言語記号の恣意性は正しいか
- もくじ→言語記号の恣意性はただしいか。(小論) - caguirofie040921
- 日本語全般についての議論→序説・にほんご - caguirofie050805
日本語において子音が相認識を持つ(音素がみづから意義素でもある)という仮説――ささやかなソシュール批判つづき――
はじめに仮説を 表にして掲げます。
- 表1 日本語における子音の相認識・まとめ
表出のあり方|子音|知覚相(第一次相) |その継続相(=有声子音)
―――――――――――――――――――――――――――――――――
初発の知覚 | | |
Ⅰ基本順出相|h |順定→haハ(受け留め法)|’(ア行子音)
Ⅱ基本反出相|k |反定→kä気 |g→gaガ(関係主題格)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
初発の知覚に|r |自然想定→wa-re我レ |−
おける順出と|n |同定→na名 |−
反出を基本と|〃 |否定→na-si無シ |−
して展開する|m |認定→ma目・真 |−
関係構造の中|〃 |推定→möも(推定取立て) |−
で派生=補充|s |指定→sa/si/sö其 |z
・・・・・・・・・・・・| 〃 |肯定→na-si無シ |
・・・・・・・・・・・・| t |不定→ta手・誰 |d
・・・・・・・・・・・・|〃 |〃 →tö跡・処 |
- 表2 子音の相認識・まとめの補足――基本順出相/ h /の異種子音
初発の知覚 |
Ⅰ基本順出相 |h |順定→haハ(受け留め法)|’(ア行子音)
- 異種・自同 |′ |自称→′are吾レ |′→′iイ(=事)
- 異種・特定 |w |特定→wa我 |−
- 異種・称定 |y |称定・実定→yaヤ(呼格) |−
- 異種・強勢 |p |強勢→pikaピカッ |b
- [異種・自同|′ |]は / h /の音が消えた無声子音を想定。
- 表3 子音の第一次=知覚相からの第二次展開相=認識相
初発の知覚
Ⅰ基本順出相 / h /:順定相→haハ(受け留め法)
- 順出したものを順定しさらに中心で受け留める展開の相
- 中心相→haハ(中心主題格)
- 副次中心相→haハ(副主題取立て相)
- 中心との対極として展開
- 周縁部分相→ha端・he辺
- 順出から頻出として展開
- 反復習慣相→hu経
1異種・自同 / ′/:自称→′a吾
- 自定相→′önö / ana 己
2異種・特定 / w /:特定→wa我
- 特定・固定・強意相→woヲ(対格)
3異種・称定 / y /:称定→yaヤ(呼格)
- 称定・実定相→yöヨ(呼格 / 実定法)
4異種・強勢 / p /:強勢→pikaピカッ
- 強勢相→cf.hika-ri光リ
Ⅱ基本反出相 / k /:反定→kä気
- 反出させたものを反定として定めさらに疑い考える展開の相
- 思考・反省・疑問相→kaカ(接頭辞 / 彼・処 / 疑問質問詠嘆法)
- 反出・屈折より変化の相
- 変化・移行・過程相→ku来 / iku 行ク
初発の知覚(基本順出・反出)から派生=補充として表出
- / r /:自然想定→wa-re我レ
- 自然生成へ展開した自発相→hika-ri光リ / ru/raruル/ラル(自成法)
- 自然想定より一般的にモノ・コトを代理するように展開(一般代理相)→wa-re我レ・ware-ra我レラ / ku-ru-tö-ki来ル時
- / n /:同定相→na名;否定相→na-si無シ
- 同定相からたとえば属性相→nöノ(属格・体言代理)
- 同定相から対極の否定相へそして消滅・終了相→nuヌ(完了法)
- / m /:認定相→ma目・真;推定相möモ(推定取立て相)
- 認定相からさらなる認定相→mö/mï身;mi見
- 確言・意思・推量相→muム(意思法・推量法)
- / s /:指定相→sa/si/sö其;肯定相→na-si無シ
- 再言・起動・人為・使役相→su為(na名+su/ru→nasu為ス/naru成る)
- / t /:不定相→ta手・誰;tö跡・処
- 不定・隔定相→töト(引用・並立格)
- 一回性・放出・完了相→tuツ(完了法)
