第七章c
全体のもくじ→序説・にほんご - caguirofie050805
第七章 子音組織の生成(§25)
子音組織の生成 もくじ
§23 日本語における子音=意義素なる仮説:→2005-09-14 - caguirofie050914
§24 例証1:→2005-09-15 - caguirofie050915
§25 例証2:→本日
§25 具体例をいまひとつ挙げて 見てみよう。sVkV / sVgV という形態素の並列である。
25−1 s=指定・人為相 k=反出・思考・変化・移行過程相(その継続相=g )であるとすれば sVkV または sVgV という形態素の意味内容は つぎのようだと推理される。
《 〔sで指定され形態素sVとして表わされる〕一定の対象が その全体または部分において 〔kVで受けとめられると〕反出相で知覚され 思考の対象となる。またそれが 過程相におかれる。》
しかも
《 ここで思考の対象となるというのは 基本的に制約はないと考えられ 内容として広い範囲に及ぶものと推察される。
《いま その一例として 〈顕著なもの・秀でたもの・さらには 突き出る形・また過度な度合い〉の相において 反出・反定されつつあるとしよう。
《その適例は 既出でもあるが 次のごとく。
- sögö →
- sugo-si 凄シ(寒冷の度合にかかわるらしい)
- sugu 過グ/ sugo-su 過ゴス(一線を超える)
- sugu-re 優レ・勝レ(抜きん出る)
- sugu-ri 選リ(抜きん出たものを選び出す)
25−2 次に 今度は逆に 形態素を saki(sakV)という具体的なものに絞っていまの検証をつづけよう。直ちにこれは 大きくつぎの四種の相認識に区分されるものと思われる。
- 形態素saki ( sakV )に関する基本的な相認識を四種に分類
| 相認識 | sakiの語例 |
|---|---|
| ?先端〔境界〕部分 | 先・岬 |
| ?突出・生長 | 咲キ〔・栄エ・盛リ〕・幸ハヒ |
| ?内部分割(一種の生長か) | 割キ・裂キ |
| ?別体との分離 | 放キ・離キ〔・避ケ・離カリ〕 |
?の《分割》や?の《分離》の相は 突端部分というよりは 周縁・境界の部分に焦点があてられていると考えるとよい。子音/ k /によって反出・反定される内容として 問題ないと考えられる。
いま見ようとしている例は 形態素sV にかんして言えば 指定相一般(sa/si/sö其ノモノ)から すでに特化してそれらの《目立つ箇所・先端や境界の部分》が取り立てられている場合である。対極を指定する相ともいえる。
25−3 sVkV / sVgVの例に移る前に 無格名辞sVに関する事例を整理しておこう。前項の最後にのべたことも前提としつつ つぎのようになろう
- 形態素 sV にかんして一般相と特殊(対極)相の対比
| ・ | 一般指定 | 特殊〔対極〕指定(たとえば先端・境界部分) |
|---|---|---|
| sa | サ(其れ・そのように・さあ〔注意を促す。ただし話頭に来れば 話と話との境界に置かれてもいる〕・さ〔形容詞の体言活用語尾〕) | sa-sa 細小(-nami 小波/ -yaki 囁キ)sa-si 狭シ sa-ma 狭間 |
| sa-su | 指ス(指定・ただし直線的) | 射ス(光線)・刺ス(先鋭部分を突き刺す) |
| sï / si | シ(其れ・し〔誰-シ-モ=ゆるい取立て〕・し〔形容詞の存続法=終止形の語尾〕・し〔動詞スの概念法=連用形〕) | si-rö / si-ra 白si-ru-si著シ・徴・記シsi-ta 下 si-mö 下;si-ri 尻;si-mu 染ム・滲ム(境界を越えて入り込む) |
| si-rö | 代(代わり=一般指定+一般代理)mu-siro 寧ロ(身+代?) | ・ |
| si-ru | 知ル・領ル | ・ |
| sö / zö | ソ(其れ・ゾ〔指定法・断定法〕) | 背〔背-向キ(叛き)・背-リ(反り)〕 |
| sö-kö | 其処 | 底 |
かなり不案内な整理であるが 大筋で どちらかと言えば全体・中心にかかわる一般相とそしてその対極の相ないしどちらかと言えば周辺・先端部分にかかわる特殊相とに分かれて どちらにも相認識は及ぶと思われることを見ておきたい。
25−4 さて sVkV / sVgVを語根として さまざまな語を派生させているはずである。以下の例示での丸囲みの数字記号は 前々項の四種のそれぞれを指すものである。
まず《量》にかんして 次の語例を掲げうる。
- sökö-si / sökö-nasi 少(すこ)シ/ 少(すく)ナシ?
