caguirofie

哲学いろいろ

ナルシスは語る(Valery)

・・・・・・・ナルキッサの霊を鎮めるために


ああ兄弟 悲しい百合よ 私は美を患い
おまえたちの裸身の中に私自身を願い
ナンフ ナンフ 泉のナンフと おまえたちに
私は至純の沈黙において私の空しい涙を捧げに来たのだ


深い静寂は私を聞き届け 私はそこに希望を聞く
みなもとの声はその音を変えてわたしに夜を語る


私は銀の草が清らかに影の中に生長するのを聞き
偽りの月はその鏡をかかげ
消え去った泉の秘密の中に昇る


そしてこの私 私はこの葦の中に投げ出された心を患い
ああサファイア 私自身の悲しい美を見てやつれてゆく


私はもはや魔法の水をしか愛する術を持たない
笑いと古代の薔薇を忘れさせてくれる水でなければ


私はひどく嘆く おまえの暗い定めの至純の閃光を
死に至る蒼色の中に私の眼が湿った花々を
頭に戴いた私の影像をながめ尽くしこの泉が
どんなに柔らかく私に取り巻かれていたとしても


ああ 影像は空しく涙こそ永遠である

青い森と友愛に満ちた腕を越えて
やさしい光の曖昧の時間が存在しており
その光の残りで私を婚約者に作り上げる


裸のままの婚約者を 悲しい水が私を惹きつける蒼白い地の上に
好ましい 凍った 感じのよい悪魔


この水の中の私の月の肉体 薔薇の肉体
ああ私の眼にそむく従順な姿態よ


私のこの銀の腕 その至純の動きよ
私ののろまな手は崇めるべき金の中で
木の葉のからまるこの虜を呼び歩き
そして私は反響(こだま)に対しておぼろげな神々の名を呼ぶ


さよなら 静かな閉じられた波の上に消えるいくつかのさよなら


ナルシスよ・・・この名さえやさしい心にとっては
香水の甘い馨りだ 薔薇を摘んでこの空っぽの墓の上の
死者の霊に弔いの葉をふりかけよ


私の唇よ 口づけを砕く薔薇になってくれ
高価な幽霊をじっくり宥めるために


それは夜が遠く近く声を落として
影と軽い眠りに満ちた聖杯に語ろうとするから
ただ月が長く伸びたミルタの並木の上にたわむれている


私はこのミルタの木陰でおまえを崇めよう ああ
眠る森の鏡に影を映す孤独
悲しく咲いた孤独のためのあやふやな肉体よ


私は空しくおまえのやさしい存在からみづからを解き放つ
偽りの時間は苔の上の手足にしなやかに気持ちよく
仄かな快楽で奥深い風をふくらませている


さよならナルシス・・・死にゆくのだ この黄昏に
鼓動の吐息に私の姿は波を打って漂い
フルートは葬り去られた蒼空を通して
声高く鳴いて去りゆく羊の群れの悔恨を吟じる


だが 星がまたたく冷やかな人体の上に
だらりとした墓が霧で形をなす前に
定めの水の静寂を壊すこの口づけを受け取るのだ


希望だけでこの水晶を打ち砕くのに十分である
さざ波は私を奪い息吹きは私を遠くへやる


私の息吹きは私に寛大な軽い吹き手の吹く
か細いフルートを何と鼓舞することか


消え失せよ 苦悩にやられた神よ
そしておまえよ 月の つつましい孤立のフルートの
私たちの銀の涙の一変化よ


Paul Valéry: Narcisse parle.