caguirofie

哲学いろいろ

 アルチュール・ランボーArthur RIMBAUD 

目次
1 縁覚 (Sensation)
2 黄金時代 (Age d'or)
3 谷間に眠る者 (Le Dormeur du Val)
4 陶酔の船 (Le Bateau Ivre)
5 酔いどれ船 (Le Bateau Ivre)――(以上 本日)
6 音楽につれて(A la musique)――(以下→2005-05-11 - caguirofie050511)
7 水から出るヴィーナス(Vénus anadyomène)
8 地獄の季節(Une Saison en Enfer) / 昔のことを・・・( Jadis ...)
9 邪悪な血筋(Mauvais Sang)
10 地獄の夜(Nuit de l'Enfer)
11 うわ言 ? / 狂気の処女 / 地獄の花婿 (Délires ? / Vierge Folle / l'époux infernal)

1 縁覚 (Sensation)


   夏の青い夜などに
   わたしは小さな野径をたどる
   ちくちくと麦穂に刺され
   小さな草を踏みしめる
   わたしは幻に酔い
   草々は足から心地よい
   ああ風よ吹くがよい
   わたしの剥き出しのあたまから
   洗っておくれ

   わたしは口などを利くまい
   なにも考えまい
   ただ限りなき愛に飢え
   わたしはこころが昂ぶるのみ
   ただ果てしなき遥かかなたへ
   わたしはボヘミアンをたどるのみ
   俗界を隈なく――わたしは西方へ行く
   おんななどを従えて


cf.はじめに・お知らせ・更新履歴:ランボー イリュミナスィオン(Rimbaud.KunioMonji.com)(和訳例)

  • 私訳は 自由訳なので 上の訳例にあたっていただければ幸いです。

http://www.feelingsurfer.net/garp/poesie/Rimbaud.Sensation.html(原詩)

2 黄金時代 (Age d'or)


とある声がどこからか
それは仏の使いのように
――それはわたしに語るのか――
生々しくも説いて言う


  そんなことを不思議に思い
  愚痴をごたごた並べても
  行き着く先は知れたもの
  酒に浸るか狂気の沙汰よ 
  こんな機転が悟れぬか
  ちょっとしたことだ簡単さ
  水は低きに 花は咲くもの
  一切衆生みな同じ
  ・・・(唄つづく)


いつしか節がついて
             ああ
  ちょっとしたことさ簡単だ
  目を見開いて見てごらん
  水は低きに 花は散るもの
  一切衆生みな同じ


そこで もひとつ声がする
――これはまさしく菩薩の音声(おんじょう)――
そしてわたしに語りかけ
生々しくも説いて言う


つづいて即座に曲に乗り
リズムは呼吸と重なった
お経のことばは唐ことば
語調は火と燃え張りがある


  娑婆即浄土 煩悩菩提
  是れ識る可し身口意(しんくい)三業(さんごう)
  三身常住 本有無作(ほんぬむさ)
  名門名利 火宅の中
  ああ憧れは都の栄華
  光りを放つあの暮らし振り
  一体いづれの代に生まれ
  王侯貴族の性(さが)を乞う
  汝衆生 吾等凡夫
  ・・・(さらにつづく)


ここでわたしも節に合わせて
  ああ慈悲に満ちたるこの音声
  いづこからともなく尋ね来る
  ああ汝の光背より
  一条の光りだに垂れ給え
〔と続けてやるのだ〕
cf.はじめに・お知らせ・更新履歴:ランボー イリュミナスィオン(Rimbaud.KunioMonji.com)(和訳例)
Age d'or : Arthur Rimbaud - Derniers Vers(原文)

3 谷間に眠る者 (Le Dormeur du Val)


   緑なす里の野にさわやかに水流れ
   狂乱の銀の衣(きぬ)草々に飛び散らす
   いや高き山の端に綺羅やかに日は昇り
   光線の泡の生(む)すこの狭き谷合いに


   年若き兵士ひとり髪乱し口を開け
   鮮やかな芥子菜(からしな)の群青に頂漬け
   眠りゆく。陽光の雨注ぐさみどりの
   床に臥し蒼ざめて草のなか雲ながめ


   足元に菖蒲(あやめ)咲き眠りゆく。口元に
   病める子の微笑みを微笑んで眠りゆく。
   天地(あめつち)よ暖かく揺らせ彼凍えるを。


   芳(かぐわ)しき花の香も鼻元に届き得ず
   陽を浴びて眠りゆく。片腕は安らかな
   胸の上。右脇にくれないの傷跡(あと)ふたつ。


cf.はじめに・お知らせ・更新履歴:ランボー イリュミナスィオン(Rimbaud.KunioMonji.com)(和訳例)
http://www.feelingsurfer.net/garp/poesie/Rimbaud.LeDormeurDuVal.html(原文)

