caguirofie

哲学いろいろ

父の死とわたし

1. 
おだやかな顔でベッドの上に横たわっていた。

朝になっても起きて来ないのでわたしが見に行ったのだ。

声をかけつづけて 父は死んでいると分かった。

母や兄がやってくると 枕元に小さな紙切れがあるのを見つけた。

遺書だった。達者で暮らせ。生命保険に入っておいた。と書いてあった。


身内・それも家族に自殺者を出すというのは どういうことだろう?


2.
父は 解剖学者だった。髑髏やホルマリンにつけた脳細胞をも家に持って来て
書斎に置いていた。

だから〔なのか〕 わたしは死については怯えなかった。

でも 父親が自分で自分をころしたと思うと 気持ちがまったく落ち着かなくなった。

母は 取り乱したりしなかった。

兄は 医学部に入って医者の道をすすんでいる。精神科を目指していた。

わたしは高校を卒業するというときだった。

生命保険は いくつか入っていて ぜんぶで相当な額だった。じゅうぶん暮らしては行ける。

ただ なぜ去って行ったのか。兆しもなければ 理由についての説明も何もなかった。突然
のことであった。


3.
そのことによる気のゆらぎは わたしに今にまでつづいている。

兄にしても のちに医師になったあと 精神のちょっとした異常をきたした。身の周りの
こと――単純に言って 着た物などの洗濯――が出来なくなった。


何もかもがさっぱり分からない気分だった。
からだごと どこかへ攫って行かれ あたまは ここにいるといった感覚。
あるいは その逆。


4.
わたしは どこかからツテがあって ふいとフランスへ旅立った。大学へ入れるかも知れない
と知って まづは 語学の研修センターに通った。

どういうわけか 大学にも入れて けっこう言語学専攻でやって行けた。

ただし よい就職はかなわず けっきょくフランスにやって来る日本人の通訳や翻訳で生活を
成り立たせるのが まづは精一杯であった。


生活が安定したとも言えないけれど 問題はやはり 父がなぜ自死をえらんだかであった。

単純に言って なぜわたしたち家族に話をしてくれなかったかである。

くやしい。わたしたちが気づかなかったのが 惜しまれる。
なぜ父は わたしたちと話が出来なかったのか。父のバカ野郎とも思う。


5.
アキは intéressant (= interesting )という言葉の代わりに おもろいっさん
( omoroïssant )と言えばどうかと言う。 動詞は s'omoroïr とすると。


nous nous omoroïssons
vous vous omoroïssez
・・・


のように活用するのだと言う。
アキとは ヱブで知り合った日本人の男である。
そのアキにわたしは 父親のことを話した。わたしのその秘密を話した。


6. そのときにはわたしは すでに二女の母親。その父親とは 離婚している。シングル
・マザーだった。

そして やがてわたしはアキに フランスへ来いと誘った。
じつは 断られると分かっていた。なぜか。

わたしが ともにかなしむパートナーを欲しがっていたからだ。
同病相憐れむのかたちになることを欲していたからだ。

それをアキは知っていたし そのことを欲していないことは わたしに分かっていたから。


7.
つまり わたしは アキのようにふつうに自立することが出来る。そう成れると分かって
来ていた。父親の自死という観念にまつわるモヤモヤから どうやら解放されるようだと
思い始めていた。


ただし 実際に採った行動は 過去から引きずるモヤモヤの世界に居続けようとすること
だった。つまり 誰かほかの一人にも わたしと同じ経験をして欲しいということだった。



