第四章b
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第四章b 語の生成(§14)
§13 一般論として:→2005-09-06 - caguirofie050906
§14 仮説を追求しつつ:
§§14−1〜14−17:→本日
§§14−18〜14−42:→2005-09-08 - caguirofie050908
§14 語の生成について さらに追求してみる。もし仮説に固執するならば もう少し掘り下げて捉えることができないものか。
14−1 初めに一つおことわりとしては ここで 語の生成という問いを仮説しているけれども これを必ずしも文字どおりには扱っていないということである。
14−2 すなわち ことばの起源といった議論にはなっていないことをお断わりしておかねばならない。語の派生は別として その起源が 必ずしもわかるとは思わない。従ってことばが存在するということは 人間にとって先行しており いわば公理であることを前提している。しかも 生成という問いを立てることは 一つに 体言や用言の語が 形態的にも意味論としても どのように成り立っているのか これを明らかにして捉えたいためである。
14−3 そして 形態的にと言えば やはり形態素ないし音素にまでは遡ると思われる。
14−4 そこでまず 形態素としては ここで 一子音+一母音=CVを仮定しているが これをめぐる問題点としては 別様に 子音+母音+子音=CVCが日本語の形態素ではないかとも 説かれていることである。しかもわたし自身賛同している日本語の系統論に タミル語起源説があり これは CVCを形態素としている。
- 先住民(日本列島のである)の言語では 基本的に CVという形態素を持っていたとも 同時に 見ているのであるが。
14−5 ただし この問題は 複雑ではない。タミル語起源説も――上に記したように―― 形態素をCVCとするそれ自身の言語のほかに 先住民の言語の存在を想定しているからである。この先行した日本語では 発音の習慣の上で 歴史過程をつうじて 影響を与えたということなのである。
- 語句をほとんど全面的に受け入れても 発音上の習慣は 持ちこたえた というよりも 変わらなかった。
14−6 さて語の生成にかんしては 形態素CVに参照して これを あたかもTP(=主題T+論述P)に見立てることとする。精確に言えば 子音C(=要素主題t)+母音V(=要素論述p)である。あたかも語の形態素CV→tpにも 文の基本成分(T+P)の構成を当てはめた形で 試考していこうと思う。
14−7 従って 形態素CV=無格名辞tpという想定であり 語 CV+CV+・・・=tp+tp+・・・という分析になる。あるいは 語CVCV・・・CV=t1(tp)+t2(tp)+・・・t(n)(tp)である。
- 最後の t(n)(tp)が 論述を担って 最終的な結論を示すかどうかは さだかではない。
あらためて 無格名辞というのは 語になりうるという意味で《名辞》であり 絶対的な提示に置かれるという意味で 《無格》である。さらにあるいは 擬音語・擬態語のごとく そしてそれらのようにも 性格内容が定まっていない状態の言葉なる音のことであるかもわからない。
14−8 この想定の意味するところは 無格名辞 tp にかんして 子音C(=t)は特に語の相認識(語義)を規定することにかかわると思われることである。従って その意味での要素主題 t の提示にかかわる。母音V(=p)は もちろん同じく相認識にも関わるが ある種の仕方で広義の法判断にかかわっているのではないかとも考えられる。母音Vは要素論述pであるという想定になる。
14−9 母音Vが要素論述pであるという仮説は さらにのちに見てみなければならない。先ず初めに 子音Cが要素主題tであるという仮説に焦点をあてて いくらか検討しようと思う。
