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哲学いろいろ

第六章d

全体のもくじ→序説・にほんご - caguirofie050805

第六章d 用言の法活用組織の生成

用言の法活用組織の生成 もくじ
§16 前提――作業仮説の整理――:→2005-09-10 - caguirofie050910
§17 生成の輪郭(基本六段活用組織):→2005-09-11 - caguirofie050911
§18 法活用組織の展開(イ一段;イウ二段活用):以下→2005-09-12 - caguirofie050912
§19 つづき(エウ二段活用)
§20 つづき(オウ二段活用)
§21 いじょう動態用言の法活用のまとめ
§22 状態用言の法活用組織の生成:→本日

§22 状態用言(形容詞)は 動態用言(動詞)の第一次活用組織の方式を前提にして そこから変則的な法活用をおこなって 独自の組織をつくる。
22−1 状態用言のうち いわゆる形容詞の法活用組織を見ておけば あとに残った形容動詞や補充用言は この変則第一次の方式とともに 動態用言の一次原則および二次(数種)の活用組織とを参照すれば 説明がつくと思われる。
22−2 用言の中でも動態相のそれ(動詞)とちがって 状態相のそれ(形容詞)は 固有の活用組織が必要となったと考えられる。
22−3 世界の言語の中には 形容詞を 用言とせず――従って 論述述格そのものとしては 法活用させず―― 状態相の体言として扱う場合があり これら用言扱いと体言扱いとで 二分される。
22−4 すなわち 大シ;大キイという用言扱いに対して 大(おほ)-ナリ=〔英文〕is big.の如く 体言+論述用言という形式で表現するのが 体言扱いである。

  • big が活用変化しないという意味である。もし活用しても それは 論述用言としての法判断を表わす法活用(たとえば 《・・・ナリ/ ナラズ》すなわち肯定・否定などの法判断)ではなく 体言と同じくの格関係を表わすための格活用である(ロシア語や印欧語の古語など)。

ただし öhö 大 / öhö-si 大シ;多シから 多カリという形態をつくる言わゆるカリ活用は 体言扱いに近い。‐有リという論述用言を用いるからである。また 形容動詞(大キ‐ナリ / 偉大‐ナリ)は 純然たる体言扱いから生成している。
22−5 状態用言が 固有に活用組織を持とうというとき 基本六類の法活用を前提としつつ きわめて変則的な展開をおこなうかたちになった。これは 第一次から第二次への展開とも異なって 特殊に変則的である。
22−6 しかしながら 動態用言の法活用の大前提となった基本六類(Ⅰ〜Ⅵ)を無視しなかったばかりではなく 変則的にだが 第一次・強変化の原則の枠内にとどまったとも考えられる。
22−7 状態用言(形容詞)の活用組織にかんして その形成のあらましを一気に次のように分析・整理する。
次の(1)の一般的な用言原形をやはり基礎として そこから独自に法活用を生み出したようである。つまり(1)の用言原形の一次・原則による法活用が しかるべく採り入れられて 状態用言の活用語尾を形成したと見られる。
(1)無格体言=用言原形の一次原則活用(強変化):状態用言の末尾活用部分となる。

0用言原形 sikö
不定 saサ・其 kaカ・彼・処 sika
Ⅱ条件法 (→変則Ⅱ) sikä(→変則Ⅱ)
Ⅲ概念法 siシ・其(→変則Ⅵ) ki(→変則Ⅴ) siki(→変則Ⅴ)
Ⅳ命令法 se ke sike
Ⅴ連体法 sö-ソ(ゾ)・其 kö-此・処(→変則Ⅲ) sikö-(→変則Ⅲ)
Ⅵ存続法 su ku siku
  • 太字の形態が 変則的に 採用されていく。イタリック体の形態は 状態用言と何らかの形でかかわって用いられるものとして挙げている。
  • サ-sa が 状態相の体言を作るのに用いられる。大キ‐サ;多‐サなど。