8.
食べたものを吐くということが 長くつづいた。葛藤の中にいたということだと思う。


そうして或る日 アキにさよならを言った。
父の遺産も尽き始めていた頃であり 先々のことにまったく自信が持てない情況にあって
のことだった。

そしてじつは わたしにはほかにも秘密があった。その問題は アキとは別の誰かコンサ
ルタントになってくれる人が必要だと思ったからだ。


言いかえると その問題も――つまりそれは 男女関係の倫理的な問題であったが――
あの父の自死を受け留めたわたしの弱さにかかわるものと思っている。

美頭 二美恵 ― Nico Jess
昨日 18:12 ·
blueさん。少しずつ反応します。正直な反応をします。その前にお伝えしておきます。あるお題目についてあなたの意見とわたしの意見が食い違ったまま、お互いに理解し合うことができないままだったとしても、わたしがあなたに関心を持つことをやめるわけではありません。それは例えばあなたとわたしがキャッチボールを1000回して、そのうちの2回や3回が上手くいかなかったからといって、あなたとのキャッチボール自体をやめようとは思わないということです。わたしはキャッチボールの相手としてあなたを選んだのです。人と人がキャッチボールをしているのだから失敗しないわけがない。図々しいですかね。
>発信者と受信者の間の壁
:壁を作っているのは誰なのか。もう一度、茨木のり子さんの詩を乗せましょうか?
今日はあえて辛口です。【壁】は自分と相手次第で、また双方の状況次第で【鉄壁】にもなるし【土壁】にもなるし【ベニヤ板】にもなるし【カーテン】にもなるし【オブラート】にもなります。あなたはいつでもどこでも【鉄壁】の存在を感じるのですか。そうだとしたら、残念です。わたしがあなたと話すときはたいてい【カーテン】あるいは【オブラート】あるいは【何もなし】だからです。
>高校の時に中学校時代の親友を自殺で亡くし
:そうでしたか。そのときあなたは彼に対してどう感じましたか。彼に腹が立ちましたか。世間に腹が立ちましたか。それとも悲しみましたか。絶望しましたか。淋しかったですか。涙を流しましたか。
わたしは20代のころ職場の同僚を交通事故で亡くしました。自殺ぢゃなけどね。彼氏とドライブしていて彼氏の運転ミスだったそうです。通夜に行ったとき、わたしは自分が何を感じているのかさっぱり分かりませんでした。ただ彼女が死んだという事実が【理解不能】でした。ご家族様は特にそうだと推測しますが、その後、怒りがこみ上げるんですね、【わたしを置いて唐突に死にやがって!】みたいな。
わたしが風見鶏さんに、それは本当に【怒り】なのですか?と問いかけたのは、もしかしたら自分の感情を自分で理解・把握できていないかもしれない、実は【悲しみ】【喪失感】【虚無感】【淋しさ】【やるせなさ】【絶望感】【孤独感】などなどが【怒り】に化けているのではないか、と思ったからです。
>「怒りはやがて悲しみに変わる」風見鶏
:ですから、あの質問の終末で風見鶏さんは【悲しくなってきた】というお礼を書いていますが、わたしは正直に書いてくれてありがとう、と思っています。
>アンニュイでもメランコリーでもなくて、怒りと、悲しみと、絶望からでした
:あなたと同じ【怒り】【悲しみ】【絶望】を感じることができないことを残念に思いますが、わたしはあなたではないので当然と言えば当然です。初めに書いたように、だからと言ってあなたと話すのをやめる気はありません。あなたがわたしと話すのをやめるのはあなたの自由だけどね。
しつこいのだけど、今日はあえて辛口です。【怒り】【悲しみ】は、【期待】【信頼】【甘え】があるから。【絶望】するのは【希望】があるから。いえ、わたしは「期待や信頼や甘えや希望」を放棄しろと言っているのではありません。そのまんま続けてくださいと言います。さんざん「期待や信頼や甘えや希望」を持ち、さんざん「怒りや悲しみ」を味わいつつ、続けてください、と言います。
批判や反論や文句や愚痴はいつでも受け付けますよ。来年でも10年後でも、あなたがしゃべりたくなったときでよいので、何か反応をくださると喜びます。

