文語の「名詞+せし+は」
Q
文語はまったく分からないのですが、外国の方が質問されていて興味を持ちました。
詳しい方に教えていただけるとありがたいです。文語の「す」の未然形が「せ」ということなので、
「せぬは」「せざるは」あるいは、否定でなければ、「せ」ではなく連用形の「し」と過去の「き」の連体形「し」が続いて「ししは」になるのではと思うのですが、なぜ「せし」なのでしょうか?よろしくお願いします。
A
No.4 回答者:bragellone
ややこしいですが ひととおり見解を述べます。
まづ カ行変格活用の動詞《来(く) または 来る》について 次のように成り立ったという仮説です。:
原形:0: kö
・ 法活用:活用形 強変化(鄯) R‐派生 ?=?以外で強変化(鄱) 混合変化(鄱) 混合変化(鄴)
?(不定法:未然形) ka kö-ra kö kö ko
?(条件法:已然形) kä kö-rä kä körä > kure kure
?(概念法:連用形) ki kö-ri kö kö > ki ki
?(命令法:命令形) ke kö-re / kö-yö ke köyö koy
?(連体法:連体形) kö- kö-rö- kö- kö- > kuru- kuru-
?(存続法:終止形) ku kö-ru ku ku kuru
語例 ・ ・ ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・来 来ル
活用形式 ・ ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二次・オウ二段 二次・オウイ三段(現代語)
☆ 《強変化(鄯) / R‐派生 / ?=?以外で強変化(鄱)) という初めの三行は 活用形の可能性を示します。その中から 選択して成ったじっさいの活用形が 《混合変化(鄱) / 混合変化(鄴)》のいづれかです。古語と現代語とに分かれます。
説明を端折りますが サ行変格活用の動詞(《す(為) または する》については さらに複雑な《混合変化》によって成り立ったと考えられます。
原形:0 sö
・ 強変化 R‐派生 ?=?以外で強変化 混合変化(鄱) 混合変化(鄽) 混合変化(鄯)
? sa sö-ra sö sö > sä si / se si
? sä sö-rä sä sö-rä > sure sure sire
? si sö-ri sö sö / si si si
? se sö-re / sö-yö se söyö > säyö seyo siyo / siro
? sö- sö-rö- sö- sörö- > suru- suru- siru-
? su sö-ru su su suru siru
語例 ・ ・ ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ス ・・・・・・・・・・・・・・スル・・・・・・・・・・*シル
活用形式 ・ ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オウ二段・・・・・・・・・エウイ三段 ・・・イ一段
☆ 問題は 混合変化という実際の活用形にあって ?の概念法:連用形は kö や sö という形があり得たということにあります。
ふつうこのあいまい母音 / ö / は / オ / か/ ウ /で固定されるのですが――つまりたとえば
mö 身 > mo も(身‐抜け=蛻(もぬけ)); mu む(身‐殻=骸(むくろ))
mö-i > mï > mi 身(み)
nögöhu 拭ふ > nuguhu 拭(ぬぐ)ふ; nogohu 拭(のご)ふのようにですが たまに――東言葉かも分かりませんが――
kökörö こころ / けけれ
kötöba ことば / けとば
sö 背 > sö-muki そ‐むき / sö-naka > sä-naka せ‐なかがあります。よって―― ?の概念法:連用形に
kö / ki こ(来)/ き(来)
sö / si せ(為) / し(為)があり得たかも知れない。
つまり 《「名詞+せし+は」》の《せ》は 動詞の連用形であって 規則どおりに活用していると見ることが出来るかも知れない。という仮説です。