1 子音は 母音と違って その調音にあたり なんらかの障害が与えられる。
2 発音にあたって 何らかの障害を加えられる子音のうち まずほとんど障害が与えられず息の音を出すのは / h /である。または 両唇で軽く(/ F /)あるいは強く(/ p /)息の音をさえぎって 発音する。これは 障害の軽微ということで 順出の相にかかわるものと仮想される。
資料1 / h /=順出・順定相;中心主題相・副主題相・周縁部分相;反復・頻出・習慣相
- ha ハ(中心主題を提示する格);〔その対極=〕端
- hi 日・霊
- hö/hï 火
3 この順出相/ h /に対して 反逆を起こすのが 反出相/ k /である。喉の奥のあたりで緊張点をつくり 強くさえぎって調音する。これが――調音の際の音の折り返しのさまを取り立てて――反省・思考・疑問の相を帯びさせるものと推測される。
資料2 / k /=反出・反定相;思考・反省・疑問相;変化・移行・過程相
- ka カ(疑問法・詠嘆法など);彼・処
- kö 此・処
- ki 来
- ga ガ(中心主題に関係する主題を提示する格=関係主題格;主格)
4 これらの二つの子音(/ h・k /)は 初発の知覚に現われ 順出・反出の対比として 基本的な相認識を担うと捉える。この基礎からさらに多様な相を展開させているものと捉えられる。
5 たとえば 順出・順定相/ h /は 中心主題相(ha ハ=主題格;hö 穂・帆・秀)を形成し と同時にその対極として周縁部分相(ha 端;he 辺)を兼ねるかたちとなっている。ha ハ(主題格)が 文の中において中心第一主題の提示だけでなく いくつかの副次主題をも取り立てる相へと難なく転化しうるように その対極のhe 辺は 方向格(he > ′eヘ・エ)を受け持つようになる。
6 さらにあるいは 順出相はそのまま 順出の反復として頻出の相となりうる。これは 反復・習慣の相(hu 経;-hu/-bu 倣‐フ・学‐ブ)をかたちづくる。
資料3 / k-h- /=反出相+順出相の事例(反定したもの( k )の順定( h );甲を反定し乙を順定する;甲を反出させ 乙を順出させる)
- ka-hu 処‐経=交フ・替フ・買フ(《甲乙の二つの別のものが互いに入れちがう意》:大野晋);またここから 《場=処( ka )や物が入れ替わる》の意のほかに 《甲と乙二者の釣り合い》として次の例:
- ka-hu 支フ(=あてがう)
- ka-hi 効(=行為とその効果との釣り合い・張り合い)
7 反出相/ k /からは 中心主題相の ha ハ(主題格)と関連して 関係主題相の ga ガ(関係主題格)が導かれる。
- 日本語の文は 基本的に 《Aハ Bガ Cナリ。》または《Aハ Bガ Cスル。》という型式から成ると考える。
- このうち Bなる語句は 第一主題Aの 関係主題だと考えられる。
- ちなみに 定義主格や動作主格を 中心主題格(Aハ)も 関係主題格(Bガ)も 条件に応じて 取り得る。(例示省略)
8 反出相/ k /およびその継続相/ g /について 相の認識が 反出・反定の知覚(kä気)に発しているなら 思考を促し 疑問を呈し 反省を加えることに結びつく。順出相の/ h /の時間過程としての相認識が 反復・習慣の相であったとすれば 反出相/ k /の場合は 移行・変化の時間過程だと考えられる(ku 来;iku 行ク)。
資料4 / h-k- /=の事例
- ha-ka 計・量・捗(←中心主題=ha の経過=ka)
- haka-ri 計リ・測リ(-ri は自然想定による動態用言(動詞)化)
- haka-ra-hi 計ラヒ(-hi は思考や行為の反復相として動態用言化)
- haka-na-si 果(捗)無シ
- hö-ki (秀+過程→)祝キ
- hökö-ri (秀+過程+自発→)誇リ
- hö-ke (秀の対極+過程→)呆ケ
- bö-ke 呆ケ(無声子音〔たとえば/ h(p) /〕の担う相を一般に継続相として受け継ぐ対応の有声子音〔したがって/ b /〕は さらに具体的に 強意の調子あるいは負の強調として蔑視の色合いを帯びる。)
