言語の普遍性(2)
言語の普遍性とは如何にありや? (つづき)
§2 言語の系統(言語家族)はどれだけの史実か?
12.中間の結論
○ 言語家族(言語の系統)は 家族性の度合いが濃いか薄いかの問題である。
○ ぎゃくに言えば 同じ言語家族のあいだでも 互いの差異は大きいとも言える。
○ 経済的なアウタルキーの問題ではありませんが 言語やその家族を単位体として分けて捉える《ブロック化》は無用にしましょう。――これが 感情的な結論であり 希望です。
13.ぎゃくに橋本萬太郎は 生活の基礎に根づく言葉については 印欧語族は 足並みをそろえていると例示します。
▲ (橋本:現代博言学 p.303)
・・・・・・・・・・・・・《食べる》・・・・《立つ》
古典ギリシャ語: 'edo ・・・・・・‘istamai
ラテン語 : edere ・・・・・・stare
サンスクリット: ad-・・・・・・・ stha-
アベスタ語 : xvar-・・・・・・ sta-
ゴート語 : itan ・・・・・・ standan
古代教会スラブ語: jasti・・・・・・ stojati
祖語形 : * ed- ・・・・・・ * sta-
☆ ところがここで 中国においては 同じ語族であってもその内側の事情はちがうと言います。生活基礎の語彙が 各方言のあいだで異なっており そのような基礎からやや遠ざかると思われる《そら》や《考える》の言葉は むしろ共通の語を用いているのだと。
▲ (橋本 p.303f.)
・・・・・・・《食べる》 /《立つ》 // 《そら》 /《考える》
北方語 :□ts‘z 1 / 站 tsan 3 //天 t‘ien 1 / 想 syiang 3
呉語 :喫 k‘ia 4a / 立 lie´4b //天 t‘ie 1a / 想 siang 3
ビン東語:■tsia´ 4a /□ k‘ie‘ 4a // 天 t‘i 1a / 想 siu~ 3
ビン西語 :□ ie 4b / □ k‘ie 3a // 天 hieng 1a / 想 siong 3
粤語 :食 sik 4b / 企 k‘ei 2b // 天 t‘in 1a / 想 soeng 3a* ローマ字つづりは 精確ではありません。
* ビンは 門かまえに虫。
* 北方語=北京;呉語=蘇州;ビン東語=アモイ; ビン西語=建陽; 粤(エツ)語=広東
* ■:歯偏に 作のつくりのほうを つくりに添える。
* □ のしるしは 文字がないもの。北京語《チー(食べる)》は 《吃》を当てている。
* 数字は 声調を示す。
14. 前項の事例は何を示すか。フィリピンには百以上の方言があるとおそわりました。そのように もともとは 村ごとに言葉は違っていたのではないか。そういう仮説です。同じ系統であってもと言いますか 親戚どうしであっても違っている可能性のことです。生活の基礎的な語彙から違っていた可能性です。
15. 交流の有無・濃度あるいは 実際に移動し移住するかどうかによって それらの違いが いくつかの結果を類型的にもたらしたのではないかと。印欧語族は 交流も移動・移住もはげしくおこなった結果の言語情況であるかも知れない。でも昔からの差異が残ってもいる。
16. コーカサスの山々に点々と住み着く人々は 村ごとに言語がちがうと言います。交通も少ないでしょうから 分からないでもないですが もともとは どこでも そのように差異を持っていたのではないか。