(2)変則・第一次・法活用組織の形成:状態用言の活用語尾

強変化・変則 強変化・変則 強変化+R‐派生 一次原則・R‐派生(異種)
〔-sa 〔-(sika -〔si〕kara
-〔si〕kä-rä -〔si〕karä
-〔si〕kö > -〔si〕ku -〔si〕kari
-〔si〕kare
〔- / -〔si〕ki- -〔si〕karö-
-si -〔si〕kari
活用形式 ク/シク活用 同左 同左 カリ活用
  • 括弧〔〕をほどこした部分(-〔si〕ku / -〔si〕ki-など)は -ku ‐ク または -siku ‐シクという形態として読んで欲しい。次のごとく状態用言は ク活用かシク活用かの二種に分かれている。
    • ク活用:大シ・多シ;凄シ;太シ;細シ;広シ;良シ;・・・
    • シク活用:欲シ;嬉シ;優シ;晴レ晴レシ;相応シ;・・・
    • ク活用の状態用言は なるべく主観判断の主観の部分を控えた相認識に立っていると言われる。

22−8 いわゆるカリ活用(Ⅵ多‐カリ; 相応ハ‐シカリ)は 第一次の活用組織として問題ない。R‐派生活用の強変化で 状態用言であるから そのⅥ存続法(-カリ)が Ⅲ概念法の形態(-カリのリの末尾母音 -i )でそのまま作られていることも頷ける。つまりこれは 存在相の動態用言・有リの活用組織ではある。
22−9 一般には 多‐ク(変則Ⅲ)‐有リ; 相応ハ‐シクー有リから合成されて 多カリ; 相応ハシカリという状態用言が生まれたと説かれている。それゆえ 法活用は 用言の有リのそれに従うのだと。別の解釈としては 原形を0’ -ka / -sika とするところから R‐派生活用したと考えてもよいと思われる。
22−10 状態用言は ク活用とシク活用とをまとめたほうの組織のほうが 固有の活用組織であると思われるが そのⅠ不定法を カリ活用のほう(Ⅰ -kara / sikara )に頼らなければならない。またⅣ命令法を やはりカリ活用のほう(Ⅳ -kare )に依存している。とすれば ク/シク活用のほうの組織は 十全なものではなかったと見なければならないかも知れない。
22−11 言いかえると ク/シク活用は そのⅠ不定法やⅣ命令法を欠如させており きわめて部分的な活用組織である。
22−12 しかも用言原形を0 sö および0 -kö / -sikö とする二つないし三つの活用組織から いくらかの活用形態を それぞれ部分的に・また変則的に 借りて来て それらを集合させたものとなっている。
22−13 さてこのク/ シク活用の組織にかんして その変則的なる特徴は 一次原則Ⅲ概念法 -ki / -siki と一次原則Ⅴ連体法 -kö > -ku / -sikö > -siku とが 互いにその所を替えていることである。
22−14 まずあらためて用言原形は 動態用言のように語幹末母音(一次0 ö // 二次0’ -i / -ï / -ä / -sikö )のみによるのではなく 無格体言(0 -sö / -kö / -sikö )が立てられる。
22−15 すなわち一種のR‐派生活用である。または あたかも補充用言を補充する派生活用の形式である。

  • öhö 大 → öhö-su 生ホス / sögö スゴ→ sugö-su 過ゴス / sugu-ru 勝ル / mö 身→ mö-ku > muku 向クなどのような用言生成に似て それぞれ -su / -ru / -ku を補充するかの如くだと考えられる。

22−16 先ず原形0 -sö の場合には 問題ない。指定相の子音/ s /によるその概念相・名格(Ⅲ si 其)が 変則的に Ⅵ存続法( öhö-si 多シ / hö-si 欲シ)に転用されている。
22−17 これは 変則的だが わかりやすい。仮りに捉えるなら 状態相・指定法の補充用言 -si シが無格体言( öhö 大 / hö 秀)に補充されたかの如くである。この場合 一次原則の存続法(Ⅵ -u / この場合 -su )は用いられない。状態相の用言に必要ないからである。
22−18 同じくこの用言原形0 -sö の場合にかんして 一次原則の強変化形(たとえば Ⅰ -sa / Ⅴ -sö / -zö )が つながりを持っている。状態用言じたいの法活用にはかかわらないが 大いにつながりを持っている。
いま用言原形0 -kö / -sikö の一次原則Ⅰ不定法=Ⅰ -ka / -sika をも含めて 次のような語例で つながりがある。

一次原則活用 語例
Ⅰ-sa öhö-sa 多サ/ huto-sa太サ
Ⅰ-ka öhö-ra-ka 大ラカ(R‐派生を介す)/ hösö-ya-ka細ヤカ
Ⅰ-ka / -sika hirö-ka 広カ(方言)/ hö-sika(欲シカ)
Ⅴ-sö:( - ) 大ラカ‐ゾ / 相応ハシサ‐ゾ(断定法)