4 陶酔の船 (Le Bateau Ivre)


おれは無感動の大河をいくつか下っていると
おれを曳く者たちのちからが脱け出るのを感じた。
叫び喚く土人(ポ・ルージュ)どもが彼らを襲い
衣服を剥いで彩色の柱に釘付けにしてしまったのだ。


おれは上に載せた乗組みの者たちも気になるわけでなし
ただフランドルの小麦にアングルテールの綿花を運ぶだけ。
船曳きたちが片付けられ ひと騒ぎが治まると
河はおれの赴くままに流れていた。


おれはこの冬 荒れ狂いざわめく潮流の中を
幼児の鈍い脳漿ながら航行した。
纜(ともづな)を解かれた浮き島も
これほど決定的な混乱を味わったことがないだろう。


嵐が海の上のおれの目覚めを祝福する。
おれは藁束より軽く 船尾の愚鈍な燈火を悼むこともできず
波の上に踊った。踊らされればその永遠の犠牲となるという波の上を。


子どもらに酸っぱい林檎の果肉が美味なように
緑の水がおれの樅の身体に滲み透り
紫葡萄酒の染みや反吐が舵も錨も散らさんばかりに
おれを洗う。


それからというものこのおれは詩のなかに身を浸す。
綺羅星が降り銀河を想わせ緑の空を貪り喰う海の詩の中に。
そこは吃水面に蒼白く魅了するものがあり時折り物思いに耽る者が
誘い込まれて溺れ死ぬところ。


またそこは一面の青海原が錯乱と緩やかな律動により
陽光の輝きの下で一変して染め変えられ酒精(アルコオル)より強烈で
おれたちの竪琴の奏でるところよりなお広く
愛の苦い赤茶色が醸し出されるところ。


おれは稲妻に裂ける空を知っている。龍巻も砕け散る波も潮流も。
おれは夜を送り鳩の群れのように昂揚した曙を迎えてよく人が見たと言い張る
そのものをもおれはたびたび見てしまっている。


おれは 太陽が低く懸かり 神秘に満ちた恐怖の染みをつけ遠い古代の
悲劇役者に似た長い紫色に凝固したものでその隆起する板の揺れ震えを
遠くへと転がし去ってゆく波を 照らし出すのをも見ている。


おれは 眩惑的な雪の降る緑の夜 緩やかに海の眼へと登りゆく接吻と
未聞の樹液の循環とそして歌う燐光の黄色く青い目覚めを夢に見ている。


おれは数か月たっぷり精神的変質(ヒステリー)の牛舎に似た暗礁を襲う
大波に付き従ったことがある。マリアたちの輝く足がぜいぜい咳く大洋の
かなたへ牛の鼻面を追いやれることを考えることもなく。


おれは いいかい おれは 豹の眼を花々や人々の肌に交雑させた
途轍もない花の島(フロリダ)に何度もぶつかり 
海水面を潜って海緑色の羊の一群れに向けて手綱のように張り渡された
虹にもぶつかっているのだ。


おれは 灯心草の茂みの中で一匹の海獣レヴィアタン)が
簗の中に腐敗してゆくさまやそして巨大な沼がぶつぶつ発酵するのも見ている。
べた凪ぎのさなかに海の崩壊するさまも その遠方で渦巻きのほうへ向け
滝と流れるさまもだ。


氷河や銀の太陽や真珠の波や 燠の空や 褐色の入り江の奥の醜悪な座礁
そこへ白虫にたかられ喰われた大蛇どもが曲がりくねった木々の上から
黒い香りを放って落ちるさまをも見たのだ。


おれは子どもらにこの青い波をゆく藍色のしいらや金色の魚や唄うたう魚を
見せてやりたかったものだ。波は泡を花と咲かせ漂流するこのおれを静かに
揺らし時折りえも言われぬ風が吹いておれに空を翔けめぐらせてくれる。


時折り 極地にも似た気候帯にも倦んだ殉教者のように そのすすり泣きが
おれをやさしく揺する海は 黄色い吸い玉のある暗闇の花々をおれに投げ飾り
おれは 膝を抱え込む女のようにおとなしくしていた。


まるで小さな島のように。そこへおれは船縁に 黄金色の眼をしたおしゃべり鳥どもに
諍いの糞をけしかけられた。こうしておれは櫂を漕ぐ。そのときおれの
脆い古綱をよぎって誘われた者が幾人か後方(しりえ)に落ちて溺れ死んでいった。