- sökö-börö > sukoburu 頗ル(《少し》?/ 《甚だ》?)
- sökö-bakö ソコバク・ソクバク?
- söki-dakö ソキダク?
25−5 次に 《突出・生長?》とさらに《その結果ないし過程としての充全性》をあらわすものに 次の例がある。
- sökö-sökö / -yaka スクスク/ 健(すこ)ヤカ
- 〃 -mu 竦(すく)ム(こわばる)
- sikö 醜(しこ=頑強)
- sikö-ri 凝(しこ)リ・痼リ
- saka-si 賢(さか)シ(=《丈夫である》)
25−6 子音/ s /が 指定相一般にやや戻ってのように 《?突出・生長》が 《抽象性・概念性》を帯びたばあいの語例
- 〔sika 然(指定相/ s /の一般例である〕
- -sika 〔イツ〕‐シカ(主題条件詞。突出させるように取り立てて強調。カ kaで疑問相が加わる。
- sika-mö 然モ(文条件。うしろの文をも認定〔 m 〕)
- 〃-tö / -ri 確ト / シッカリ(?生長の結果の充全性)
- 〃-rV (一次?)叱リ(怒りの部分の突出?)
(註)sika 然 という語は / k /=反出相を宿しているから その指定のあり方に 思考の継続・疑問が残るかと思えば そのようでもない。
- sika 然=《そう。そのように》
- sikari 然リ=《そうである。そのとおりだ》
- sika-tö 確ト=《確かに。必ず。はっきりと。全く。完全に》
- sika-ri>sikkari 確リ=《しっかり》
これは 相認識?や?の内容がかかわっていると言うべきであろうか。すなわち 《そうであること》が 突出・生長した状態にあると捉えられるのだろうか。
- sika-ri 叱リ=《怒る。とがめる。悪口を言う》
というとき そのこと(si)に対して 思考・疑問を加えること(ka)が自然生成する(ru)と考えたほうが 素直のように思われるが 怒り(これ自体は音素は表わしていない)の顕著になるさま(sika =??)の用言化(ru=R‐派生)なのであろうか。
25−7 sVkV=《先端・境界の部分?》が 《心理関係》に当てはめられるなら つぎの語例を得ると言ってよいものかどうか。
- suki 好キ(一点目標に向かって進むさま?)
- suka-si 賺シ・欺シ( 好くの他動相)
- seki 急キ(先端・境界に焦点があたっているか)
- sega-mi セガミ(強引に頼み求める。ねだる)
- seko-i セコイ(現代語)(細かいこと?に執着)
25−8 同じく 《空間関係》にかかわる場合。
- saka 坂(その傾斜が突出?にかかわるか)・境・界・逆
- sage / saga-ri 下ゲ/ 下ガリ(坂・逆との関連?)
cf. ʔage /ʔaga-ri 上ゲ/ 上ガリ ( 子音の対照として s=人為相/ ʔ= 自同相なので 下/上の方向が逆であったほうが 仮説に合うかと思われる。)
25−9 ?分割?分離にかかわった《動き》として
- sakö-tö / -ri サクト(ザクト) / ザックリ??
- sakö-rV 一次?=決リ・抉リ / 噦リ( > syakkuri)??
- saga-sV 一次?=探シ(《晒す》)(表面部分?での接触)
- sagu-rV 一次?=探リ(表面部分?との接触)
(註)探シ:《物をひろげて 日にさらし 風にあてるのが原義。転じて 中身をさらけ出す意。物を掻き回し散らかして 求める物を取り出す意》(大野)
探リ:《指先の触覚で物を求める意》
25−10 《〔或るもの=Aの〕突出・生長?》が 別の対象〔B〕との関係で 《過程》において現われる場合。
- siki 一次?:及キ・如キ(AがBに追いつく・及ぶ)/ 頻キ・茂キ(事が重なって起こる)〔Aが 先行するもの=Bの一端へ接近・到達する=?x?〕/敷キ・領キ(AがさらにBの全体・一面に及ぶ?)
- sige-si / -ri 繁シ / 茂リ 〔幹・枝・葉などが 互いに追いかける(siki 及キ)ようにして 突出・生長?〕
- söki 次(すき)(後につづくこと。二番目であること?x?)
- sögi 過ギ(分離関係?〔例えば 避ケsakä〕を保ち 進み通る。/ 度を越すと突出の相?x?)
- sökV 二次?助ケ(siki 及キと類似)
25−11 《分割?・分離?》にかかわると思われる認識相の語例。
- sögV 一次?:殺(そ)ギ・削ギ / 二次?:削ゲ (??)