9 息の音/ h /を それぞれ 軽くさえぎって調音するところの / ’(ア行子音)・y・w /は 順定相=/ h /の異種だと思われる。
/ ’/=自称・自定相。/ w /=強意の自同相。前者は さえぎり方をむしろ軽く無くす。後者は 逆に軽く過剰にする。
これらとは別に 発音に際して断層をつけるように邪魔をして調音するのは / y /=称定・実定相。/ h /の順定相を色濃くしているのだろうか。
資料5 / ’・ w ・ y /=順定相の異種(自称・自定相;強意の自同相;称定・実定相)
- ’önö /’ana 己 (自己という中心主題を提示。/ n /は同定相)
- wa 我(自分という中心主題を 強意の自同相で提示する)
- wa-re 我レ;’önö-re己レ(自然想定相/ r /は 親愛称のごとき相として)
- wo ヲ(対格= ハが提示する中心主題から発した一主題を直接 面的に・立体的に相い対するものとして提示する相)
- ya ヤ(呼格= ハが提示する中心主題から発した一主題を呼称の相で提示する)
- yö ヨ(呼格;実定法= 呼称の相で定めたかたちだろうか)
- yö-bu 呼ブ(/ b←h (p)/は 順出・反復・習慣の継続相)
- ya-ya 稍・漸(《いかにも事の度合いが進み つのるさま》←実定相。《いくぶん・少し》の意は 対極の相認識として派生。)
- yiya /yiyö 弥・愈(≒同上)
10 / p・b / は / F /や/ w / をつうじて 息の音/ h /と 互いにおなじ仲間を形成する。
資料6 / h 〜 F 〜 p 〜 w 〜 b /=順定相の同種として
- a-ha-re (自同+中心主題+自然想定)
- →appare 天晴レ
- →aware 哀レ
(中心とした主題を 讃えたり あるいは 憐れんだりするその感情の内容を規定するものについては 子音あるいは母音など音韻は 与り知らないと思われる。語としての生成に際して それじたいとして 意味と なんらかの仕方で かかわるのだと推し測られる。)
11 あらためて 有声音は それぞれの無声子音の持つ相内容を継続状態において提示すると仮説する。この継続相ゆえ 必ずしも 語頭に立たないという推理へとつながる。また 相の継続というのは 強意になりうる。
資料7 無声子音 対 有声子音(対応する無声子音の相の継続相;強意・蔑称)
12 語頭に立たないということでは 自然想定相/ r /が同じである。自然想定相は なんらかの相を一般代理することが多く(たとえば -ru派生として 体言等から基本的な用言の形態をつくる) もし代理する以前に立てられることがないとすれば その通り語頭には来ないのであろう。
13 この子音 つまり 舌先を口の中の天井のどこかに当てるようにして調音する――日本語ではただ一個の種類の――/ r /は 息の音/ h /を遮ろうとする子音一般の現われを しるしづけるもののように見られる。一般代理(子音一般の代理)と自然生成との二つが 基本の認識相だと考えられる。
資料8 / r /=自然想定相;自然生成・自発相;一般代理相
- ware-ra 我レ‐ラ ←wa-re 我‐レ ←wa我 (-ra / -re / -ru(rö) などの付加は 自然想定としては 親愛の相を また 一般代理としては 余韻や剰余をかもし出したりしたものか。)
- hi 日→hi-ru 昼
- ma/mä 目 → mi-ru 見‐ル(自然生成より用言化) → mira-ru 見ラ‐ル(自然想定より受け身 自然生成より自発・自発より可能などの相で用言補充に用いられる。)
- ta/tä 手 →tö-ru 取‐ル →töra-ru 取ラ‐ル(前項に同じく。) →töraru-ru-töki取ラル‐ル‐時(取ラルという複合用言の連体法(連体形)だが あたかも取ラルという体言に -ru(rö)-という属格をつけたかたちのようにも見られる。もしそうだとすれば 自然想定・親愛相が 語と語との接続に用いられて 属格を担っている。)
14 順出相/ h /にほとんど等しい/ F・ p ・b /と同じように 両唇の遮りで調音する子音/ m /は 順出という如く 自体にかかわって認定する相だと考えられる。
