caguirofie

哲学いろいろ

#7

――ボエティウスの時代――
もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226

幼年

quatre

さらに一夜が明けて シンギドゥウヌムの朝にテオドリックはまた驚かされた。ふたたびドナウの船旅にもどるこの朝 街を通ると 一隅に大きな人だかりがあった。
それは 市であった。前夜の廃墟からは考えられないほど まるで地から湧き出てきたように そこには四方からの商人があつまってきていた。北からは 羊などの毛皮・琥珀の珠玉・蜂蜜・銅などが集められ 南の商人たちは 銀や真鍮の杯・皿・盆あるいは指環・首飾りなどの装飾品・それに遠くシナやインドからの織物や胡椒・香料を持ち寄っていた。
しかし テオドリックが興味を魅かれたことは このような互いに異邦人である商人たちの活気にあふれた姿にではなく そこでそれらの商品のほかに 鎖につながれたいくらかの人間たちが売買されていたことにであった。それは 倫理的な気持ちからではなかった。
髪をぼうぼうと生やした奴隷たちは 押し黙っていた。そして主人の商人と取引をおこなう客のほうをながめている。そしてかれらのその眼差しが なにかを語ろうとしているようにテオドリックにはおもわれたのである。

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