14−10 たとえば子音 h (F) の相認識として 次の三つを仮定して まず一音節の語例を取り上げたい。
① 順出中心主題の相
② 順出反復・習慣の相
③ 周縁部分の相
C | V | :子音+母音=形態素 |
---|---|---|
t | p | :要素主題+要素論述 |
h | a | : ①‐ハ(中心主題格活用)/ ③ 端 |
h | ä | :② 経(二次Ⅰ不定法=Ⅲ概念法活用)/ ①=②竃;戸 |
h | i | :①・② 日;霊 |
h | e | :③ 辺;端;方;重 |
h | ö | :① 穂・秀/①・② 火(hö-i>h ï) |
h | u | :② 経(二次Ⅵ存続法) |
h | o | :? |
14−11 ho には hoto 程(ホド)という語〔時間の経過相で②〕が考えられる。
14−12 ここでは 要素主題 t が同じひとつの子音(たとえばここで h )であるならば 要素論述 p の母音が変わっても 語例のあいだに互いに同じような相認識が現われることを見ている。言いかえると 母音交替が行なわれても 相認識(つまり語義)の大枠は変わらないということになる。さらに言いかえると 要素主題の子音が 或る程度の意義素でもあるということになる。
これらの語 すなわちいまは一音節の語例を取り上げたわけであるが これらのいわゆるハ行のひと音( hV = ha / hä / hi / he / hö / hu / ho )から派生した複音節の語でも 元の無格名辞( hV )の持つ相認識を保つであろうと 疑っているわけである。これを検討していきたい。
14−13 一般に h =① 順出中心相と ② 順出反復相とは 互いにからみ合っているように思われる。①=② 日;火;竃( hä=かまど)。
14−14 特に①中心主題相を帯びる語例としては ハ ha : 中心主題格のほかに
t1(tp) | t2(tp) | |
---|---|---|
bä | si | :ベシ(可能・義務法の補充用言) |
が挙げられる。しかも そこにも ②順出反復・習慣継続相が からんでいるように思われる。
14−15 そこでまず ①中心相=②反復相の派生語例を挙げていこう。次の十個に分類してみた。それらの分類された相のもとにも 概念抽象がはたらき 心理や精神生活にもかかわっていくはずだが 素朴に分類している。
子音/ h /によって①中心主題相および②順出反復相を帯びる無格名辞 hV からの派生語の例 (分類のための十の範疇)
(鄯) 空間
(鄱) 時間
(鄴) 自然現象かつ日常生活
(鄽) 生長・順行
(酈) 突出・秀逸
(酛) 周縁部分一般
(醃) 取っ掛かり相
(醞) 周縁先端部分に焦点を合わせる相
(醬) 極限・境界
(醱) 境界部分からの分離
註(1):たとえば空間なら空間という範疇で 中心となる相を表わす語あるいは順出反復の相を表わす語の例を取り上げるという意味である。
註(2):(酛)以下については ③周縁部分の相にかかわっての語例を挙げる。
〔14−15−1〕
(鄯)空間にかんして順定・順境を表わす相を帯びた語
t1(tp) | t2(tp) | t3(p) | |
---|---|---|---|
ha | rV | ○ | :晴レ(=二次Ⅰ不定法=Ⅲ概念法) |
ha | ra | sV | :晴ラシ(=一次Ⅲ概念法活用形態) |
ha | ra | hV | :払ヒ(=一次Ⅲ);払ヘ(=二次Ⅰ=Ⅲ) |
ha | rV | ○ | :張リ(=一次Ⅲ) |
ha | rö | ka | :遥カ |
hi | ra | ○ | :平 |
hi | ra | kV | :開キ(=一次Ⅲ);開ケ(=二次Ⅰ=Ⅲ) |