22−19 用言原形0 -kö の場合に移って言えば その一次強変化の一形態・すなわち一次原則Ⅱ条件法 -kä が採用されている。しかもこれは そのまま 状態用言のⅡ条件法 -kä-rä > -kere に採り入れられた。つまり必ずしも変則ではない。ただし 重複するかたちで R‐派生のやはりⅡ -rä が 添えられ 発音上の変化( -kärä > kärä-i > käre > kere )をしている。
22−20 この寄り合い所帯とも言うべき状態用言の活用組織の中で 変則として問題となるのは けっきょくⅢ概念法とⅤ連体法とである。用言原形を0 -kö . sikö とする場合の一次原則Ⅲ概念法 -ki / -siki と一次原則Ⅴ連体法 -kö > -ku / -sikö > -sikuとが 互いに変則的に所を入れ替えている。
22−21 まず概念法(Ⅲ -ki / -siki )が連体法(Ⅴ)に流用されるのは 考えられることである。
22−22 たとえば無格体言( öhö 大 / yasa 優 )が そのままあたかも連体法となってのように 別の体言( kötö 事 / wötöko 男)を条件づける場合( öhö-götö 大事 / yasa-wötöko 優男)にあたるからである。すなわち Ⅲ概念法( öhö-ki 大キ / yasa-siki 優シキ)は 名格体言の条件付け(〜連体法)となりうる。

  • 大キ(変則Ⅴ←概念法Ⅲ)大臣(おとど) / 大イ(=大キ)君 / 優シキ(Ⅴ←Ⅲ)男

22−23 すなわち 全く純然たる第一次原則(Ⅲ -ki / -siki )からの一般的な用法として成り立っていると言ってよい。ただ 状態用言の活用組織の中に Ⅴ連体法( -ki / -siki )としておさめられると 変則的な法活用と見られることになる。
この変則変化には 相転化と相活用が介在している。概念相( -k-i / -sik-i )ゆえに用言Ⅲ概念法の相から Ⅴ連体法の相へと 転化している。もともとのⅤ連体法は 保留相=接続用法の相ゆえに成り立った形態である。
22−24 逆に 連体法(Ⅴ -kö / -sikö )が 概念法(Ⅲ)に流用されることも 次のように うなづける。
22−25 まずその例証として 一次原則のⅤ連体法( arö- 有ル‐ / nökörö 残ル‐)も 名格体言に相当する用法を持ちうるからである。

  • 有ル(Ⅴ)‐ハ〔←或ル‐イ‐ハ〕 / 残ル(Ⅴ)‐ハ〔←残ル‐問題‐ハ〕

というように 主題体言(イ / 問題)の省略のかたちだが 名格体言とみなされて用いられる。体言であるならば 概念相で 概念法へとつながる。すなわち 連体法(Ⅴ 有ル‐ / 残る‐)の形態じたいは 主題条件でしかないが 実際の用法では 体言相当となり 概念相を有することとなる。ここにも 相活用が介在している。
22−26 例証の第二として mö-si 若シという語を取り上げることができる。これは 語の成り立ちとしては 《それ自身( mö )である( si )》という相認識で ほとんど一個の状態用言であると言ってもよい。ただし 実際の用法では 用言にも体言にも入らず 論述条件(ないし文条件)としての附属成分に属する。
けれども mö-si-kö-ha 若シクハという語例も見られる。この -si-kö > -siku シクを 状態用言の活用例にならえば 変則Ⅲ概念法( -siku < sikö )だと解釈することもできるのではあるまいか。一次原則としてはⅤ連体法( -ö )であったものが用いられている。 
つまり mö-sikö‐ 若シクが ① 一次原則Ⅴ連体法( -sikö )として体言と見なされていると考えられる(§22−25)。② そしてそれだけではなく この体言相当の語( mö-sikö 若シク)が 文中に絶対提示されるとき 主題(T)や論述(P)の基本成分ではなく そこから格下げされて 論述条件なり主題条件なりという附属成分のはたらきを持つようになった。すなわち 次項に継ぐ。
22−27 すなわち 論述条件などの附属成分となっていくのは 用言のⅢ概念法(六段Ⅲ 剥キ / エウ二段Ⅲ 細メ)や体言( öhö-yösö 大寄ソ=凡ソ / iyöiyö 愈 / yaya 稍)にとっても 可能だからである。

