caguirofie

哲学いろいろ

無題のソネット(Mallarmé)

《不安》は聖火ランナー
(ランパドフォール)のように
この真夜中
縞瑪瑙(オニックス)の光る
清らかな爪を高く掲げて
宵の夢を見続ける


あまたの夢も
あの不死鳥(フェニックス)に
あまりにもきれいに
焼き尽くされて


灰を納める壺
(アンフォール)も
見当たらない


人気の失せた部屋
箔塗り(プチックス)の
剥げた壁の隅


祭器壇の上に
置かれてあった
儚く響くような
調度は
見捨てられたのだ


《虚無》がただ一つ自讃する
このオブジェは
黄泉の河(スチックス)の
涙を汲むために
あるじが持っていった


開かれた北窓(ノール)の近く
金箔(オール)が死にかけている


火を吹きかける一角獣の
装飾(デコール)のあたりだ


火の先では
水の精(ニックス)が
まだ逃げようとしている


何故?


向かいの鏡の中では
消え失せた雲でしかなく
もう
忘れられているというのに


やがて
大熊座の
七重奏(セプチュオール)が
雲を追い払った