caguirofie

哲学いろいろ

幻想曲(ド・ネルヴァル)

それは私にとって至上の歌曲(アリア)
そのためなら
ロッシーニも モーツァルト
ウェーバー
すべてをも惜しむまい


弔いを
送るように
気だるく
流れる
いにしえの
詠唱(アリア)
ひとり私に
秘密の魔力を
発揮する


これを聞くときいつも私は
魂の若やぐのを覚えてきた


そう 二百年のあいだ・・・


あれは ルイ十三世の代であった
そのときわたしの
目の前には
緑の丘が褐色の夕陽に染まるなか
隅の石垣と
煉瓦の城が 彷彿として
赤土色の焼き絵ガラスの窓と
周りの大きな庭園と
一筋の川が
花々の中を流れ
館の裾を洗うさまを
背景にして


その高き窓辺に
ひとりの麗人が
黒い瞳にブロンドの
古代衣裳に纏った
すがたが
浮かび上がる
いつかおそらくかなたの生で
私はすでに
逢っている
いまはっきりと思い出す
ひと


Gérard de Nerval: Fantaisie dans 《 Odelettes 》 1832