両唇の遮りは 関係する対象つまりその自体のことを 自同律のごとく(=/ ’・w /)表出しつつ しかも 収め・引き受けるような相を帯びると思われる。(ma 目・真;mi 見;mö/mï 身)
ただ その自体の認定が 単なる思い込みであったならば 口から出まかせになり 逆に(つまり対極の相としての如く)推定相を導くかと考えられる。(mö モ(疑問詞を承け 不確定な題目を提示するという))
資料9 / m /=認定相(自体にかかわる);推定相
- ma (身と身との関係が想像される場におけるところの)間・際
- mu-ku (身+移行)向ク
- mu-su (身+起動)生ス(息ス‐子・息ス‐女)
- mu-ra (身どうしの関係の想定)群・村;(その対極=曖昧に推定された身として)ムラ(=不揃い)
- hö-mu (秀+認定)褒‐ム
- yö-mu (称定+認定)読‐ム(=数える)
- haka-na-mu (・・・+認定)果無‐ム
- aware-mu (・・・+認定)哀レ‐ム
15 上のようにどちらかと言えば 自体にかかわる子音/ m /に対して 舌先と歯茎とで調音するとき その子音/ n /は 遮り方が大きい。もしくは 内側の歯茎に当てた舌先のあり方によって 粘着性が現われる。これが 同定相を呼び込んだものか。(na 名;ni二(与格);nöノ(属格))
ただし より大きく遮ったゆえ 客体のほうにかかわっていくのだろうか。(すなわち どちらかと言うと / m /=自体の認定←→/ n /=客体の同定か。)
しかも この同定(na 名;nö ノ)が ついにその対極へ突き抜けてしまうなら むしろ客体の否定相が現われる(na 無)。否定のかたちで同定するわけである(na ナ(禁止法);nu ヌ(打ち消し法の補充用言))。
資料10 / n /=同定相;否定相
- 《音素/ n /=意義素として同定相》の事例→[言語]ソシュール批判・補説 - caguirofie041023を参照。
16 上の/ n /と同じような調音の仕方で しかも舌先の解き放ちがより素早い子音/ t /は 客体にかかわりつつ粘着性が少ないゆえ 不定の相で同定するものと思われる。
不定としての指示からは 隔定・放出・完了などの相を帯びると考えられる。
資料11 / t /=不定相;隔定・放出・完了相
- tö ト
- →toto トト・too-san 父さん cf.haha 母
- tö-i > te→tete テテ・tete-oya テテ親 cf. baba 婆
- 〃 >tï →titi 父 cf. kaka 母
- to 門(出入り口)・戸(出入り口の隔て)・外(<不定の相?)
- tö-ki 時(不定相+経過)
- tö-ki 解‐キ・溶‐キ・説‐キ(不定相の状態へ移行させる= ゆるめる・温めて液状にする。また 氷解するなら 解明・説明するの意か?)
- tö-bökä ト‐呆ケ
- tö-hö (不定相のもの〔へ〕の順定)→töhö-si 遠シ・töhö-ru/-su 通ル/通ス
- tö-hi 問ヒ(不定相のものの中心主題化)
- töhi-tu 問ヒ‐ツ(ツ:解き放つ相での完了法の補充用言)
- cf. ki-nu 来‐ヌ(ヌ:同定=到達の相/ n /ないし消滅の相/ n /での完了法の補充用言)
17 舌先を 上記/ n ・t / と同じような位置に・ただし軽く置きつつ なおも上下の歯を閉じ 閉じ続けるのは 子音/ s /である。
歯を閉じ続ける形で息の音/ h /を遮りつつ しかも出そうとするのであるから その息の音の子音/ h /の順定相が 強い指定の相(sö 其)を伴なうものと思われる。
動態つまり用言に適用されるなら 一般に人為の相(su 為)を帯びるはずだ。
18 この/ s /に関して 反出相の子音/ k・g /との複合形を取り上げ 語例を見てみたい。Vを母音とするとき sV+kV / sV+gV という形態素の事例を検討してみる。
19 / s /=指定相・人為相 そして / k /=反出;思考・変化・移行過程相 (その継続相=/ g /)であるとすれば sVkV または sVgV という形態素の意味内容は 仮定にもとづき次のようだと推理される。