  • 目ヲ剥キ 怒ル。
  • 目ヲ細メ 喜ブ。
  • 凡ソ 正シイ。
  •  始マル。
  •  弱イ。

22−28 すなわち mösikö 若シクが 体言相当として附属成分となっていくのは 一次原則Ⅴ連体法( -sikö )が体言化されて変則Ⅲ概念法としての -sikö シクとなったという一段階を経由していると見ることもできるのではあるまいか。
22−29 さらに第三の例証として いわゆるク語法がある。

  • 恐ラ‐ク / 曰ハ‐ク / 老ユラ‐ク。

詳しいことはのちに譲るとして このク語法の形態も――つまり一次原則Ⅴ連体法 kö > -ku と仮説している これも―― 一たん体言と見なされ そこから さまざまな品詞としての用法を持ちえていると考えられる。

  • 恐ル→恐ルラク→(発音上の簡便化)→恐ラク:超文条件の附属成分(《畏れるところでは / 恐れることながら》)
  • 曰(い)フ→曰ハク:論述用言かつ文条件の如き役割(《言った》+《言うことには》)
  • 思フ→思ハク:思惑と書かれる体言(《思うところ》)

22−30 これは mösikö 若シクの成り立ちに似ているし 状態用言の変則Ⅲ概念法( öhö-kö 多ク / yasa-sikö 優シク)にも 類似している。
これらが 論述条件(=副詞用法≒連用形)(多ク喋ル / 優シク語ル)にもなりうるのは ク語法の形態(思ハク / 老ユラクなどの体言化)と同じように 原則Ⅴ連体法→変則Ⅲ概念法として 一たん体言相当の語となった段階を経ているからではないか。
22−31 いま捉えようとしていることは 一次原則Ⅴ連体法( -kö / -sikö )が 概念相を与えられ体言と見なされ さらには変則的にⅢ概念法におさめられていったのではないかという点である。
22−32 言いかえるなら むしろ最初には原則Ⅴ連体法に相当する yö-kö > yöku 良ク / hösaha-sikö > husaha-siku 相応シクという形態が作られ これが体言相当として 文中に

  • 良ク 見ル。 / 相応シク 語ル。

のように絶対格で(=無格のまま)提示されたとき これは 論述条件と見なされた。そうだとすれば 一方で これら良ク / 相応シクには 状態用言のⅥ存続法として良シ / 相応シという形態があるのだから そして他方で 論述条件(=副詞用法≒連用形)になるのは 動態用言ではⅢ概念法である(§22−27)のだから これら良ク / 相応シクは 変則的にでもⅢ概念法活用だと位置づけられたことになる。
この回りくどさは 状態用言の活用組織が 寄り合い所帯だからである。すなわち用言原形が 0 -sö と0 -kö / sikö の二つないし三つであるところから出発する結果になっているからである。
22−33 もっとも

  • コレハ良ク アレハ悪イ。

というふうに用いられるなら この良クは論述述格をになって基本成分であるのだから まさしく用言であり それが 法活用していると言わなければならない。それは 変則的にでも Ⅲ概念法活用なのである。
22−34 これらの結果 変則の活用組織では 一次原則Ⅲ概念法( -ki / -siki )と一次原則Ⅴ連体法( -kö > -ku / -sikö > -siku )とが ちょうど互いに入れ替わったかたちとなった。
22−35 以上が 状態用言の活用組織の生成にかんする仮説である。それによれば もともとは 各活用形態ごとに部分的に 第一次強変化の原則に従いつつ 相活用や用法の変化によって 形成されたものと思われる。その結果は 第一次組織の変則形態となった。
22−36 つづいて・しかも関連した議論として 用言にはク語法とよばれる用法があるので これについて考える。
22−37 恐ル→恐ルラク / 曰フ→曰ハク / 老ユ→老ユラク これらのク語法は アクという体言が 用言のⅤ連体法に接続して作られたと説かれる。アクは《所》の意で akö(アコ・アク)‐garä(離レ)=所離レ(《我れを忘れる》といった意味)=憧レという語に残るそれだと言われる。

  • ösöruru(Ⅴ)-aku > ösöruraku > ösöraku 恐ラク
  • ihu(Ⅴ)-aku > ihaku 曰ク
  • öyuru(Ⅴ)-aku > öyuraku 老ユラク > oyraku 老イラク(発音上の変化)

