タガログ語
接辞というもの
マレー語がマレー半島からヂャワ・スマトラへそして台湾へと出かけて さらにハワイやイースターまでの太平洋の諸島に広まったと――おっと もう一つアフリカの東南に位置する島マダガスカルを忘れちゃいけません 小舟で渡って行ったのでしょうね そのように広まったと――言われるオーストロネシア(南島)語族。
その言語の特徴で動詞にかんする特徴できわめて関心を惹くものは フィリピンのタガログ語に見出されます。
接辞(接頭辞・接中辞・接尾辞)がきわめて論理的に発達していることです。
まづは次の表をごらんください。
動詞 kain =《食べる》(語幹)の活用
(1) 動作主=主語を取り立てる場合:接中辞 -um- を用いる。
(誰々がということを取り立てるという意味です。ほかの誰でもなく この人がという取り立てです)。
(A) 不定相: k-um-ain (食べる)
(B) 完了相: k-um-ain (食べた)
(C) 想念相: ka-kain (食べよう=未来相)
(D) 未完了相: k-um-a-kain (食べている=存続相・現在相)
* 綴字においてハイフンは通常つけません。(2) 目的=賓格語を取り立てる場合:接〔中〕辞 -in- を用いる。
(何をを取り立てます。ほかの何かではなく これなのだと言いたいときです)。
(A) 不定相: kain-in (食べる)
(B) 完了相: k-in-ain (食べた)
(C) 想念相: ka-kain-in (食べよう)
(D) 未完了相: k-in-a-kain-in (食べている)(3) 場所=処格を取り立て場合:接尾辞 -an を賓格用接辞とともに用いる。
(この場所でなのだという意味を強めたいときです)。
(A) 不定相: kain-an (意味は同じ《食べる》です。cf.のちの文例)
(B) 完了相: k-in-ain-an
(C) 想念相: ka-kain-an
(D) 未完了相: k-in-a-kain-an
これだけ規則的であれば フィリピン人は よほど論理思考に秀でているのではないかとも思えるのですが どうなんでしょうねぇ。
あすにつづきます。
《鬼》について
このおもしろ豆知識を ここに載せます。愛嬌のごとく。
南島(アウストロネシア)語族のことだからです。
はるかかなた南太平洋のサモアでは その昔 人びとは 《アイツウ(悪霊)の意志で動く》というアニミスムの心性を持っていましたが 現代では 《アイツウの意志で動くことを 自己の意志のもとに制御した》となったと言います。
この《 aitu 》は 日本語の《オニ(鬼)》と比べられたことがあるようなのです。
アイツウと鬼
Samoa : aitu
Indonesian: hantu
Tagalog : anito
Palau : 'aliδ
Satawal : yaliu
Yap : anyi
Hawaii : uhane
Japanese : oni
ヤップ島のアニーが 似ています。
もっとも 日本語のオニは 漢語の《隠:オン・イン》から出たとも言われます。
(銭→ゼニ; 文→ふみ; 簡→かみ(紙)のたぐいで 隠→おに(鬼)です)。(いわゆる《イの折れ》です)。
したがって 愛嬌に近いかも知れないひとつの仮説です。
タガログ語のカイン( kain )=食べる
ちなみに 古代日本語では
- か / け =食べ物
を言います。次の言葉に残っています。
- うかのみたま(宇迦之御魂神・倉稲魂尊):う(=おほ(大・多))・か(食)の御・魂
- とようけびめ(豊宇気毘売) / とようけのおほかみ(等由気大神):とよ(豊)・おほ(大)・け(食)
- うけもちのかみ:おほ(大)・け(食)・持ちの神
- おほげつひめ(大宜都比売・大気都比売神・大宜津比売神):おほ(大)・け(食)・つ(=の)・ひめ(日-女=姫)
さあ 関係あるか無いか。
マダガスカルまで小さな船で航ったのなら 日本列島にまでも来たかどうか。ちょっと寒い北のくにになるので 台湾あたりで止まったか。
(あまり 支持されていない仮説です。確かに対応するような語例が少ないみたいです)。