三十代に一度・・・〔 μ ‐8〕
もう三十歳代のこと。
修道院から どういうわけで出た来ていたのか 聞かずじまいだったが わたしは一度 虫の知らせで電話をかけたことがあった。
ところが かのじょ μ さんは しゃべるわしゃべるわで 面食らってしまった。もう過去のことなど 何もなかったかのようである。こちらの・自分一人だけのワンルームの電話番号をおしえようかと言えば ちゃんとメモしたのだった。
だが やはり違和感がわたしに生じて来て
――わたしは あなたにプロポーズして断わられた男だよね!?
と問いかけた。
ところが かのじょは黙ってしまった。数十秒 あるいは 一・二分かも分からない。わたしは様子を推し測っていたが 判断はつき兼ねていた。
途端に 一言も言わずに 電話は切れた。
(おしまい)