- sökV / söka-sV 一次?:鋤(す)キ・漉キ・梳キ・透キ・隙/ 一次?透カシ・空カシ
- 〔始原の相としては 全体を 中身が薄い(無い)部分と濃い(有る)部分とに──つまりたとえば 溝と畝とに── 分割?・分離?する。そこに 隙が出来れば 透キ(やがて 《透明性》の意)へ発展。〕
- söga-söga-si 変則?:スガスガシ(区分??されるべきものが 区分されている相?)
- söki-tö / -ri スキト / スッキリ(分離?して欲しいものが分離したゆえか)
- sögV 二次?:挿(す)ゲ 〔有と無との二つの部分に分けられた(?)その欠如のほうの部分──たとえば 穴──に 緒など何かを通すこと〕
- söga-rV 一次?:縋リ 〔挿げられ 嵌め込まれた形となれば また 縺れるようになるその相を反映か。〕
- sökö-nV / -nahV 二次?:損(そこ)ネ / 一次?:損ナヒ 〔これは 分割?・分離?とともに / n /=否定相・消滅相も その役割が大きいか。いや ただの同定相の/ n /でよいか。cf.秋ナ(na)ヒ=商ヒ〕
25−12 二音節の語根 sVkV / sVgVにかんして その子音(s・k・g)の相認識が演じる役割を 以上のように分析した。以下この節(§25)の最後までにおいて §25−3で述べた無格名辞/ sV /の分析を補っておこう。
25−13 まず趣旨は 指定相の子音/ s /に 一般指定という内容と その対極というべき部分・特殊にかんする指定とがあると見ている。あらためて。
一般指定相
- sa 其・サ‐・‐サ
- sa-ma 様・状
- sa-sV 一次?:指シ・射シ・刺シ
部分・特殊の指定相
- sa-sa 細小(〃-nami 小波 / -yaki 囁キ)
- sa-ma 狭間
- sa-si 変則?:狭(さ)シ
- 〔sa-sV 一次?刺シ・挿シ・注シ――これらは すでに 線分やその先端などの部分に焦点が移っていて 特殊指定の相を帯びているかも知れない。日射シを 空間全体で受け止めるか 一定の線分として捉えるかで ちがうのか。〕
25−14 特殊な指定相/ s /の例を挙げておきたい。
無格名辞:se < sä 〔狭・瀬〕
- se-si 変則?:狭(せ)シ
- se-mV 二次?:攻メ・責メ
- se-ma-rV 一次?:迫リ
- se-to 狭‐門(瀬戸・迫門)
- se-rV 一次?:迫リ・競リ
- se-ha-si 変則?:忙(せは)シ
- seba-si 変則?:狭(せば)シ→semasi 狭(せま)シ
- seba-mV 一次?:狭(せば)ミ;二次?:狭(せば)メ
- seba-si 変則?:狭(せば)シ→semasi 狭(せま)シ
- se-kV 一次?:塞キ・堰キ〔関・咳キ〕・急キ
- se-ka-seka セカセカ
25−15 前項につづき。
無格名辞:sö ソ〔一般指定相は sö 其である。〕
- i-sö-isö イソイソ(心理や振る舞いの先端部分に着目して言うか。)
- isö-gV 一次?:急(いそ)ギ
- isö-ga-si 変則?:忙(いそが)シ
- sö-so 〔先端‐衣→〕裾(すそ)
- sö-sö-rV 一次?:ソソリ(気持ちを先端部分で掻き立てる)・聳リ
- sösö-kö-si 変則?:→ソソッカシイ
- sösö-nö:-sV 一次?:唆(そそのか)シ(=急きたてる?)
- sösö-mV 一次?:進(すす)ミ;二次?:進メ
- sö-sa-bV 一次/二次?:荒(すさ)ビ・遊ビ・弄ビ > susamV
- sö-za-rV 一次?:退(すさ・すざ)リ
25−16 あまりに推測の部分が入って 妥当性を判断しかねる領域に陥ったかも知れない。ほかにも 妥当と思える例もあれば わからないという例も出てくる。いまは このあたりで締めておきたい。
以上のような例証・検証で どれくらいの議論ができたか。もし 訂正の可能性を容れて 経験科学的に妥当な内容があるとすると 基本的に ソシュールの恣意性の原理は 成り立たないと考える。
25−17 ちなみに もし日本語において 言語記号の恣意性の原理が当てはまらないのならば 仮りにそのほかの諸言語すべてにおいて該当するとしても それは もはや 恣意性の原理とは言わないと考えられる。
特に 自然と文化との対比で ひとつの言語だけにおいてでも それらの間に つながりがあるとするならば もはや 人間はその自然性から 言語の獲得によって 逸脱し 文化状態に移行しきったとは 言えないと考えられる。言いかえると 自然を伴なって 移行したと考えるべきである。