caguirofie

哲学いろいろ

地中海の晩鐘(#2)

クレオパトラの嫁した新しい太陽から
ユピテルの雷鳴がどよめき轟くとき
象にまたがる英雄はすでに喪く
東のシチリア
緑のシチリア
あの元老(セナトール)の演説を父から子へと伝え聞き
美女シチリア
いま《彼らの海》に孤り浮かぶ
初夏――
そしてユリウスの夏


プロメテウスの火
シラクーサの知者を生み詩人を生み
たわわに稔るバッカスの実の下で
風の精(シルフ)にくちづけられた蛇は
鮮やかに装おうアカンサスに微笑み
軛から放たれた牡牛は
泉に遊ぶ森の精(ドリアッド)に誘われ
空を彷徨う緑の春にも
エトナで鋳られたカエサル
焼き尽くすような稲妻を発す


東方の故郷を逃がれ
家畜とともに緑を渡り
ベルベルの民の
ビルサの白い丘に都した人びとは
島の沖に
王女エリサの後を追い
ヘラクレスの柱を越えて
錫の群島に渡った人びとは
静やかに杉の木を伐り
小麦を運び
紫紅色の染料(プールプル)を商う


知を愛し理を窮め医に長けた《魔術師》
アクラガスのエンペドクレスは
炎に投じてすでに久しく
イリオンの勇エネアスの裔
ローマの鳩が
牧歌の島を高く越えて
両岸に双の大陸に
北深く遠く東に
重たい夏を告げるとき

遠く褐色に輝く東方の地に
異様に光る月が上がる
エスは死に絶えキリストは生まれ
パウロは奔りカエサルは怒る
セミラーミスの楽園を見るメシアの民は
怒る太陽を通り越して
地に潜り
地に奔り


遠くピンダロス エスキュロスが訪れた
ヒエロンの王宮
遠くピタゴラスが招かれた
ディオニシウスの王宮
この緑の風土を
キケロが讃え
赤い山からの朝陽を
太陽の裔ハドリアヌスが仰ぐ今
この穀倉の地の底を
ペテロとともに遠く近く
蒼白い馬が駆けめぐる


沈む陽光
オリュムポスの神々は
いま島の奥深く
退位のローマの陽とともに
ピアッツァ・アルメリーナに
床のモザイクと化してゆく


《聖なるトロイの
プリアモスと槍に優れた民の
滅び去る》その日
神々とともに脱出し
漂着のカルタゴ
温かくあのエリサに迎えられ
王女を振りきり船出した人
エネアスの民の陽の国の
海に孤り浮かぶわが島(トリナクリア)


夏――
アウグストゥスの夏――
神々の沈黙は
シラクーサのカタニアの
円い闘技場(アムフィテアートル)に
緑の海の陽の王とユダヤの民の月の王との
格闘を
静かに見守る