ( -ï ) / -e / -ö- / -u )の法活用とする。

-ö無格名辞→ 無格体言→原形用言O -ö mökö
相認識 法活用 活用例
-a   不定 不定法 ( 未然形 ) muka
-ä   既定相 条件法 ( 已然形 ) mukä
-i   概念相 概念法 ( 連用形 ) muki
-e   命令相 命令法 ( 命令形 ) muke
-ö-  保留相 連体法 ( 連体形 ) mukö-
-u   存続相 存続法 ( 終止形 ) muku :向ク;剥ク

16−6 前項の基本組織について 注釈を 七項目 以下に添えたい。
16−6−1〕 六類以外の法判断形式は 補充用言を用いて表わす。

第一用言 補充用言 条件詞
muka(Ⅰ) -mu(Ⅴ)- -ha >mukaba:向カバ=仮定条件法
muka(Ⅰ) -zu :向カズ=否定法
muka(Ⅰ) -su :向カス=使役法
muka(Ⅰ) ・・・ ・・・

16−6−2〕 無格名辞(CV)の母音を -ö- と仮定する。これを 無格体言と見なし さらに これを用言にあてはめようというとき 用言原形(語根)0(ゼロ)-ö として立ててみた。

  • これらの推定は 個々の推定が目的ではなく 生成の成り立ちを その背景として 捉えることができればという観点からのものである。
  • 用言原形 0 mökö のほかに 0 mökV とあらわしてもよい。
  • 母音の分節・確定( a/ ä/ i/ ・・・)以前の原形を 仮りに 0 -ö とするものである。

16−6−3〕 この原形の語例 0 mökö 〔 > muku 向ク〕は 《身( mö )に変化相(その子音:k- )を添える相認識》を語義に与えていると捉えることになる。(ひとつの解釈である。)事実問題としてというよりは そういう無格体言として現われた一段階を経て来ているであろうと見るわけである。

  • たとえば この原形のままで 実際に mökömökö モコモコ・ムクムク;mögömögö モゴモゴなどの語例を挙げることができる。《その身の立ち現われる動きや変化》の相認識を帯びて 向クという語義と 同類だと判定しうる。
  • すなわち これは 相認識に限っては 子音の所為でそうなっていると見るわけである。  / m /=自体認定相 / k /=反出・思考・変化の相。

16−6−4〕この原形 0 mökö から muku 向ク;剥クという用言を得るという推測である。
16−6−5〕 両語例は 互いに対極の相をなすと考えられる。子音/ k /が反出・変化相を表わすとすれば この k のみによっても 剥クの表わす否定・消滅の相認識は担いうると思われるが その以前に 自体の認定相 m に関して 対極の否認相(否定形で認定する相)が mö 身じたいに生じているという見方である。子音/ k /の有声音/ g /を用いても 次のごとく 同じである。

  • mögi 捥(も)ギ;möki 剥(む)キ←→ muki 向キ

また mörV として互いに対極を表わす例。

  • möri 漏リ←→möri 盛リ

16−6−6〕Ⅴ連体法は 今後一般に仮説に従って -ö- 〔 > -u- 〕という内容を想定した形で進めたい。
16−6−7〕 Ⅶ意思法・推定法 -o < -a-u は 用言の法活用としては 省略に従う(§15−36)。
16−7 この基本六類・第一次(六形態=六段活用→四段活用)から 第二次(二段 / 一段の活用)および 変則・第一次(状態用言など)のそれぞれの活用組織が生成したという仮説である。
16−8 第二次などの法活用に移る前に 第一次の性格内容を捉えておかなければならない。
16−9 第一次法活用の中で 自然想定相の子音/ r /を介在させた活用形を取り出しておくとよい。これを R‐派生活用と呼ぶこととする。たとえば 次のように 一定の無格名辞 CV に 子音/ r /の無格名辞 rVを添えて用言を生成する事例である。このR‐派生活用は あたかも一つの補充用言のごとく はたらいている。ただし / r /=自然想定相ゆえ 必ずしも 一般の補充用言のようには 法判断を新たに付け加えるほどのものではない。

mö 身 yö 愈;好 tö ト(ta手) kata 型 :無格体言=用言原形
mö-ra yö-ra tö-ra kata-ra
〃-rä 〃-rä 〃-rä 〃-rä
〃-ri 〃-ri 〃-ri 〃-ri
〃-re 〃-re 〃-re 〃-re
〃-ö- 〃-rö- 〃-rö 〃-rö
〃-ru 〃-ru 〃-ru 〃-ru
語例: 守ル;盛ル 寄ル;縒ル 取ル 語ル;騙ル