22−38 この説に対して 別様の解釈も成り立つかも知れない。これを考えておきたい。
22−39 すなわち 一次原則Ⅴ連体法 -kö > -ku クの体言化が 用言のⅠ不定法( -a )または原形(0 -ö // 0' -i / -ï / -ä / -ö )からR‐派生したⅠ不定法(たとえば -ö-ra )に接続したという別種の仮説である。
22−40 大野晋岩波 古語辞典 補訂版》(pp.11−12)に挙げられている語例に沿って いまの別種の解釈を掲げてみたい。

  1. 有リ(一次異種〔Ⅵ=Ⅲ〕): ara(Ⅰ)-kö 有ラク
  2. 散ル(一次原則活用):tira(Ⅰ)-kö 散ラク
  3. 来(二次オウイ三段):kö(0’)-ra(R‐Ⅰ)-kö > kuraku 来ラク
  4. 為(二次エウイ三段):sö(0’)-ra(R‐Ⅰ)-kö > suraku 為ラク
  5. 見ル(二次イ一段):mi(0’)-ra(R‐Ⅰ)-kö > miraku 見ラク
  6. 恋フ(二次イウ二段):köhö(0)-ra(R‐Ⅰ)-kö > kohuraku 恋フラク
  7. 告グ(二次エウ二段):tögö(0)-ra(R‐Ⅰ)-kö > tuguraku 告グラク
  8. 知ル(二次〔原形0’ sirä 〕エウ二段):sirö(0)-ra(R‐Ⅰ)-kö > sireraku 知レラク
  9. ム(推定法・補充用言・一次原則):kohï(Ⅰ)-ma(Ⅰ)-kö > kohïmaku 恋ヒ
  10. ヌ(否定法・補充用言・一次特殊):ara(Ⅰ)-na(Ⅰ)-kö > aranaku 有ラ
  11. ケム(回想法補充用言・一次原則):kayöhi(Ⅲ)-kema(Ⅰ)-kö > ・・・-kemaku 通ヒケマ
  12. ヌ(消滅完了法・補充用言・一次異種〔Ⅱ・ⅤでR‐派生〕):hukä(Ⅲ)-nö(0)-ra(R‐Ⅰ)-kö > ・・・-nuraku更ケヌラ
  13. ケリ(回想法・補充用言・一次原則):ari(Ⅲ)-kera(Ⅰ)-kö > arikeraku 有リケラ
  14. ツ(完了法・補充用言・二次エウ二段):akasi(Ⅲ)-tö(0)-ra(R‐Ⅰ)-kö > akasituraku 明カシツラ
  15. 寒シ(状態用言・変則一次・ク活用):samö(0’)-kö(0)-kö > samukeku 寒ケク
  16. 悲シ(状態用言・変則一次・シク活用):kana(0’)-sikö(0)-kö > kanasikeku 悲シケク

22−41 すなわち 問題点は 二点ある。次の②’と③。これを含みつつ 整理してみれば。
① 第一次(原則=強変化)の用言には そのⅠ不定法(Ⅰ -a )へ このク kö > -ku が接続する。

  • #2散ラク; #6恋ヒク; #10有ラ無(な)

①’ 一次の異種でも Ⅵ存続法がⅢ概念法と同形態( ari 有リ)となるラ行変格活用のばあいには 同じくである。

①’’ ただし同じく一次の異種で ナ行変格活用のばあいは 別である。これは Ⅱ条件法とⅤ連体法とを R‐派生変化させる(Ⅱヌレ / Ⅴヌル‐)完了法の補充用言・ヌの場合であるが 同じ不定法(Ⅰ -a )による接続であっても R‐派生変化のそれ(Ⅰ -nö-ra > -nura ヌラ)となっている。

  • #12更ケヌラ

② 第二次・法活用をおこなう用言では 原形(一次0 -ö // 二次0’ -i / -ï / -ä / -ö )からR‐派生活用させたそのⅠ不定法( köra > kura 来ラ / mi-ra 見ラ / kohö-ra > kohura 恋フラ / ・・・)に クが接続する。次のすべてに当てはまる。

  • 二次イ一段:#5見ラ
  • 二次イウ二段:#6恋フラ
  • 二次エウ二段:#7告グラク;#14 明カシツラ
  • 二次オウ二段:(オウイ三段:)#3来(く)ラク; (エウイ三段:)#4スラ