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1Nico Jessさん
コメント
美頭 二美恵
美頭 二美恵 雨合羽さんのご回答が無駄にならないことを祈ります。彼女は、土砂降りの中で困っている人に、さりげなく雨傘を差し出すことができたら、という理由で、自らに【雨合羽】という名前を付けたのだそうです。
1 · 昨日 20:06
美頭 二美恵
美頭 二美恵 >負けるかもしれない賭けに、彼、彼女を引きずり込むことになるからです。
:ははっ!そんなことを恐れているのですか?笑。引きずり込まれた側はあくまで自らの意志であなたの賭けに引きずり込まれることに決めたのだから、あなただけの責ではありませんよ。しっかりしてくださいよblueさん。誰にも迷惑をかけずに生きている奴がいますか?と言ったのはあなたでせう?もう寝ますおやすみ。
(@^^)/~~~🎵
1 · 昨日 21:02
Nico Jess
Nico Jess 人が我でない以上、かべはどこにでも存在しています。兄弟でも、恋人でも、夫婦でも、親子でも、あなたが「わたし」でない限り壁はあります。

ここではわたしはあまり壁を感じません。おそらく言葉による交流がほとんど存在しないからでしょう。言葉はわたしにとってコミュニケーションを阻害するものでしかないようです。

壁の厚さはおそらく、一定です、彼・彼女との間に「壁がある」と感じるだけです。言うまでもなく「壁」は「隔たり」です。それが1メートルでも1000メートルでもきっと同じです。

風見鶏さんの「怒りはやがて悲しみに」は、一般論として言っているのかどうかわかりませんが、わたしはぶらじゅろーぬさんの回答に対しての彼の反応だと思います。わたしもあのように言われれば風見鶏さんと同じような悲しみを感じるでしょう。

風見鶏さんからフレンドリクエストが来ていたので受けましたが、わたしのフレンドリストから消えているようです。

結局彼とは一言も言葉を交わさないままでした。

質問のぶらじゅろーぬさんの回答にどうしても「お礼」ができません。

>遺体の処理から何から 物入りになることを 社会的に他人(ひと)に
押し付けて死んで行くというのは 鼻つまみものです。

わたしの友人も、そしてわたしが30代の時に自殺したいとこも「鼻つまみ者です」ゴッホも、ドゥルーズも、プリーモも、太宰も、そして数知れない何百何千万の自殺者=鼻つまみ者に敬意を。
1 · 5時間前
美頭 二美恵
美頭 二美恵 僕はいつだつて【宇宙のみなしご】だ。だからときどき人と手を繋ぎたくなるのだし抱き合いたくなる。僕が【宇宙のみなしご】だからね。
手を繋いで抱き合ったとき、ああこいつも【宇宙のみなしご】なんだなって思ふのだよ。さうして僕は僕のやうな【宇宙のみなしご】がいることを喜ぶのだよ。しかもそいつと手を繋ぎ抱き合うことができたのだから最高ぢゃないか。

ぶらじゅろ〜ぬさんは真剣に回答を書いています。あなたは気に食わないかもしれないけどね。対峙するのも逃げるのもあなたの自由。逃げてもいいと思いますよ僕は。
対峙するならいつも僕がyy8たちに本音を話して不快感を与えているやうに(苦笑)、あなたが思ったことをできる限り忠実に言語化してください。僕ならあなたが逃げるより胸倉を捕まれて文句を言われる方がずっといい。
逃げるならそれもいい。僕は【ワルモノ】の質問で雨合羽さんの回答に対してこのやうな返信を書いた。【畏れ乍らあなた様のご回答を理解できなかったことを残念に思ひます。】

勝手ながら今後も僕はあなたを見守らせていただきます。あなたに関心を持ってゐるからです。喧嘩をしても逃げてもどちらでもよいと思いますよ僕は。あなたが決めたなら。あなたが納得できたなら。あなたが仕合せたのなら。
34分前


Nico Jess ハコブルさん、猪突さんに比べてBさん、Aさんの文章がああまで難解なのはどうしてでしょうかね?過去にこの二人の文章の難解さに困っている質問者を結構見てきました。質問している人は大抵明晰な文章を書いています。頭が良すぎるんですかね?

ああ、それからタシュケントさんとかいう人とは合いそうにないですね。まあはなすこともないでしょうけれど、ネムリネコさん同様エリート意識がプンプンします。(苦笑)Aさんも、今は亡きサイコロ氏も同様です。
個人的にはプラポタ氏ハコブル氏が利口ぶらないところが好きです・
1 · 9時間前
Nico Jess
Nico Jess わたしとハルさんとyy8の3馬鹿です。