ところでおれは 入り江の樹々の髪の下に迷い込み
暴れ狂う旋風(ウーラゴン)に 鳥も住まわぬ大気の中に投げ込まれてしまった船。
鉄甲艦(モニトール)の大蜥蜴も同盟の帆船鳥も海に陶酔したおれの船骨を
ふたたび引き上げてはくれまいこのおれは


放たれて 煙を吹かせ 紫の霧立ちこめる中 《良き》詩人たちにとっては
美味なジャムのような 空の鼻汁を垂れた太陽の地衣がむす赤味がかった
空の壁を突き抜けても来たこのおれは


ユリウスの月々が激しく燃える漏斗を持った 海を越えたかなたの空を
棍棒の一撃で揺さぶろうとするとき 黒々とした海馬(イポカンプ)に
付き添われ電気を発する月の斑点(リュニュル)を付け進み行く
気の狂った板子一枚のこのおれは


青き不動の永劫の紡ぎ手であり 五十海里のかなたにも巨獣(ベエモ)の
発情や深い恐流海峡(マエルストローム)やのぶつぶつ愚痴をこぼす気配を感じ
戦慄するこのおれは 
おれは いにしえの胸壁に囲まれた欧羅巴を悼む。


おれは恒星の群島とそこを漕ぎゆく者に物狂おしい空の開け放たれた島々を見て
いま叫ぶ。――百万の金の鳥どもよ おお 未来の猛々しさよ おまえが
眠り 隠れ棲むのは この底なしの夜々のことか。


あまりにも実際 おれは泣きすぎた。曙は悲痛を運び 月はいつも残忍で
陽も苦い。おれはとげとげしき愛や陶酔を運ぶ麻痺状態でふくらんでしまった。
――おお わが竜骨よ砕け散れ おお おれは海へゆくのだ。


もしこのおれが 欧羅巴の水を一滴望むとしたら それは 
かぐわしい黄昏時に悲しみに満ちしゃがみこむ二人の子どもが
そこに女精(ニンフ)マイアの月の蝶のように ちから弱い
一艘の舟を逃し放す森の中の黒く冷たい水たまりがいい。


――おお波浪よ おれは今やおまえの物憂さに浸かり
綿花を運ぶ者たちからその船脚を奪うことも 国旗・軍旗を
傲慢になびかせる船の縁を横切って進むことも また
廃船(ポントン)の獄の恐ろしい監視の下を
泳いで渡ることも もはや 出来なくなってしまった。




cf.http://www.feelingsurfer.net/garp/poesie/Rimbaud.LeBateauIvre.html(原文)
はじめに・お知らせ・更新履歴:ランボー イリュミナスィオン(Rimbaud.KunioMonji.com)(和訳例)
http://www.eyedia.com/rimbaud/japonais.htmlランボー全般の日本語サイト)
Index des poèmes et textes d'Arthur Rimbaud : Arthur Rimbaud - Mag4.net(フランス語のサイト)

5 酔いどれ船 (Le Bateau Ivre)


進水式は 河だった
大きな流れは乾ききっていた
臍の緒が切れて
曳き船は 赤肌の族に襲われ
衣服も剥がれ 侵された


乗組み員は 涙
フランドルの小麦にアングルテールの
綿花が重い
彩色族の祭りは済んで
流れを下る


この冬だった
海に出たのは
青い脳漿が 潮流にざわめく
浮き島が纜を解かれて
味わう決定的の狂乱 


嵐の祝福――海への目覚め
燈火は後方へ
藁束が踊る
永遠の踊り


青い林檎を齧った
樅が目を回し
紫の葡萄酒を浴びたところへ
舵が飛び散り錨が空を舞った


そのときからだ
おれが 詩の中に身を浸したのは
綺羅星が降り銀河を想わせ
緑の空をむさぼり喰う
吃水線は蒼白く 時折り
もの思いが誘われ溺れ死ぬ
《海の詩》の中に


青海原は 酔眼に 緩やかに律動して
陽光を呑んで一変する
一面に酒精(アルコオル)より強烈
竪琴の音より広大に
赤茶色の苦い愛!