- / s /で指定された形態素 sV として表わされる一定の対象が その全体または部分において kVで受け止められると 反出相で知覚され 思考の対象となる。また これが 過程相におかれる。
- しかも ここで思考の対象となるのは 基本的に制約はないと考えられ 内容として広い範囲に及ぶものと推察される。
- いま その一例として 《顕著なもの・秀でた(ちなみに hö-idu 秀‐出ヅ>ヒイデル)もの・さらには 突き出る形・また過度な度合い》の相において 反出・反定されつつあると捉える。
この仮定に従えば 一つの適例は 次である。
資料12 / sVgV- / =(指定相+思考・過程相)→
- sögö (指定されたものが 度合いにおいて他を抜きん出ている)→
- sugo-si 凄シ(元は寒冷の度合いにかかわるらしい)
- sugu /sugo-su 過グ/過ゴス(一線を超える)
- sugu-re 優レ・勝レ(抜きん出る)
- sugu-ri 選リ(抜きん出たものを選び出す)
- ちなみに / ö / > / u または o /という変化を想定している。
20 次に 今度は逆に 形態素を saki(sakV)というふうに具体的なものに絞って いまの検証をつづけよう。
凄し・過ぐ・過ごす・優れ・選(すぐ)りの sugu- / sugo-と 例えば 先・咲き・裂きなどの saki とは sVk(g)V という形態として 同一もしくは同種であるが それらの間に 意味内容としての対応はあるのか。
直ちにこれは――つまりsakV は―― 大きく次の四種の相認識に区分されるものと思われる。
- 表4 形態素 saki( sakV )に関する基本的な相認識を四種に分類
相認識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・saki の語例
① 先端(境界)部分・・・・・・・・・・・・先・岬
② 突出・生長・・・・・・・・・・・・・・・ ・咲キ〔・栄エ・盛リ〕・幸ハヒ
③ 内部分割(一種の生長か)・・・・割キ・裂キ
④ 別体との分離・・・・・・・・・・・・・・・放キ・離キ〔・避ケ・離カリ〕
③の分割という相認識や ④の分離の相は 突端部分というよりは 周縁・境界の部分に焦点が当てられていると考えるとよい。そこから 分離・分割が起こる。
このような変化・移行過程の相については 反出相の/ k /の相認識を裏切っていないと考えられる。また / sugu- /=凄い・過ぎる・優れるの《抜きん出た度合い》という意味内容と矛盾しない。
21 いま見ようとしている例は 形態素 sV に関して言えば 指定相一般( sa/ si/ sö 其ノモノ)から すでに特化してそれらの《目立つ箇所・先端や 境界の部分》が取り立てられている場合である。対極を指定する相とも言える。次のごとくまとめることができる。
- 表5 形態素 sV にかんして一般相と特殊(対極)相の対比
- 一般指定相→
- 特殊(対極)指定へと展開(たとえば先端・境界部分の取り立て)
―――――――――――――――――――――――――――――――
- sa サ(其れ・そのように・さあ〔注意を促す。ただし話頭に来れば話と話との境界に置かれてもいる〕・‐さ〔形容詞の体言活用語尾〕→
- sa-sa 細小
- sasa-nami 小波
- sasa-yaki 囁キ
- sa-si 狭シ・sa-ma 狭間
- sa-su 指ス(指定・ただし直線的)→
- sa-su 射ス(光線)・刺ス(先鋭部分を突き刺す)・閉ス=鎖ス(境界を遮断)
- sï/ si シ(其れ・し〔誰‐シ‐モ=ゆるい取り立て〕・し〔形容詞の存続法=終止形の語尾〕・し〔動詞スの概念法=連用形〕→
- si-rö 代(代わり=一般指定+一般代理)(mu-siro 寧ろ(身+代)?)→
- si-ru 知ル・領ル→
- si-rö/ si-ra 白
- si-ru-si 著シ・徴・記シ
- si-ta 下
- si-mö 下
- si-ri 後・尻
- si-mu 染ム・滲ム(境界を越えて入り込む)
- sö/ zö ソ(其れ・ゾ〔指定法・断定法〕)→
- sö-kö 其処→
- sö 背〔背・向キ(叛き)・背リ(反り)〕