ha | ra | ○ | :原;腹 |
ha | ra | mV | :孕ミ(=一次Ⅲ) |
hi | rö | si | :広シ(=変則Ⅵ存続法) |
hi | rö | gV / garV | :広ゲ(=二次Ⅲ);広ガリ(=一次Ⅲ) |
hi | rö | mV | :広メ(=二次Ⅲ);広マリ(=一次Ⅲ) |
〔14−15−2〕
(鄱)時間にかんして順定・順行の相を表わす語
- hi 日
- hi-rö > hiru 昼
- hV 経(ヘ)(=二次Ⅰ=Ⅲ)
- hi-sa 久
- hisa-bisa 久々
- hisa-si 久シ
- hörö > huru 古
- huru-si 古シ
- huru-sV 古シ(=一次Ⅲ・《古くする》)
- huru-bV 古ビ(=二次Ⅲ)
- huru-mekV 古メキ(=一次Ⅲ)
- hi-nV 古(ひ)ネ・陳(ひ)ネ(=二次Ⅲ)
- ho-to > hodo 程(《動作が行なわれているうちに時が経過推移して行くことの はっきり知られるその時間をいう》:大野晋・古語辞典。以下同様=*。)
〔14−15−3〕
(鄴)自然現象・日常生活の順出・順定相
- hi 日;霊(神ナ霊=甘南備)
- hö 火( h ï < hö-i )
- hä 竃;戸
- hö-sV 乾シ・干シ(=一次Ⅲ)
- hV 干(ひ=二次Ⅲ; h ï < hö-i )
- hö-kV > hukV 吹キ(=一次Ⅲ)
- hö-rV > hurV 降リ(=一次Ⅲ);振り・震リ(=一次Ⅲ;《物が生命力を発揮して 生き生きと小刻みに動く意。また万物は生命を持ち その発現として動くという信仰によって 物をゆり動かして 活力を呼び起こす意。その信仰の衰えとともに 単に物理的な震動を与える意》*)
- hö-rV > hurV 触レ
〔14−15−4〕
(鄽) 生長・順行・順調の相
- hayV 映エ・栄エ;生エ(二次Ⅲ)
- haya-sV 生ヤシ・映ヤシ(一次Ⅲ)
- haya-si 〔同上より〕林;囃子
- haya-si 早シ・速シ(変則Ⅵ)
- haya-mV 早メ(二次Ⅲ)
- haya-rV 逸リ・流行リ(一次Ⅲ)
- haka 計・量・捗
- haka-rV 計リ(一次Ⅲ)
- haka-dörV 捗リ(一次Ⅲ)
- haka-nasi 果敢無シ(変則Ⅵ)
- hakö-bV 運ビ(一次Ⅲ)
- husa-hV 相応ヒ(一次Ⅲ)
- husaha-si 相応シ(変則Ⅵ)
〔14−15−5〕
(酈) 突出相・秀逸相
- hö 穂・秀・帆
- hö-idV > h ïidV 秀出(ひいで)(二次Ⅲ)
- hö-kV 祝(ほ)キ(一次Ⅲ)
- hökö-rV 誇リ(一次Ⅲ)
- hö-si 欲シ(変則Ⅵ)
- hö-rV 欲リ(一次Ⅲ)
別個の観点を容れてのように:
- hötö > huto 太(無格体言)
- 〃-si 太シ(変則Ⅵ)
- 〃-rV 太リ(一次Ⅲ)
- hösö 細(無格体言)
- 〃-si 細シ(変則Ⅵ)
- 〃-rV 細リ(一次Ⅲ)
- 〃-mV 細メ(二次Ⅲ)
- 〃-ya-ka 細ヤカ
- höka > huka 深(無格体言)
- 〃-si 深シ(変則Ⅵ)
- 〃-mV 深メ(二次Ⅲ)
- hukV 更ケ(二次Ⅲ)
- huke-rV 耽リ(一次Ⅲ)
(註)細 hösö は 《突出・秀逸相》の対極の相として捉えられる。
14−16 次に 子音 h =③ 周縁部分相にかかわる語例として:
〔14−16−1〕
(酛) 一般的な周縁部分の相
- ha 端
- ha-si 端
- ha-ta 端
- ha-da 肌・膚
- hö 穂 〔中心主題の秀逸相と 周縁部分主題の突出相とがあるだろう。〕
- hö-si > husi 節(《つなぎ目》として周縁部分の相)
