caguirofie

哲学いろいろ

にほんごアレコレ(2)


2015-03-30 - caguirofieよりのつづきです。
 (8)の予告編: 母音添加の方式で Rを介在させない場合もあります。
    ö (オ・ウ) >  〔イの折れ〕  ö-i  >  ï (ウに近いイ) >   i イ
     kamö かも(賀茂)・かむ >  kamö-i  かむい >  kamï  かむ >  kami かみ(神)
     * 途中のカムイという発音の段階で この語は アイヌに入って行ったと考えられている。


 (9) では いま前項に出て来た音韻 ö とはどういうものか?

 文字どおりドイツ語の o Umlaut ( ö )に似る音として捉えています。(橋本進吉の学説で オ乙類として規定される音韻です)。
  / オ /とも/ ウ / ともつかないあいまいな母音であろうと。フランス語ではこのあいまい母音に 広い音( coeur; soeur )と狭い音( Europe; jeudi )とがありますが どちらに似ているかは詳しいことは分かりません。
 分かっているのは この音が のちに オにもウにも発音されるようになったということです。あるいは エとして承け継がれたものもあるようです。( ösö = oso / ese つまり 遅(おそ)‐い / 似非(えせ))。

 önö 己(おの・うぬ)
  önö-re 己(おの)-れ: レは ワ-レ(我れ)やナ-レ(汝れ)のレ。つまり親愛称。(じつは R‐弱変化でもある。レ re < rä < ra-i としてすでに成った語を添えるかたちの R-弱変化)。
  önö-höre 自(うぬ)-惚れ
 kö 木(こ・く)
  kö-suwe 木(こ)-末=梢; kö-tama 木(こ)‐魂= 木霊・谺
  kö-da-mönö 木(く)-だ(=な=の)-物=果物 cf. 毛だ物=獣
  kö-i (イの折れ)> kï > ki 木(き)
 mö 身(も・む)
  mö-nuke 身(も)-抜け=蛻
  mö-kuro 身(む)-くろ(殻)=骸・躯
  mö-i (イの折れ) > mï > mi 身(み)・実(み)
 warö-si わろ(悪)−し・わる−し
 karö-si かろ(軽)‐し・かる‐し
 nögö-hu 拭(のご・ぬぐ)‐ふ


 ちなみに 万葉仮名では 次のように 広いふつうの音のオとは文字表記で区別されているようです。

  広いコ( ko )に排他的に使われている漢字:古・故・枯:高・庫
  曖昧なコ( kö )を表わす漢字: 己・忌・巨・去・居・許・虚
    (大野晋岩波 古語辞典 補訂版 1974 / 1990 )

 つまりけっきょくやがて互いに区別がなくなりどちらも お・オと表わす音韻ひとつになった。


 (10) ここで道草を喰います。または脱線します。

  ma 目 は ma 真 という言葉を生んだか? ( Seeing is believing. )。 あるいは その逆*1の ma 間 は生まなかったか?

  ma 目 ⇒ ma 真 // ma 間 から mö 身(も・む)をみちびかなかったか? mö-i > mï > mi み(身・実)は 《ま=真》に通じる中身のことでもあり それの外側の空間として《ま=間》にも通じる。


 ちなみに mö 身(も・む)は 朝鮮語の 몸 mom と同源だと言われる(大野晋)。ありうる。ただし mï > mi 実(み)の意味は 朝鮮語には無いようである。

 ☆ ふうーう。脱線すると しんどいですね。mö 身(も・む) から mu-ku 身-く(=移動相)=向く をみちびきたいのですが。

*1:その逆:補充用言(=助動詞)のムは 向か‐ムと言えば われは向くつもりだという意志法でもあり あの者は向くであろうという推量法でもある。確かさと不確かさとで意味が逆になる。