最後のデートのいきさつ〔 μ−7〕
失敗に終わったファースト・キスのデートは その前に念入りの準備期間があった。
この最後の逢い引きは 冬のことだが その前年の夏に とつぜん μ さんから電話があった。電話をかけてくるなどというのは 初めてのことだった。
リルケの詩についてのいい評論があるという。あまり気乗りしなかったので ふんふんと聞いていた。話が進まないようだったからか その評論の複写を郵送するという。
これを承けての次の電話では ちょうどその外国人の書いた評論を訳していたのが わたしの先生だった人で そのむね 伝えた。そして おそらく わたしとしては初めて いい加減に応対したのだった。リルケが嫌いなことも手伝ったかも知れない。
けっきょく適当に話が終わったとわたしは思っていたが このことが 意外と 尾を引いたようなのだった。
年が明けて早々 また電話が来た。こちら(μ さんの住んでいる町)へ来いという。わたしは渋った。車にチェーンを巻かなければならないことが気にかかる。その旨を言うと いや 車で来てくれと引かない。
けっきょく 受け容れた。車で行った。だから ファースト・キスどころか わたしとしては 結ばれることになるかも知れないと心の準備をして行ったのだった。