②’ ただ 二次エウ二段の知ル(二次Ⅰ=Ⅲ:知レ)のみ 用言原形が 一次0 sirö〔 > sire か?〕のほかに 二次0’ sirä > sire が用いられているとも考えられる。そうだとすれば 例外である。ただし 上に記したように 一次原形0 sirö > sire という変化が考えられるならば Ⅰ不定法のR‐派生形式(Ⅰ sirö-ra > sirera →知レラク#8)は 仮説の定式どおりであるから 例外としなくてよいかもしれない。
③ 状態用言(寒シ; 悲シ)の場合 特殊である。原形(0 -kö / -sikö )を用いつつ それをR‐派生させない。しかも この原形が -kö > -kä > -ke と変化することになる。

  • #15samu-ke-ku 寒ケク / #16kana-sike-ku 悲シケク

この母音の発音上の変化 -ö > -e は 上の②’の場合と同じではある。
22−42 ク語法にかんする議論の④として 次の一点を含めなければならない。回想法の補充用言・キに ‐クが接続する場合である。
22−43 まず補充用言に 回想法のキがあり これのみまったく特殊に変則的な法活用を持つ。あたかも 変則第一次の活用組織を持つことになった状態用言と同じように その用言原形を 0 sö / kö としている。

  • 回想法の補充用言・キの法活用
不定 -sä < sö
Ⅱ条件法 -sika < sïka < sö-i+ka
Ⅲ概念法
Ⅳ命令法
Ⅴ連体法 -si < -sï < sö-i
Ⅵ存続法 -ki
=別種変則

22−44 形容詞の変則第一次なる活用組織の生成にならって ①用言原形を0 sö と0 kö の二つとするその集合性 ②各活用形態がそれぞれその一つだけとして 独自に生成されたというその部分性および変則性 これらを捉え 説明としてよいであろうか。
22−45 中で特には Ⅱ条件法 -sika が 考えにくい。ただ -ka は もともと当てられていた -si- にあとから添えられたにすぎないとは考えられる。 -si- という一次原則Ⅲ概念法形態が 変則的にⅡ条件法にあてがわれたと見ることになる。概念法名格を持った形態(Ⅲ si )なら ほとんどどの法活用にも 応用されえたといった推理にまでは 導かれうる。用言・ス(スル)のⅢ概念法 si シが そのままで 命令法にも 連体法( si-götö 仕事)にも用いられ得たというような推理である。これにとどめざるを得ない。
22−46 そうしてこの場合 ク語法としては -シ-ク -si-ku < si-kö となる。活用表からいけば Ⅴ連体法の -si シである。すなわち だとすれば ク語法は 連体法(恐ルル‐)+体言アク > 恐〔ル〕ラクによって成るという仮説のほうが 優勢である。

  • このとき 連体法のシは si ではなく sï であったとされ その母音/ ï /は アクのアという母音には接続することなく このアク(《所》)に代えて kö 処(コ・ク)のクが 例外的に用いられ その結果 sï-ku シクとなったというのが説明である。

22−47 そしてここでも これまでの仮説による別解が 可能である。
22−48 兎追ヒ‐シ(Ⅴ)‐彼ノ山 の‐シ(Ⅴ連体法)が そのク語法で 追ヒ‐シ‐ク(《追ったことがあったなぁと回想されること》)というふうに用いられたという一説に対して 別説では 用言原形のシ(0’ si / あるいは sï < sö-i )が 用いられたということになる。
22−49 しかも この補充用言・キの活用組織は ちょうど状態用言のそれと同じように 第一次強変化の活用形態を前提としつつ 変則的に成り立ったとするならば やはり状態用言(寒シ/ 悲シ)と同じように R‐派生を介さないで(寒‐ケ‐ク / 悲‐シケ‐ク)そのまま用言原形(0’ si / s ï )に クが接続した(→シ‐ク)と考えても 不都合ではない。ほかに語例がない場合での議論であるけれど この別解によっても その説明の合理性は保たれたと思われる。
22−50 すなわち 補充用言・キのク語法(追ヒ‐シ‐ク)は 動態用言の如く 追ヒ‐スラ‐ク(・・・-sura-ku < ・・・-sö-ra-kö)と形成することなく また状態用言の如く 追ヒ‐セ‐ク(・・・-seku < ・・・-sö-kö )とするのでもなく ただし その状態用言に倣って R‐派生活用を用いないで 用言原形からシ( si / s ï )‐クと形成した。
22−51 用言の法活用組織の生成にかんして 以上のように考えた。
22−52 補充用言については ほとんど扱わなかったけれど 一次 / 二次 / 変則一次の活用形式で説明できると思われるので 省略に従いたい。