(註)騙ル kataru は《型にはまったうまいことを言う》か。

16−10 このR‐派生活用〔による用言の形成〕は 漢語に‐スルとつけて用言化する場合にあたると思われる。

  • 派生‐スル;活用‐スル;用言化‐スル

また 西洋語からの借用語では そのままR‐派生活用させて 

  • さぼ‐ル;だぶ‐ル;ぱにく‐ル・・・

などとなる。特にこのR‐派生活用の例を見れば 用言原形は いちおう無格体言と見なされているのだと思われる。
16−11 用言原形が 無格体言もしくは名格(たとえば kata 型)である場合には 文字どおりすべてが 原形 0 -ö として 末尾母音を -ö とする必要はないと言わなければならない。
16−12 R‐派生活用も 第一次の法活用(Ⅰ -ra /Ⅱ -rä/Ⅲ -ri/ ・・・)に従う。
16−13 この第一次組織の特徴は 特にそのⅢ概念法が 原形概念相の母音/ -i /で立てられることにある。用言原形を 0 -ö (たとえば mökö 向ク)に想定していても 明確に単一の概念相の母音( -i )を Ⅲ概念法に要求するということである。( mö-ki 向キ;kata-ri 語リ)。言いかえると わざわざ原形 0 -ö + -i > -ï (Ⅲ’)の如く派生概念法(Ⅲ’)の助けを借りる必要がないということである。
16−14 この特徴は 基本六類の六段活用すべてに及ぶと考えてよい。言いかえると 第一次法活用は ほとんど無条件に六種の母音変化(Ⅰ -a/ 2-ä/ Ⅲ-i/ ・・・)をあてはめるということである。この法活用形式を ここで 強変化とよぶこととする。特には 上に触れたように Ⅲ概念法の母音を 用言原形の母音のいかんにかかわらず その一次形態( -i )にそのまま強く設定することに特徴がある。

  • この強変化――そしてのちに弱変化――という呼び名は ドイツ語のそれらとは 中味が 違っている。ここでは 用言原形0 -ö なる末尾母音を 強く直ちに 第一次Ⅲ概念法としての末尾母音 -i に作るという活用形式を 強変化と呼んでいる。

16−15 想定の用言原形 0 tö ト( ta 手)から 直ちに強変化させて Ⅲ ti チという概念法活用を作りがたいとすれば R‐派生活用での強変化=第一次(Ⅲ tö-ri 取リ)に作るわけである。
16−16 もし用言原形 0 -ö(たとえば -tö )という想定を活かしたいと思えば そのⅢ概念法をまず -ö-i(例 tö-i )に作り ただし二次的な合成母音 -ö-i > -ï となるのを嫌って 一般的な介在子音/ r /を用いるという見方になる。

  • tö-i > tö-r-i > töri 取リ

いづれにしても Ⅲ概念法 -i という形態に作るのが 第一次であり強変化の形式である。
16−17 用言は R‐派生活用だけではなく / r /以外の子音( k/ s/ t/・・・)の形態素が添えられて さまざまに派生する。これは 当然であり そのときにも 強変化がありうる。つまり第一次・法活用を採り得る。

派生活用 第一次活用の活用形態となる例 語例
mö身+kö Ⅰmöka /Ⅱmökä /Ⅲmöki /・・・ 向(む)キ
〃+sö Ⅰmösa /Ⅱmösä /Ⅲmösi /・・・ 生(む)シ
〃+tö Ⅰmöta /Ⅱmötä /Ⅲmöti /・・・ 持(も)チ
ta手+sö Ⅰtasa /Ⅱtasä /Ⅲtasi /・・・ 足シ
ya〔弥〕+mö Ⅰyama /Ⅱyamä /Ⅲyami /・・・ 止ミ
yi弥+kö Ⅰ ika /Ⅱ ikä /Ⅲ iki /・・・ 行キ
ka彼・処+hö Ⅰkaha /Ⅱkahä /Ⅲkahi /・・・ 交ヒ・替ヒ・買ヒ
mi〔mö身〕+tö Ⅰmita /Ⅱmitä /Ⅲmiti /・・・ 満チ
・・・ ・・・・・・・/・・・・・・・/Ⅲ -i/・・・ (共通特徴)

16−18 ということは 第二次・法活用に――部分的にだが―― 弱変化を予定していることを意味する。二段活用に現われる。つぎのごとく。
用言原形0 höröbö

  • 強変化の例:第一次・六段の法活用組織
    • 0 höröbö-sö
    • Ⅰ höröbö-sa
    • Ⅲ 〃 〃-si
    • Ⅵ 〃 〃-su 滅(ほろ)ボス
  • 弱変化の例:第二次・上二段の法活用組織
    • 0 höröbö
    • Ⅰ=Ⅲ höröbö-i > höröb ï 滅(ほろ)ビ
    • Ⅱ höröbö-rä > höröbörä-i > höröbure 滅ブレ
    • Ⅴ höröbö-rö- > höröburu- 滅ブル
    • Ⅵ höröbu  滅ブ

