第二章・中2
もくじ→[小説]夏安居#1(第一章・上) - caguirofie041017
([小説]夏安居#4(第二章・中1) - caguirofie041025よりの続きです。)
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Hormuz
港町ホルムズ。
広く長いアラビアの海が消えて 陸地が見えると 船は 東の海峡を抜けて ペルシャ湾に入る。この湾の入り口に位置する大きな港町が ホルムズである。
夏は 暑く 太陽の照り返しが特に激しく そして とてもまともに受けることのできない熱風が吹きすさぶので 街中が 樹々や水のある郊外に逃れるというところである。もっとも おれたちが行くのは いつも冬であったが。帰りは 商用を終えれば すぐに帰るか あるいは数ヶ月をそこに過ごして 夏の前に今度は インドへ向けて吹く季節風に乗って帰るかのいづれかであった。おれたちには 馴染みの深い町のひとつである。
船が港に入ると 町の商人たちが集まってくる。かれらを通じて おれたちの絹や真珠は ペルシャの北や南へ そしてさらに 西方のギリシャの国へと 行商に出る商人たちが 運ぶことになる。おれたちの船は ギリシャの貨幣や この地方の馬を載せて 帰ることになる。その季節には 港の近くには 幾百頭もの馬が集められている。
ホルムズは 貿易の一つの大きな拠点であって 活気に満ちた町だ。広く長くつづく家並みも バザールの賑わいも 同じ港町であるソパーラとよく似た趣きがある。ただ ソパーラほどの人間の密集は 感じられない。大通りを行く牛のまわりに大人も子どもも 浮浪者が群がっているのは ソパーラのほうが 激しい。そして ソパーラに戻ったときには 牛糞を焼く臭いと 食物をいくらかの香料とともに調理する臭いとが 強烈に感じられる。
けれども 港町に共通なのは 進取の気風と娼婦とである。港で取引を終えると おれたちは 思い思いに街に出て遊び 出港までの日々を過ごすことになる。おれは例によって ヴァサンタセーナのもとに寄った。
(つづく→[小説]夏安居#6=完(第二章・下) - caguirofie041029)