#42
もくじ→2007-04-16 - caguirofie070416
第十四章c 補論――遅れたインタメッツォ――
長い引用のあと その内容を直接承けて続けます。
曲平:〔弱電磁統一理論の内容はどんなものか お話し頂けますか〕。
先生:ではほんの少しだけ説明しましょう。この理論ではクオークやレプトンを記述する内部空間を考えます。クオークというのは 陽子や中性子や さらに中間子などをさらに分割したと考えるときの基本構成粒子で 三つ子や双子の組み合わさったものです。一方レプトンというのは 電子 μ中間子 中性微子(ニュートリノ)など 軽粒子と呼ばれる粒子群で これも双子の組に分類されます。
これら双子や三つ子のいれものとしての内部空間は 前に述べた(省略)三次元空間よりももう少し複雑なものであることがわかります。そして それをゲージ化する つまり内部空間を局所的なものと考え 接続場を導入すると 結局四種類のゲージ場が必要となります。このうち 一つが電磁場で あとは zと呼ばれる いわば重い電磁場と w+およびw−という電気を帯びたベクトル場となるのです。このような場は 量子力学的な意味で粒子としても観測されることにもなるのです。
・・・
とにかくこうして一部分にせよ ゲージ理論による統一理論ができ ヤン・ミルズ理論はやっと現実的なものとなったのです。ここまではに二〇年近くかかったということなのです。これに力を得て 素粒子のもう一つの相互作用である強い相互作用も その基本法則はゲージ理論であるという考え方が有力になりつつあります。強い相互作用はクオークの間に働く力に関するものですが これは量子色力学と名づけられています。
曲平:色とは何ですか・
先生:前にもいいましたが クオークは三つ組です。その三つを区別するために 赤 白 青という呼び方が使われているのです。でも 普通の意味の色とは直接の関係はありません。この三つ組を説明するために また別の内部空間が必要ですが これにさらにゲージ原理を適用します。そうすると 八つのベクトル場が ゲージ場として出てきます。これが クオーク同士を結びつけて陽子や中性子などの粒子を作ることになります。
その意味で これらのゲージ場はグルーオン(糊の粒子)と呼ばれています。さらに この理論を 前に述べた グラショー・ワインバーグ・サラムの理論と統一して 大統一理論と呼ばれる理論を完成させようと 今 活発な研究が進められているところです。
曲平:でも ここまでは まだ本当に重力と関係していないのでしょう。
先生:そうでう。ただゲージ理論という理論の背後にある考え方が 曲がった時空の平行移動という考え方とつながっている というだけのものともいえます。しかし 本当に重力と素粒子を全部統一する理論 つまりワイルが最初目指した意味の統一場理論に対する研究も次第に活発になってきました。そうなってきたのは やはり理由があるのです。
曲平:どんなことでしょうか。
先生:それは素粒子論で考慮の対象とするエネルギーが非常に大きくなってきたことと関係があります。特に さきほどちょっと触れた大統一理論では 陽子や中性子の質量より一五桁くらいも重い粒子が現われます。
曲平:というと どれくらいの重さですか。
先生:陽子の質量は大体10の−27乗kgですから その粒子の質量は10の−12乗kg あるいは10の−9乗kgくらいで ちょっとした細胞か塵アくらいの重さがあります。
曲平:それじゃ簡単に発見できるのではありませんか。
先生:いや この粒子はすぐに他の軽いものに崩壊してしまうので 直接に観測することはできません。
曲平:しかし崩壊すれば それだけのエネルギーを放出するわけでしょう。核エネルギーより 十何桁も大きいエネルギーとはすごいじゃないですか。何とか利用できないのですか。
先生:崩壊の寿命が短すぎて 普通の意味では利用できませんが もちろんいろいろ間接的な過程を通じて重要な働きをしているはづです。でも参考のために 10の−12乗kgという質量を全部エネルギーにした値 つまり これにcの2乗をかけたものはどれくらいのものか 調べてみましょう。
曲平:大体10の5乗Jですね。これは巨視的物体のエネルギーとしても相当なものですね。地球上で このエネルギーを使って物体を一メートル持ちあげるとすると ええと 重力の加速度が大体10m・sの−2乗だから 10の4乗kgつまり一〇トンの物を一メートル持ち上げることができますよ。または これを運動エネルギー1/2mvの2乗にしてみましょうか。vとして10m・sの−1乗つまり時速36kmとすると mはちょうど二トン つまりかなり大きな車くらいになります。
先生:そうですね。こんなエネルギーが 唯一個の素粒子によって荷われているといった状態を 今の素粒子論は考えているのです。
曲平:そういう粒子を 大きな加速器で作り出して実験することはできますか。
先生:数世代あとを考えても 到底ムリでしょうね。
