caguirofie

哲学いろいろ

高貴な利己主義とは? 

人はどこまで阿呆になれるか
Q&Aのもくじ:2011-03-26 - caguirofie
 ▼ (?:利己主義は高貴なり) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 (あ) 無邪気な人々を不快にするという危険を冒して 私は言明する。

  (あ‐1) 利己主義は高貴な魂の本質に属する

     ・ der Egoismus gehört zum Wesen der vornehmen Seele

     ・egoism belongs to the essence of a noble soul

 と。

  (あ‐2) 私が利己主義というのは

         《われわれがある》如き存在にとっては
        他の存在が本性上 臣従してその犠牲となるべきである

       ・ dass einem Wesen, wie „wir sind“, andre Wesen von Natur
       unterthan sein müssen und sich ihm zu opfern haben.

       ・ that to a being such as "we," other beings must naturally
        be in subjection, and have to sacrifice themselves.

      というあの揺るがしがたい信念を指すのだ。


   ◆(あ‐2-bragelonne) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
       《〈われわれがある〉如き存在》:意味がよく
       分かりません。
        《われわれなる類としての概念には 人類そして人類の
       一員という所謂る類的存在なる理念がやどる。そのような
       公的・公民的存在にしてかつ利己的に行動する》といった
       意味なのでしょうか? 
        つぎに敷衍されていましょうか?
     〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 (い) 高貴な魂は自らの利己主義というこの事実を何の疑問を抱くこともなく またそこに峻酷・恣意の感情をもつこともなしに 却(かえ)ってそれが事物の根本法則のうちに( im Urgesetz der Dinge; in the primary law of things )基礎をもつものであるかのように解する。

    ◆(い-b) これだけではまだ分からない。

 (う) ――これに対する名称を求めようとすれば この魂はこう言うであろう。《それは正義そのものである。 „es ist die Gerechtigkeit selbst“.; "It is justice itself."》と。

    ◆(う-b) さっぱり分からない。

 (え) 様々の事情のために このような魂は始めは躊躇するが 自分と同等の資格を与えられた者が存在することを承認する。それはこの位階の問題について決着をつけるや否や 自分自らに接すると同じように確かな羞恥と細やかな畏敬をもって これらの同等者や同格者たちと( unter diesen Gleichen und Gleichberechtigten; among those equals and equally privileged ones)交渉する。

    ◆(え-b) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
      これは 飛躍すると あの法華経における《唯仏与仏――
     ブッダブッダとのみ話が分かる(だから 秘密は誰にも話さ
     なあーい)――》という話に通じているかに見える。かの有名
     なるゴータマ・マジック。
     〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 (お) ――それはあたかも すべての星辰が通暁している本有的な天体力学の法則に従うのと同様である。

    ◆(お-b) どうもブッダにならなければ おまえなんかに分かるもん
       かと言われているみたいだ。

 (か) 自分と同等なものとの交渉におけるこうした繊細さと自己制限( diese Feinheit und Selbstbeschränkung; modesty and delicate respect) これがその利己主義に更に付け加わる一片である。

    ◆(か-b) 《制限――へりくだり?――》が 言葉としてだけでも
       出て来た。利己主義に対する自己制限だろうか。

 (き) ――あらゆる星辰はこのような利己主義者なのだ。( jeder Stern ist ein solcher Egoist .; every star is a similar egoist. )

 (く) ――高貴な魂は自分の同等者たちのうちに またそれが彼に与える諸権利のうちに自分を畏敬する。それは 栄誉と権利の交換がすべての交渉の本質として 同じく事物の自然的な状態に( zum naturgemässen Zustand der Dinge; to the natural condition of things )属するものであることを疑わない。

    ◆(く-b) これはどうも 信長と秀吉と家康とのあいだでは 
       話が通じると言っているみたいである。果たしてそうか?
       どうなのか?

 (け) 高貴な魂は 自分の根底に潜む情熱的で敏感な報復の本能から 自分の取るだけのものを他にも与える。
  ( Die vornehme Seele giebt, wie sie nimmt, aus dem leidenschaftlichen und reizbaren Instinkte der Vergeltung heraus, welcher auf ihrem Grunde liegt. ;
   The noble soul gives as he takes, prompted by the passionate and sensitive instinct of requital, which is at the root of his nature. )

    ◆(け-b) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
       とすると その《自己ではない他者への利益を図る》と
      いうのは――《報復の本能から》とすれば意識も自覚もなく
      ということなのだろうか? はそれとして問うておくとして――
      言わば その《報復からの利他》の行為も大きく《利己主義》
      の思惟と行動の中に含まれるという意味だろうか?
      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 (こ) 《恩恵》という概念は 《同等者の間では》何の意味も芳香も有しない。上からの贈り物をいわば自分の上に注がれるままにし 雨滴のように渇望して飲みほす一種の崇高な者( eine sublime Art; a sublime way)もあるであろう。しかし高貴な( vornehme; noble )魂は このような技巧や身振りには一向に堪能ではない。その利己主義がこれを妨げる。すなわち それはおよそ《上》を見上げることを好まず ――むしろ自分の前を 水平に ゆっくりと見遙かすか 或いは見下ろす。――それは自分が高みに立っていることを知っているのだ。――


    ◆(こ-b) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
      ということは・・・
     (i) 《恩恵》を受けそれを頂戴することは 利己主義で高貴な
       魂にも起こり得る。
     (ii) ただしそれは《およそ水平に見遙かすか 或いは見下ろ
       す》といったかたちを採る。
     (iii) 《それは自分が高みに立っていることを知っている》からだ
       と言う。
     (iv) 《見下ろす》場合は そのまま文字と意味とが一致する。
     (v) 《水平に見遙かす》場合というのは どういう事態か?
        《同等者》とは言っても やはり上位にあるようなのだが
        《およそ〈上〉を見上げることを好まず》なゆえ 相手も自分
        と《同じ高みに立っている》と見なしているという意味か?      
     (vi) いづれにしても 《贈り物を雨滴のように渇望して飲みほ
        す》ことは《利己主義ゆえに》しないが 頂戴するものは
        頂戴するのか?
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 (『善悪の彼岸』 木場深定訳 1970/2010改版 § 9 高貴とは何か 二六五)
 独文:http://www.nietzschesource.org/#eKGWB/JGB
 英訳:http://www.lexido.com/EBOOK_TEXTS/BEYOND_GOOD_AND_EVIL_.aspx?S=10
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 ◆(さ) 利己主義とよぶ高貴な魂は あるのですか?

 (し) または ひとはどこまで阿呆になれますか?