caguirofie

哲学いろいろ

・・・

霜の降りた月面の中から
かのじょの薄氷りが立体派を成して
天体への飛翔に傷ついた雲間から
凍土が油彩画を破って
圧し掛かる砂嵐の下から
葉脈を伸ばして
黄道が公転して


鋭角の傾きが
夕凪を引きずる主体の回転を
海流を揺さぶって
少女の偏西風が
春の雨を吸って
プリズムの陽光を
楕円軌道に乗せて


草深い惑星のうなりを
花明かりの地殻の中から
膨張する陽炎の舌を
蛇行の中に抱き集め
潮騒のぼくを
アカシアの梢に飛ばす


波が憂えて
水しぶきが憶い出して
青い雲が震えて
少女が流れる
憂える波
憶い出す水しぶき
震える雲
かのじょの少女が流れる


偏西風に潮騒がさざめいていた

陽があがり
火があがる
不審火が
桶屋の底から
丘を越えて
青空が
寒がっているのだろうか


Chicago, Illinois を越えて
氷の国も寒がっているのだろうか


陽があがり
上天に寒い鶴がひとり
長いストローを突き降ろして
極地の水を齧っている
鶴は季節(とき)を知っているはずなのに
インフルエンザの
島に渡るというのではなく
陽が沈む
たそかれのポケットの中に
冬の火を暖める


いま 優しい不審火をついばみ
長い脚が長い旅にある

熟爛の風が 葉脈を伝って
樫の幹が 踊っている
明日を跳ぶ年輪が
倦怠の幅のあいだを
ホップ108 ステップ216・・・


樹の顔が ゆがみ
汗を出す
根毛が 地冥のなかを
愛撫している
生長点から 葉群れが揺れて
気孔が 弄っている
虚空を
葉片の生理を
樫の眼が みつめている

よんではいけないよ
よまれてもいけない


まじっく・みらーのように
並んで立つとき
奇妙なふたご座が
わたしたち遊星のあいだに
気の遠くなる時間が
翔び交う夢をゆめみるものだ
夢があたかも現実であるように
この鏡にすがたを映す者は
交差点をよぎるとき
げんうんを感じるだろうか
五万と一日を生きるために

Je est un autre.
と嘆くわたしと
Elle suis le même.
と誇るわたしと


老練な妖艶が
わたし・《Je》のまわりを翔び交い
偽りのクピドーの矢を射掛けてくる


両極が放電してやまないわたしだが
搦め手・《Elle》は 不実の《Je》を開門して
このとき互いの自由電子のはねつきは もはや 頭にない
射手を招き入れ妖艶の核が踊った


わたしは貫かれたと認めて また旅立たなければ
ならない
かなしみを力として
両極の分裂は 射手の側に見えただけなのだから
《Je》は三葉虫から屈辱を経てヒトとなる
《Elle》はヒトから哀しみを経て詩人となる

寄航だ 出港だ
静かなる分娩だ


そのあわい
神の戦士としての微笑みと
父の息子としての恥ずかしみと
のそのあわい
たかとかえるとのそのあわい
にふとすっぽりおさまって
無重力の遊泳でも意外とない
世界
にまんざらでもない鳥どもの交感を
見たと思っていた


高炉の火が消えたとて
歯車がロックの車座に代わったとて
どよむ空気とてなく
恒信風が
赤いじゅうたんの上を吹き進み
ネオンサインの間を駆け抜ける
常秋の星へのヴァイキングだと思っていた


ときたま超ロングランを博す
デルフォイの神託にもう酔うまい
グーテンベルクの落とし子が催す
華々しいカーニヴァルにもう踊るまい
祭りを終えて
恒信風に乗った