曲平:それでは実証不可能ですか。
先生:そうでもありません。いろいろ間接的に検証することはできますし 特に宇宙のできはじめにおいて 大変重要な働きをしていたと思われます。その詳細はやはり別の本などみて頂くしかありませんが ここでは それくらい重い粒子になると 重力も決して弱いとは言えなくなる ということを申しておきましょう。
(藤井保憲:相対論の再発見―統一理論への道しるべ (ブルーバックス (B‐533)) 4章)
この《決して弱いとは言えない重力》を わたしたちは 宇宙の一部として 有している ないし 通過して来ている。言いかえると 宇宙の原理には とうぜんのごとく この重力が存在する。(それを 存在させている)。ところで ペテロやヨハネら弟子たちに現われたイエス・キリストが 最後に《月足らずで生まれたようなパウロにも現われ》(コリント前書15:8) この原理を明らかに見させた。かれパウロは
わたしたちは理屈を打ち破り 神の知識に逆らうあらゆる高慢を打ち倒し あらゆる思惑(うたがい)をとりこにしてキリストに従わせ また あなたたちの従順が完全なものになるとき どんな不従順でも罰する用意ができています。
(コリント後書10:5−6)
と言う。これが
確かに わたしたちはこの世に生きています。しかし 人間的な動機で戦うのではありません。
(同上10:3)
と言うごとく つづけて
わたしたちの戦いの武器は無力な人間の武器ではなく 神に由来するものであって要塞をも破壊するほどのものです。
(同上10:4)
と言うとき たしかにかれは 原理に由来する重力のエネルギーに言い及んでいる。ということは この戦いが 悪魔との戦いであって これは わたしたち自身 内的に(その内部自由度をもって) 曲がって来る虚偽の力の相互作用を 棄てる もしくは そのまま 曲がって来る力を わたしたち自身 ブラック・ホールいや ホワイト・テンプルとなってのごとく 横切らせる。というように 基本的には 外面的に何もしない(つまり真理が雲に乗って来るということを俟っている)戦いである。
《要塞をも破壊するほどの力》が 悪魔に打ち勝つのを俟つ戦いである。ただそれだけのものだとも言っておきます。つまり 目に見えては 一向に分からないようなものだとも言っておきます。ところが 人間の知恵が 核エネルギーを作り出した(もともと存在するものを加工した)ことを誇っているというのなら この真理の先取りのような(真理のためにではなく真理の力を利用して自分たちを誇るためのような)壮挙に対してもしわれわれも 《誇る必要があるなら わたしの弱さにかかる事柄を誇りましょう》(コリント後書11:30)とパウロは言ったのであるから むしろこの自己還帰(復活)としての自己の内なるホワイト・テンプルの確立 これを基本的な戦いの動態としていて 不都合なことはない。
むろんわれわれが 社会的に何もしないで隠棲するのだと人は 思ってはならない。基本的にな内なる闘いであるゆえに つねに外にも出かけていて 相互作用の過程で自分たちの八重垣を作りあげつつ 真理の力を享受している。そのような世の中が来る これは 時として実現するのであるとわれわれは宣言するのです。
われわれは今 慣性系の・必然の王国の母斑を見ています。非慣性系をも明らかに見る後史はまだ実現されているのを見ていません。ただ 後史は 前史・交換経済社会の必然の王国の中からやってきたのであり ほかならぬ前史の相互作用過程が そのままおそらくそこに非慣性系をも見る後史である つまり これら地上の社会力学をとおして 原理を見ている。かつ この社会力学が後史へ回転することを 神に由来する力にすがって 待ち望んでいる。つまり この弱さを誇ろうと言われた。そのこと(すなわち 形のない希望)が じっさい 後史の出現にほかならないのではないでしょうか。これが 学問( discipline )であり 科学( science )は 井戸端会議過程たる学問をとおしてさらに自由意志を確立した人間が持って活用していくことの出来る知識である。
原理に由来する力にすがり 待ち望んでいるということは 何もしないことではない。鹿もスサノヲは 心が内面へ向き変えられ この内面の前史が 一たん死なしめられて すでに後史へ回転し すがすがしき心となって そのムライスム共同体の中で 真理を享受するという生活が与えられた。すなわち あの歴史知性の獲得のあと 血筋によらず肉の意思によらずまた人間の意志にもよらず 原理によって(原理から生まれた原理たる言葉によって)生まれ すでに経験的に人間の意志を活用する日本人の歴史において 歴史が開始されたのです。これを 復活させて この歴史が時として 現在 実現しないとは言えないでしょう。そのような時代であると思います。
ここにおいて 自然科学も 容易にこの社会力学と相い携えて出発を開始するでしょう。
***
(つづく→2007-05-28 - caguirofie070528)