■
全体のもくじ→2005-02-06 - caguirofie050206
ポーラの述懐 第二章
第一章(1〜8)→2005-03-25 - caguirofie050325
第二章(9〜10)→本日
第三章(11〜12)→2005-03-31 - caguirofie050331
9.ポールの気づいていないことで わたしが怒っていることがあります。
その後――会うのは 年に 二回もあれば多いほうで 時々手紙をやり取りしていましたが―― この前にお話しした内容が変わることなく 推移しました。その中で どうもポールが 自分では気がついていないことで わたしが ひどく怒っていることがあります。小さなことですが ひとつの事件だと思っていることです。
それ以外では 初めからの印象と評価とが変わることはなかったのですが この件では おかしいのではないかと疑いました。結果は 以前と同じことになったのではあるのですが・・・。
もう学部は卒業したあとの話で 修士課程のとき ポールは フランス政府給費留学生の試験を受けたことがあります。一次試験は わたしの街で おこなわれるというめぐり合わせだったと言います。二日つづくもので その第一日の終わった夜に ポールは その滞在先のホテルから わたしに 気軽に・まったく気軽に 電話をかけてきました。
それまで 手紙ではなく 電話で声をかけてくるときは 特別のことだったのです。はるばる会いにいくといった内容がほとんどです。このたびは なんの事前の連絡もなく 同じ街に身を移してから 突然の電話だったからです。しかも ポールは 電話だけかけようと思った云々と言って 電話を切ろうとします。もう一日 試験があるという理由があるにはあるのですが 決定的なことではないでしょう。
こちらも 特には引き止めなかったのでした。ただ そのあと なんとはなしに わたしは 居心地が悪くなりました。こんなに近くまで来ていて 会わないということを伝えるために電話をして来たと思うと どうしても 許せない気持ちが起きました。どうも かれは その様子全体から判断するに なんにも気づいていないと思われました。怒りに怒ったのですが これは 伝えることもしなかったことです。
考えた結果は ここで ポールが こんな仕打ちを策として思いついたとは思えないということです。こんなかけ引きをして来たとは考えられないということです。そのため 余計に かれを見捨てるということは 出来なかったのでした。怒れば怒るほど そのぶん ポールとのつながりは 消したくなるほどであると同時に 決して遠くへは離れて行かないという気持ちの動きがあったのでした。
でも わたしは 怒っています。いま 初めて言うことです。
10.まだ はっきりしたことを言えないことなど・・・。
ポールのプロポーズをなぜ断わったか なぜ修道院に入ったか 三十年近く修道女でいつづけるのはどういうわけか わたしが話さなければはっきりしないことが いくつかあると思います。いまはまだ 明確な答えは お話しできないように思います。
それは 話したくない 話すことができない理由があるというようなことではなく 必ずしも ひとつの確実な理由があってのことではないと思われるからです。
ただ わかっていることもあります。たとえば 結婚ということ これは まだまだ ひとつ屋根の下に一緒に生活するという段階ではなかったからです。修道院は そのほかに わたしの居場所は ないと思えたからです。その後 たとえばポールと話ができて 相談もできたなら なにか ヒントのようなものが 持てたかもしれないけれど わたしは もう引き下がっているつもりでした。
話は変わりますが ポールは コミュニケーションが問題であると言っているようです。信頼関係であるとか 意思表示のことなど わたしとの私的な関係においても そうだったし 社会一般においても そのことが 核となるような問題であって 自分のライフワークであると言っています。
わたしは むしろ 世の中との関係 世間とのつながり こういった事柄が わたしにとって そして ニュアンスの違いがあっても わたしから見ればポールにとっても 一番の問題であり テーマであったものだと考えているのですが・・・。同じようなことでしょうけど 見方の微妙な違いがあるように思います。
おとこはみな狼との理論ではありませんが 結局 少なくともわたしは 世の中とのそれこそコミュニケーションが どこかでは 不可能だというように思われていて そこから出発するからです。ポールは 熱血漢ですから その不可能性を認めるわけにはいかないということが 出発点にあるということではないでしょうか。
わたしも それこそ キリストの神に仕える身ですので 絶対の不可能を言うわけには行きませんが 逆に ポールも 永遠の現在ですとか なにやら無力の有効としての勝利など*1と言っているようですから この地上の世界において 現実にコミュニケーションが 信頼関係のもとに 実現するとは 思えないでいるのではないでしょうか。
1節から8節までで 出会いと二人の基本的な関係について振り返りましたし 上の9節としては 早く一度は言っておきたいことを語りました。ここでは 全体をながめてみて 課題ですとか そのさらに基本にあると思われることを かんたんに まず取り上げました。今後は これらの課題について――と言っても いまも考えているし これからも考えていくということですが―― 語る機会があるかと思っています。聞いてくださって ありがとうございます。
(つづく→2005-03-31 - caguirofie050331)
*1:《永遠の現在ですとか 無力の有効としての勝利など》:これらについては ひとまとまりの議論を読んでいただく必要があるかと思います。→2004-11-28 - caguirofie041128《えんけいりぢおん》もくじ&2004-12-17 - caguirofie041217《文体》もくじ