- hötö-ri 辺・畔・際
- hötö-i > hötï > huti 縁・淵
- hö-ta > huta 蓋
- hö-ka 端‐処=外・他
- he 辺・端・方;重 〔he < hä ?〕
- he-ta 蔕〔→下手?〕
- he-ri 縁
〔14−16−2〕
(醃)取っ掛かりの相
- ha-tö > hatu 初
- ha-si-mV > hazimV 端占メ=始メ(二次Ⅲ)
- ha-tö > hatto ハット(論述条件)
- hö-tö > huto フト(論述条件)
- hö-nö-ka 仄(ほの)カ
- hönö -mekasV 仄メカシ(一次Ⅲ)
- hi-ta 直(hita-sura 一向=《一つも》)
- hi-tö 一
- hitö-si 等シ(変則Ⅵ)
〔14−16−3〕
(醞)周縁部分の知覚から始まり そこに焦点を合わせる相
- hi-za 膝
- hi-di 肘
- hi-nä-rV 捻リ・撚リ(一次Ⅲ)
- hi-ga 僻
- higa-mV 僻ミ(一次Ⅲ)
- hi-sö 密
- hisö-ka 密カ
- hisö-mV 潜メ(二次Ⅲ)
- hi-bi-kV 響キ(一次Ⅲ)〔音もしくは聴覚の先端部分の相〕
- bi-bi-rV ビビリ(一次Ⅲ)〔心・気持ちの先端部分〕
- hi-rV 放リ・痢リ(一次Ⅲ)
- bi-ri ビリ
- hö-tV > hutV フテ(二次Ⅲ)〔フテ‐腐ル〕
- hö-rV 惚レ(二次Ⅲ)〔これは 欲リ höri とかかわるか?〕
- ha-gä-si 烈シ・激シ(変則Ⅵ)
- hagä-mV / -masV 励ミ(一次Ⅲ)/ 励マシ(一次Ⅲ)
- ha-kV 佩キ・穿キ(一次Ⅲ)
- ha-si 梯;橋〔端と端との接続〕
- ha-ma 浜(水際)
- hi-na 鄙
〔14−16−4〕
(醬)極限・境界としての周縁相
- bi-ri ビリ
- ha-ta 端
- hata-sV 果タシ(一次Ⅲ)
- hatV 果テ・泊テ(《旅路の果て》)(二次Ⅲ)
- hata-go 泊籠=旅籠
- hata-ti 二十(《手足の指の数の果て》)
- hata-ra-kV ハタラキ(一次Ⅲ)〔《終える・済ます》の感覚か?〕
- hö-ta > huta 蓋
- huta-gV 塞ギ(一次Ⅲ)
- hö-sa-gV > husagV 塞ギ
- ha-mV / -marV 嵌メ(二次Ⅲ) / 嵌マリ(一次Ⅲ)
〔14−16−5〕
(醱) 境界部分からの分離 また 周縁部分の除去の相
- ha-ra-hV 払ヒ(一次Ⅲ)/ 払へ(二次Ⅲ)
- hi-ra-kV 開キ(一次Ⅲ)/ 開ケ(二次Ⅲ)
- hi-rö-mV / -marV 広メ(二次Ⅲ) / 広マリ(一次Ⅲ)
- ha-dö-sV > hadusV 外シ(一次Ⅲ)
- hadu-rV 外レ(二次Ⅲ)
- ha-na-sV / -tV 放シ(放チ);話シ(一次Ⅲ)
- hana-rV 離レ(二次Ⅲ)
- ha-bö-rV > haburV 放リ(一次Ⅲ)
- habu-kV 省キ(一次Ⅲ)
- ha-tö-rV > haturV 削(はつ)リ(一次Ⅲ)
- hö-tö-rV > hoturV 解(ほつ)レ(二次Ⅲ)
- ha-gV 剥ギ(一次Ⅲ) / 剥ゲ(二次Ⅲ);禿ゲ
- ha-gö-rV > hagurV ハグレ(二次Ⅲ)
- he-gV 削(へ)ギ(一次Ⅲ)
- he-rV 減リ・謙リ(一次Ⅲ)
- hö-rV 掘リ・彫リ(一次Ⅲ)
- hö-rö-bö-sV 滅ボシ(一次Ⅲ)
- höröbV 亡ビ(二次Ⅲ)〔höröbï < höröbö-i〕
14−17 §11−27の例(ア→アハ→アハレ→アハレムなどなど)も参照されたい。
14−18 ここで 母音V=要素論述pのほうに焦点を移そう。