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哲学いろいろ

《喪の仕事》

フロイト:『喪とメランコリー(うつ病)』
愛する者の死が与える衝撃をいかにして《喪の仕事》によって解きほぐしていくかを考察するとともに だれもが直面するこの打撃が 病へと移行する機構を分析するもの。
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この喪の仕事では 《深刻な苦痛に貫かれた不機嫌さ 外界への関心の喪失 愛する能力の喪失 あらゆる行動の抑止と自己感情の低下》などの症状がみられる。・・・
この喪の仕事の背景にあるのは 愛する者に向けられたリビドーの再転換の営みである。喪の仕事に従事している者は 現実を吟味することで 愛する者がもはや存在しないことを認識する。理性的に判断するかぎり 存在しないものにリビドーを向けつづけるのは非合理的なことである。だからリビドーを死者から解き放つべきだと理性は命令する。

 しかし人間は リビドーを一度向けた対象から解き放つことには抵抗を感じるものである。それは 愛する者にたいするかつての自分の愛情を否定するように感じるからであり 自分を不実だと思うからである。  
  *(註) ここ ナンセンス。そういう気持ちもあるというのみ。

こうした抵抗が強くなると 愛する者がもはや存在しないことを認めようとせず 失われた対象にリビドーを固着させながら幻覚をみるようなこともあるのである。
しかし通常は リビドーを対象から解放することに成功する。《長い時間をかけて備給エネルギーを多量に消費しながら 一歩づつ》リビドーを開放する作業がつづけられる。・・・

 (中山元 解説:フロイト『人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス』光文社 古典新訳文庫 2008)