イの折れ
Q&Aのもくじ:2011-03-26 - caguirofie
★ 1.キリスト / これは christos なのですが、スペイン語では後に来る母音の口の形に先行する子音が引きずられるそうです。
☆ なるほど。つまり 最初 それは音節として イ( chris- )にアクセントがあるから わざわざ ch- と -ris とのあいだにそのアクセントを持つ母音と同じ音を用いることはないのではないか。と思いましたが 考えてみると あの細川ガラシャなる語の例がありました。
Gratia あるいは Gracia でしょうか。たしかに音節の母音に引っ張られて ガラシャとなっているようです。
ふむ。だとすると これは 《イへの折れ》ではないですね。ありがとうございます。
★ 前後は違うけれどもテキストは前の音に引っ張られていると思います。
☆ この事例をも合わせて イへの折れではない場合があるということ。
ただし まだその方程式から漏れる場合もあるかに思われます。
まづ あらためて近隣の母音に同化してその母音で音節をつくる例として:
・ Cristao > kirisitan キリシタン
・ ink > inki インキ
・ text > tekisuto テキスト / tekusuto テクスト
・ strike > sutoraiki ストライキ/ sutoraiku ストライク
これらは イの法則から漏れたからと言って ちくしょう(畜生)を チキショーと母音同化して怒っても かなしいかな その漏れたことを証明するだけになります。
ただし このイの法則が消えてなくなったわけではないと思います。
・ Englesch (蘭語)> Egeresu エゲレス
・ Ingles (ポルトガル)> Igirisu イギリス
・ extra > ekisutora エキストラ
これらのイの現われさえも 母音のエに引きつられていると思われます。
そうしますと 漢語からのイへの折れが 残ったかたちであるかも分かりません。
・ sen 銭 > seN / zeni 銭
・ sen 蝉 > zen / semi 蝉
・ ken 検 > kemi-su 閲す(調べる・経過する)
・ pet 別 > betu/ beti 別
・ tek 的 > teki 的
これらは――必ずしも 精確な音韻表記ではありませんが―― エなる母音への付和雷同組の気配があります。ほかの語例は どうでしょうか。
・ tan 丹 > tani-ha 丹波 > tanba 丹波
・ nan 難 > nani-ha 難波 > nanba 難波
・ on 隠 > oN / in( iN ) 隠 > oni 鬼
・ gun 郡 > guN 郡> kuni 国
・ ton 頓 > toN > tomi-ni頓に
・ sam 三 > sami 三味線 sabu-roo 三郎
・ wang 王> oo おお / wani 和邇・丸邇・王仁
・ yang 羊 > yoo 羊/ yagi 山羊
・ yang 楊> yoo 楊/ yanagi 柳
・ pat 八 > hati 八
・ pat 罰 > bati/ batu 罰
・ pat 撥 > bati 撥
・ wet 越 > oti 越智/ etu 越
この際 参考資料としてのごとく次の事例引き合いに出します。
サモア語における《イへの折れ》とおぼしき語例です。
英語 > サモア語
___________
・ pen > peni
・ machine > masini
・ salmon > saamani
・ satan > satani
・ spoon > sipuni
・ telephone > telefoni
・ spring > sipuligi
・ time > taimi
・ rabbit > lapiti
・ market > maketi
・ cricket > kirikiti
・ wheel > uili
・ mail > meli
・ knife > naifi
・ jeep > sipi
・ bus > pasi
・ Christmas > Kirisimasi
例外:-a または -e を添えるという場合がある。
・ newspaper > niuspepa
・ line > laina
・ wine > uaina
・ pin > pine
こうして見てくると佐渡へ佐渡へとというごとく イへイへと草木がなびくクセがあるようにさえも感じられます。つまり 近隣にイやエがある場合は もとよりそうであるけれど 一般にほかの母音と隣り合わせても イがけっこう強い。といった傾向です。(イの法則の黄泉がえりを画策しようとしています)。
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2. ロシア語の軟音と子音の例
・・・ということはスラブ系の民族は、何らかの形でその音を軟音として発音すべきか硬音として発音すべきかを区別していることになると思うのです。
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☆ えぇ。おおきく重要な主題であるようにわたしも思いました。まだ感覚としてそう思うだけですが つまりそもそもロシア語では 母音の組織じたいが 硬音と軟音との二重構造であるといった事態になっているようですから。
硬音:А ы у э о : ア ゥイ ウ エ オ
軟音:я и ю е ё : ヤ イ ユ ィエ ィヨ
と つねに区別するようですから。
これについては わたしに何の用意もありません。
チャイコフスキーを じっさいには チイコフスキーと発音しているようですが これは 愛嬌としても ぎゃくにイの気配を拒否する硬音の場合には わざわざ硬音記号をつけて表記するからには イが入らないですよと宣言しているみたいですし。
なお 橋本進吉の古代日本語における甲類・乙類の話ですが これについても まだ イの法則がからんでいるのではないかとは思っています。
わたしは 独自の行き方で /オ /
önö 己(おの・うぬ)
önö-re 己(おの)-れ: レは ワ-レ(我れ)やナ-レ(汝れ)のレ。つまり親愛称。
önö-höre 自(うぬ)-惚れ
kö 木(こ・く)
kö-suwe 木(こ)-末=梢
kö-da-mönö 木(く)-だ(=な=の)-物=果物 cf. 毛だ物=獣
kö-i (イの折れ)> kï > ki 木(き)
mö 身(も・む)
mö-nuke 身(も)-抜け=蛻
mö-kuro 身(む)-くろ(殻)=骸・躯
mö-i (イの折れ) > mï > mi 身(み)