- sö-kö 底(周縁部分)
22 これで ある程度の検証をなしえたと考える。最後に なお一層検討すべきこととして いくらかに触れておきたい。
たとえば sika 然 という語は / k /=反出相を宿しているから その指定のあり方に 思考の継続・疑問が残るかといえば そのようでもない。
資料13 sika に 疑問・思考相はあるか
- sika 然=《そう。そのように》
- sikari(sika-ari) 然リ=《そうである。そのとおりだ》
- sika-tö 確ト=《確かに。必ず。はっきりと。全く。完全に》
- sika-ri > sikkari 確リ=《しっかり》
これは 表4の①や②の内容が かかわっていると言うべきであろうか。すなわち 《そうであること》が 突出した姿・生長した状態にあると捉えられたのであろうか。
資料13−1 sika のつづき
- sika-ri 叱リ=《怒る。とがめる。悪口を言う》
というとき そのこと( si )に対して 思考・疑問を加えること( ka )が自然生成する( ri )と考えたほうが 素直のように思われるが 怒り(これ自体は 音素は表わしていない)の顕著になるさま( sika =①② )の用言化( ru )なのであろうか。
ちなみに 《突出・生長 ②》とさらに《その結果ないし過程としての充全性》をあらわすものに 次の例がある。
資料14 sVkV =《突出・生長》という相認識の例
- sökö-sökö / -yaka スクスク/ 健ヤカ
- sökö-mu 竦ム(こわばる)
- sikö 醜(しこ=頑強)/ sikö -ri 凝リ・痼リ
- saka-si 賢シ(丈夫である)
23 sVkV =《先端・境界の部分 ①》が 《心理関係》に当てはめられるなら つぎの語例を得ると言ってよいものかどうか。
資料15 sVkV=《先端・境界の部分》という相認識の語例か
24 同じく 《空間関係》にかかわる場合。
資料16 sVkV / sVgV =《先端・境界の部分》の語例
25 《〔Aの〕突出・生長②》が 別の対象〔B〕との関係で 《過程》において現われる場合。
資料17 sVkV=ふたつのもの(AおよびB)の間で《突出・生長》がかかわる語例
- siki 及キ・如キ(AがBに追いつく・及ぶ);頻キ・茂キ(事が重なって起こる。Aが先行するもの(=B)の一端に接近・到達する=①x②);敷キ・領キ(AがさらにBの全体・一面に及ぶ。②)
- sige-si/ -ri 繁シ / 茂リ(幹・枝・葉などが互いに追いかける(siki及キ)ようにして突出・生長)
- suki 次(後につづくこと。二番目であること。①x②)
- sugi 過ギ
26
資料18 《分割③・分離④》にかかわると思われる認識相の語例
- sögV 殺ギ・削ギ/ 削ゲ (③④)
- suki / suka-si 鋤キ・漉キ・梳キ・透キ・隙 / 透カシ・空カシ(始原の相としては 全体を 中身が薄い(無い)部分と 濃い(有る)部分とに――つまりたとえば 溝と畝とに―― 分割③・分離④する。そこに 隙が出来れば 透き(やがて 透明性)へ発展。)
- suki-to / -ri スキト / スッキリ(分離して欲しいものが分離した)
- suge 挿ゲ(有と無との二つの部分に分けられた(③)その欠如のほうの部分――たとえば穴――に 緒などを通すこと)
- suga-ri 縋リ(挿げられ 嵌め込まれたかたちとなれば また縺れるようになる)
- sökö-nV / -nahV 損ネ / 損ナヒ(これは 分割③・分離④とともに / n /=否定相・消滅相も その役割が大きいか。いや ただの同定相の/ n /でよいか。cf.秋‐ナヒ=商ヒ)
27 もし日本語において 言語記号の恣意性の原理が当てはまらないのならば 仮りにそのほかの諸言語すべてにおいて該当するとしても それは もはや恣意性の原理とは言わないと考えられる。
特に 自然と文化との対比で ひとつの言語だけにおいてでも それらの間につながりがあるとするならば もはや 人間はその自然性から 言語の獲得によって 逸脱し 文化状態に移行しきったとは 言えないと考えられる。
(この項 終わり)