数学大明神もびっくり! タガログ語の論理性
(数学大明神とは ねむねこ氏あるいはでーでーてー氏のこと。または
論理の女神を漠然と言ったものです)。
マレー語がマレー半島から海へ出て行った。
台湾からスマトラまでの区域 そして東はハワイやイースターまでの太平洋
の諸島に広まったと――おっと もう一つマダガスカルを忘れちゃいけませ
ん 小舟で渡って行ったのでしょうか そう――言われるオーストロネシア
語族。
その言語の特徴で きわめて関心を惹く動詞にかんするものが フィリピン
のタガログ語に見出されます。
接辞(接頭辞・接中辞・接尾辞)がきわめて論理的に発達しています。
まづは次の表をごらんください。
▲ 〔動詞 kain =《食べる》(語幹)の活用〕
(1) 動作主=主語を取り立てる場合:接中辞 -um- を用いる。
(A) 不定相: k-um-ain (食べる)
(B) 完了相: k-um-ain (食べた)
(C) 想念相: ka-kain (食べよう=未来相)
(D) 未完了相: k-um-a-kain (食べている=存続相・現在相)
☆ 綴字においてハイフンは通常つけません。
(2) 目的語=賓格(対格)語を取り立てる場合:接〔中〕辞 -in- を用いる。
(A) 不定相: kain-in (食べる)
(B) 完了相: k-in-ain (食べた)
(C) 想念相: ka-kain-in (食べよう)
(D) 未完了相: k-in-a-kain-in (食べている)
(3) 場所=処格を取り立て場合:接尾辞 -an を賓格用接辞とともに用いる。
(A) 不定相: kain-an (意味は同じ《食べる》です。cf.のちの文例)
(B) 完了相: k-in-ain-an
(C) 想念相: ka-kain-an
(D) 未完了相: k-in-a-kain-an
☆ これだけ規則的であれば フィリピン人は よほど論理思考に秀でている
のではないかとも思えるのですが どうなんでしょうねぇ。
ほかにもこの論理学は 展開していきます。
▲ 〔動詞 の活用・つづき〕
(4) 受益者=与格を取り立てる場合:接頭辞 i- を賓格辞 -in- とともに
用いる。
(5) 手段・道具=具格を取り立てる場合:接頭辞 ipang- を賓格接辞 -in-
とともに用いる。
☆ 同じくこの(1)〜(5)の区分法は あとに触れる文例で見比べて
ください。
☆ あるいはさらに 動詞の動作じたいの意味内容を形式区分して これをやは
り接辞によって表わす。
▲ 〔動詞 の活用・その三〕
(あ) 一般動作の形式:接辞 -um-, ほかに mag-, ma-, i-, etc.
(い) 反復形式: mang-, pang-・・・-in(接頭辞かつ接尾辞)(う) 可能形式: maka-, ma-
(え) 婉曲形式: maki-, paki-(お) 使役形式: magpa-, pa-・・・-in, pa-・・・-an, ipa-
(か) 命令形式:各形式の不定相の形態を用いる。(う)にはない。
▲ 〔文例〕
〇 動詞: bili =買う
(1‐B) 主語取り立て形( -um- )にて用いる例
○ B-um-ili ako ng saging sa tindahan para sa guro'.
= Bought I bananas at the store for the teacher.
= わたしはバナナを・・・買った。
(2‐B) 目的語取り立て形( -in- )に用いる。
○ B-in-ili ko ang saging sa tindahan para sa guro'.
= Bought I bananas at the store for the teacher.
= バナナはわたしが・・・買った。
☆ 主語の《わたし》は (1‐B)の《 ako 》から簡略形の《 ko 》に変わ
っている。
☆ また目的語に対する冠詞が《 ng 》から 取り立てられることによって
《 ang 》に変わっている。
☆ あたかも人造言語のごとく規則ただしく活用しています。
次の辞書に添えられた概説から抜き出しました。