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哲学いろいろ

米自動車危機

教訓と展望――中堅層の活躍 日本と差――

小池和男  日経09・05・21 経済教室

  • 米自動車大手 海外市場で競争力維持
  • 《二つの中堅層》の活用が日本企業の強み
  • 人材活用の成功で海外日本企業 競争力高く


(1) 競争力の弱まった原因――根幹は 生産現場にある。
 その象徴は 生産現場の要のポスト 少なからぬ職長が派遣社員という点。

  • 経験深い生産労働者は 職長になると組合からはずれ 組合の保障がなくなるので 職長昇進を拒む人がいた。それがさらに進みついには派遣になった。


(2) 日本企業の強み――二つの中堅層の活用にある。
  やや低いレベルの中堅層とは 生産職場の技能上位半分層である。

  • その層に 欧米メーカーならあまり頼まないようなやや高度な作業を委ねる。

  その中の簡単な例といえば 品質不具合の検出の中で 最も見つけやすい誤品や欠品の検出があろう。今や ひとつの生産ラインで同じ《カローラ》といくモデルを生産していても 細かく見れば多くの種類が混ざって流れ 誤品 欠品は避けがたい。
  検出は検査要員に任せればよいのでは との意見もあろう。確かに欧米ではそうなっている。だが 生産ラインの最終部や途中の検査までに 誤品欠品の上に他の部品が組みつけられ 誤品欠品が見えにくい。直すにしても上に組み付けられた部品をとりはずす必要がある。ときに数時間かかる。
  だが 二十人くらいからなる職場のなかでは見えやすい。上に他の部品がまだないからだ。そこに赤紙をはり ラインの切れ目で直せば ほんの数分ですむ。検査に頼る場合との効率の差は甚だしい。


 もっとも見つける人も自分自身の作業があり忙しい。ベテランの職長に聞けば 一目でおかしいと思わなければ まづ見つけるのは無理で そのためには前にその仕事を半年なり経験していないと難しいという。その論理を引き伸ばせば 職場の十五くらいの職務を半年づつ経験しておく必要があり。すなわち七-八年かかる。それには中長期の人材形成が必須となる。

 つまり熟練者かどうかで相当な効率差があり 熟練者にきちんと報酬を払う必要がある。日本は 生産職場でも正社員なら 熟練者は昇格が早く 定期昇給での査定もよくなる。一方 米生産職場では査定も昇格もなく 熟練者への報酬がない。それではこの技能形成を期待できない。


(3) もう一つの中堅層――
 一挙に高いレベルに飛び 製品設計と生産ラインの設計 構築へ発言する層である。

  例えば新しいカローラの設計は 院卒の技術者が担当するが 生産労働者の技能上位一〇%ほどが 
 ――こうした設計では 造りにくい。品質不具合がでやすい。設計をこう直してほしい。
という提案までする。


 それは 今製造しているモデルの作業経験をベースにした提言である。それが可能なのは 読むのが難しい平面図の設計図ではなく IT(情報技術)技術が進みバーチャルな設計図を活用できるからだ。


 注目すべきは こうした高度な働きが 日本国内に限らず 海外日本企業の現地労働者にも見られることだ。日本のレベルにはまだ達しなくても わたくしが見たかぎり 米・英・タイの労働者はこの高度な作業をかなりこなしている。それなら日本企業が その他の条件が等しい限り 海外でも勝つと予測するのは 自然だろう。