見られるように 原形0 höröbö から 強変化として いきなりⅢ概念法 höröbi に作ることを得ず あるいは R‐派生活用にて やはりⅢ概念法höröbö-ri と作ることも出来ない場合の別様の法活用形式が生まれた。

  • Ⅲ概念法を 一次( -i )の如く höröb-i と作り得なかったとき その弱変化の形( höröbö-i > ・・・bï )が そのまま Ⅰ不定法にも転用された模様である。概念相が その《概念》という意味合いを薄め 不定相に活用(変化)し それを持って 新たなⅠ不定法に据えられた。
  • こうして 第二次の法活用組織をつくるわけだが そのⅡ条件法( höröbö-rä )とⅤ連体法( höröbö-rö )は R‐派生活用に従っている。
  • しかも そのⅥ存続法は――古語では―― 第一次と同じ強変化(Ⅵ höröb-u )である。
  • その後の変遷は ひとつには 第二次組織の中で 上二段がいわゆる上一段の活用へと変化した。二次Ⅲ=Ⅰ:ホロを保ったまま 二次Ⅱ:ホロレ 二次Ⅴ:ホロルの如く さらに二次Ⅲ=Ⅰの末尾母音を採り入れた形である。Ⅲ概念法(その形態)の力が強いように見られる。
  • Ⅲ概念法の形態が 力強いのは――上の表でまだ触れないでいるが―― Ⅳ命令法でも 同じである。古語の上二段なる第二次組織において すでに Ⅳ命令法:höröbï-yö 滅ヨである。
  • 後述の予定であるが この二次Ⅳ命令法は 一次Ⅳ -i-a > -e に代わって 二次Ⅳ ï-ö > ï-r-ö(一種のR‐派生活用) > ï-y-ö という変化に従っているようである。子音/ r /から/ y /への変化には あいだに / n /を介する場合もあると思われるが この場合は 概念相の母音/ i /の介在を想定するとわかりやすい。綜合した場合 -ra > -r-i-a > -rya > -nya > -ya の如く考えられる。母音/ a /と/ ö /とは 普通の母音交替である。
  • さらにこの二次Ⅲ=Ⅰ höröbï 滅ビなる用言は その後 時と社会的な使用の習慣を経て むしろⅢ概念法:horobi 滅ビ+Ⅰ不定法:horoba 滅バなる普通の基本第一次の法活用組織を生み出した。五段活用であり 強変化である。

16−19 さて 第二次の法活用の形式に移る前に 第一次の特徴として 次のことに留意しておきたい。用言原形としての 0 Cö(第一音節となる形態素)から 一般的な派生形態(第二音節以下)を作るとき けっきょく およそどの子音も あてがわれるようである。つまり R‐派生活用の以外にも 当然の如く 派生活用(すなわち 原形として 0 Cö+Cö+・・・)を生じているが 第二音節以下の子音は 自由に用いられると見られる。例示を付け加えておきたい。

用言原形 法活用 語例
ma(?)+hö Ⅰmaha/Ⅱ mahä/Ⅲ mahi/・・・ 舞フ
mö(身)+mö Ⅰmöma/Ⅱ mömä/Ⅲ mömi/ 揉ム
mo(芽)+yö 二次Ⅰmoyä > moye=Ⅲ/Ⅱ moyörä > moyure/ 萌ユ
ma(真)+nö 二次Ⅰmanä=Ⅲ/Ⅱ manörä > manure/ 真似(まぬ)
mana-bö(反復) Ⅰmanaba/Ⅱ manabä/Ⅲ manabi/ 真似ブ=学ブ
  • なお 滅ブのブは 学ブのブと同じである。ホロは ホロホロ・ハラハラ・バラバラの分散の相から来ているようだ。

16−20 以上が 前提事項である。

  1. 用言の法活用にかんして 基本六類(Ⅰ〜Ⅵ)は つねに共通である。
  2. 説明のつごうとしてでも 用言原形(=語根ないし無格体言)0(ゼロ) -ö を立てる。これは 必ずしも保留相の母音( -ö )でなくともよい。
  3. 第一次の活用組織では 強変化(Ⅰ -a / Ⅱ -ä / Ⅲ -i /・・・)に従う。 

  



(つづく)