    *

稲妻に張り裂ける空
竜巻 砕け散る波 潮の流れ
夜を目覚めて 鳩の群れのように
高上がる曙を迎えて おれは
よく人が見たと言い張るそのものを
たびたび見てしまった


神秘の滲みをつけた夕焼け
古代の悲劇役者の紫の塊
揺れ動く襞を遠くへ転がしていく波々
の輝き


その夜 一面の緑の夜
眩惑的な雪が降り
海水は 秋波を織り成し
接吻をこらえきれず
樹液の狂惑の中へ
黄色くそして青く射し始める曙光
に 燐光の歌を聞いたのだ


猛牛の波に弄ばれて
数か月たっぷり
暗礁を襲う
聖母マリアの足に
跪けば 牛の鼻面もぜいぜい
咳き込む大洋のかなたへ退け
得たことも知ってはいたさ


やがて何度もぶつかった
豹の眼と花や人の肌とが
交雑する途轍もない花の島フロリダ
海水面を潜って海緑色の羊の
群れに向けて手綱の
ように張り渡された虹


ぶつぶつと発酵する巨大な沼に簗
燈心草の茂み
の中で腐敗してゆく一匹の海獣レヴィアタン
べた凪ぎのさなかに海の崩壊
遠方には
渦潮に向かって流れ落ちる滝


氷河 銀の太陽 真珠の波 燠の空
そして褐色の入り江の奥の
醜悪な座礁
曲がりくねった樹々の上から 黒い
香りを放って落ちる 白虫に
たかられて喰われた大蛇ども


この青い波をゆく藍色のしいら 金色の魚
歌うたう魚
後に来る子どもたちに見せてやりたい
泡を花と咲かせる波の上を
静かに揺られて おれは
時折り吹くえも言われぬ風に空を翔けめぐる


時折り極地に気候帯に倦んだ海が
殉教者のようにすすり泣いて
やさしく おれを揺らす 黄色い吸い玉の
ある暗闇の花を おれは
投げかけられ
女がしゃがんで 膝を抱え込むように
おとなしく


まるで一つの小さな島
と化していた 船縁りに 黄金色の
眼をした
おしゃべり鳥どもは 諍いの糞をけしかける
おれはおれの櫂を漕ぐ
脆い古綱をよぎって 誘われた者が幾人か
後方に落ちて 溺れたようだったとき

    *

おれは 暴れ狂う旋風に
島も住まわない大気の中に
投げ込まれ 入り江の樹々の髪の中に
迷い込んだ 船
鉄甲艦(モニトール)の大蜥蜴も 同盟(ハンザ)の
帆船鳥も 海に陶酔した船骨を再びは引き上げては
くれまいこのおれは


放たれたまま 煙を吐いて
紫の霧の立ちこめる中を
《良き》詩人にとっては ジャムのように美味な
《空の鼻汁》を垂れ
《太陽の地衣》を生やす 赤味がかった
空の壁を 突き抜けても来たこの
おれは


ユリウスの月々が 海を
超えたかなたにあって 激しく燃える漏斗の
落とし穴が仕掛けられた空を 棍棒
一撃で 揺さぶろうとするとき
黒々とした海馬(イポカンプ)に付き添われて
触れれば感電する月の斑点(リュニュル)をつけて進みゆく気の
狂った板子一枚のこのおれは


五十海里のかなたにも 巨獣(べエモ)の
発情や 深い恐流海峡(マエルストローム)のぶつぶつと
愚痴をこぼす気配を感じて 戦慄するこのおれ
《青い不動》の永劫の紡ぎ手のこのおれ

ただ 固い胸壁に囲まれた いにしえの
欧羅巴を 悼む



恒星の群島を そこを
漕ぎゆく者に対して物狂おしい空を開け放った
群島を
見てきたこのおれは 叫ぼう
百万の黄金の鳥どもよ おまえが
眠り隠れて おれを
待ち受けているところは この底なしの
夜々のことだったのか!


あまりにも おれは 泣き
過ぎた 暁は
悲痛を運び 月光は
残忍を 陽光は 苦渋を おれの
愛は とげを麻痺させて 陶酔の
うちに傲慢でふくらんで
しまった ああ わが竜骨よ砕け散れ お
れは
海へ往くのだ


もしこのおれが 欧羅巴
水を一滴 所望するとすれば それは
芳しい黄昏時に 悲しみに
満ちてしゃがみこむ一人の
子どもが浮かべる女精(ニンフ)マイアの月の
蝶のように か弱い笹舟
となって 森の中の黒く冷たい水
たまりの水がいい ああ


波浪よ おれは おまえの
もの憂さに浸かり 綿花を
運ぶ者どもから その船足を
奪うことも 国旗・軍旗を
傲慢になびかせていく船の縁を
横切って進むことも また
廃船の獄(ポントン)
の恐ろしい監視
の下を泳いで渡ることも もはや
断たれてしまったのか
道は