caguirofie

哲学いろいろ

taunton, uk


わらぶきらしい( a thatched house )。おもしろいですよね。

Philippe Delerm : D'autres livres sont sous la clef

Tastenkasten 2016/04/12 15:23

ここからはbrageloneさんへですが、フランス語の文章は、じっくり、正確に読み続けています。
今、ほかの用事があるので、ちょっと中断しなければなりませんが、
来週ごろまでには結果をお知らせします。


少しだけ中間報告をしますが、私が最初に投稿した回答は、
構文の読み違えや単語の意味の取り違いによる誤訳がたくさんあるとはいえ、
大筋においては誤りではありませんでした。


innocentは、もともとは子供のような「無垢」を意味するので、
書物の内容が危険でないとか非道徳的でないとかいう意味では使わないようです。
livre innocentのように組み合わされている例がありません。
「企みがない」という意味が正しいと思います。
これは、あとに続く文を全部読むと明らかになります。


distillerですが、ほかの比喩的な意味はあるのですが、この文脈には合いません。
辞書に載っていないので御紹介しておきますが、ほかの比喩的な意味というのは、
たとえば「(悪口、陰口)を広める」(<蒸気が拡散する)とか、
「押し流す、雲散霧消させる」(<気化消滅させる)というようなものです。


Les gens de province possèdent au plus hautdegré l’art de distiller les cancans.
田舎の人びとは、悪い噂を広めるためのより高度な技に精通している。(バルザック


Ce sot personnage distille l’ennui.

退屈をまき散らす人たち

ces larmes brûlantes que l'humiliation seule sait distiller
屈辱だけを押し流すことができる熱い涙


しかし、この文のdistillerは、単純に「コーヒーを沸かす」という意味でした。
コーヒーサイフォンで、コーヒー豆からコーヒーを「抽出」することをdistillerというそうです。


そして、この部分の関係代名詞の先行詞は、直前の
tous les autres, les amis plus lointains, les quasi inconnus
ではなくて、文頭のMais c’estの中のceです。
このceは、その前の文の内容全体を指しています。
ですので、qu’on soupèseもceに掛かっており、
結果としてdistiller(沸かす)はl’Italie(イタリアン・コーヒー)に、
soupèse(手に取って重さを量る)はle pavé imposant(重く分厚い本)に呼応します。
要約するなら、「テーブルの上に載っているものは、
あまり親しくないほかの諸々の人たちのために沸かしたコーヒーであり、
手ばかりにかけた本である」という意味合いです。


タイトルのD'autres livres sont sous la clefですが、
これも私が予想した通り、直接本文にかかわるものというよりは、
最後のオチでブリュイエールとの比較が出てくるので、
それをタイトルにしたということのようです。
実際後続の文は、ほかのアブナイ本は見せないように片づけておくという内容ではなく、
危険なものも適度に混ぜて並べようと言っていました。


l'équilibre(釣り合い)の意味は、本の選び方や並べ方を決めるとき、
自分の人格が完全にわかるような置き方でもなく、
かといって全然違う人格を装うような置き方でもなく、
その両方の間でバランスをとるということであるのが後続の文章から判明しました。


これらが、「偽善」にどのようにつながっていくのかは、あとの文章を全部読まないとわかりません。


************
キット・アームストロングですが、ちょっと調べて思い出しました。
この青年は、大学で科学や数学も専攻しており、
そちらの方でも優秀だということでした。
要するに、マルチタレントゆえの話題性です。
Youtubeにはまとまった動画がなく、曲の一部がほとんどでした。
数年前の演奏だと若すぎて判断できないのですが、
ちょうど一か月前に演奏したというリストのソナタの一部が出ていました。
ミスが多いです。そして、ところどころで、前後の脈絡にそぐわない誇張的な弾き方を突然しています。
典型的な話題性専攻のケースだと思います。
まだ若いので、先のことはわかりませんが、今のようなやり方を続けていると、
いずれ舞台からは姿を消すことになる危険が高いように感じました。

Tastenkasten 2016/04/12 15:55

下の例文は誤訳でしたね。

ces larmes brûlantes que l'humiliation seule sait distiller
× 屈辱だけを押し流すことができる熱い涙
   ↓
○ 屈辱だけが流すことができる熱い涙

(distiller = faire couler)

Tastenkasten 2016/04/12 16:08

したがって、「押し流す、雲散霧消させる」(<気化消滅させる)というのも間違いでした。「流させる」という意味です。

Les murs ruisselaient d’humidité, secrétaient des roupies, distillaient des gouttes de café noir.
壁は湿気で覆われており、鼻水を出し、ブラックコーヒーの雫を流していた。(ユスマンス『大伽藍』)