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哲学いろいろ

ことばそのものに表敬の意味はない

敬語といわれる言葉は その言葉そのものに尊敬や謙譲の意味合いはないということ。

たとえば次の語を取り上げ その起源について分析してみます。

 ○ 謙譲語:まかる :[意味](退出する・参上する);[ふつう語] 出づ・去る・行く

 (1) この語は まづ 次の語と語根を同じくすると言われます。

 ○ まか‐す(任す);まか‐る(罷る);まけ(任け)

 例文:大君のまけ(任け)のまにまに ひなさかる国治めにと・・・(万葉集3291)

 ☆ これは《任命〔する〕》の意味です。
 
 (2) ここからは 推測をまじえます。韓国語に 次の語があります。
 
 ○ 맡기다( math-gi-da マッキダ):任せる

 ☆ 語尾の‐ダは 英語の to 不定詞のようなものですから マッキが語幹です。どうもこれが借用されて《まかる》などが造られたのではないかという憶測です。
 憶測が間違いであっても構わないという前提で取り上げているのですが その意味は 尊敬語であろうと謙譲語であろうと もともと語じたいに 表敬の意味などはない。これを確認するためのひとつの分析になります。

 (3) マッキダは じつは つぎの語から派生しています。

 ○ 맡다( math-da マッタ):引き受ける。

 つまり マッキダは 《引き受けさせる》という意味での派生語です。
 それはそれとして マッキダのマッキから 《まけ・まかす・まかる》が借用しつつ造られた。のではないかという妄想です。

 (4) だいたい 語末の母音は ‐イで安定するのが 日本語ですが 不定法(不定として捉える気分)としては ‐ア か ‐オ( ö )です。
 ですから マッキから マカが想定され そこから 人為・使役相としては マカ‐スが造られ 自然生成の相としては マカ‐ルが得られた。マケ(任け)は 

 ○ maka-i > makä > make まけ

 という生成です。〔 haka 捗(ハカがゆく・ハカ取る・ハカ‐る(測る)のハカ) > haka-i > hake はけ(水はけのハケ)〕



 (5) つまりどういうことか?
 
 ○ まか‐す:引き受けさせる;相手の自由な意志による行為や現象にゆだねる。
 ○ まか‐る:引き受けさせられたこと・命じられたことをする(相手の自由な意志を尊重しているかたち)

 と表現したいのであって そしてそれらが社会の現実の身分関係に沿って用いられたに過ぎないのであって そこで表敬やら謙譲の意味合いが出るというのは 言葉そのものにはない。社会的なニンゲン関係という文脈から出て来るに過ぎない。

 こういうことだと考えます。
 
 (6) もうひとつたとえば

 ○ (謙譲語)聞こゆ・聞こえさす: [意味](申し上げる);[ふつう語] 言ふ

 にしても 《聞こえるかたちをとる。聞こえるように言う》と表わしているだけであって その言葉じたいに上下関係や尊敬もヘリクダリもない。と言わねばなりません。
 
 (7) 社会の情況に合わせて言葉の表現を変えて用いるというのは 宣言と言わずマニフェストと言い 討論ではなくディベートであったり お話会はトークショーであったりとなります。今では身分関係が薄いのですから 敬語表現という意味合いも薄いものです。言葉じたいに 表敬の意味合いが濃かったり薄かったりする中身はありません。