caguirofie

哲学いろいろ

#5

もくじ→2006-08-13 - caguirofie060813)

漱石英詩註(その四)

そこでわれわれは 漱石英詩の世界に戻ろう。

  • なおその前に もう一点細かいことを申すならば タケミカヅチは 古事記の神学において イザナキが 火神(カグツチ)を斬り殺したとき その剣のつばについた血が岩にほとばしり付いて化成したカミである。もちろん何故ころしたかと言えば その妻・イザナミが カグツチを生んだとき ほとを焼かれたことにより死んだからである。古事記の神学は 男(イザナキ / スサノヲ または時に アマテラス)と女(イザナミ / アマテラス またはスサノヲ)との原形的な別れを このように伝える。タケミカヅチは そのように この別れに参画している。またそうなのであって タケミカヅチの参画のみが この別れの絶対的な要因なのではないとは言うべきであろう。
  • 古事記の神学に スサノヲイスムのウタの構造を見るべきであると思われることとしても こうである。のちにアマテラスと〔ツクヨミ〕とスサノヲとが――かれらはもちろん イザナキとイザナミとの間に生まれたのであるが―― かのアマテラス‐スサノヲ連関から成る社会形態をきづき上げるとき むしろタケミカヅチは ある種の事務官僚ツクヨミとともに その連関構造へと結びつける役目を果たす。《 They(ここでは Amaterasu & Susanowo )have never met since. 》というA−Sの分離連関の背景にかかわっている。また この場合 むしろ 別れのあとではあっても 分離連関というのは 連関のほうに重点は置かれているはずである。( The moon and I will gaze on her(=Amaterasu dancing ))
  • 細かい点の補足として。アマテラスとツクヨミとスサノヲの三兄弟は イザナミの死後 イザナキがこの妻を葬ったあと そのミソギの場面で かれ一人のもとに生まれたと伝える。
  • 同じく。A−S連関から成る社会形態を築きあげるときというのは いわゆるオホクニヌシ(スサノヲの後継者)の国譲りおよび 神武東征の物語として うたわれる事態を指している。
  • 先走った言い方をすれば A−S連関構造の社会=国家の成立は 類型的なかたちででも 歴史的な事実であろうと主張しうるように 或る種の仕方で 人間とその社会のあり方として かつ 神学的にも 預言されていたかのごとくに捉えられてくる。漱石が きみとわれとの別れや乖離に 消極的なだけでなく 積極的な意味をも捉えたとするならば その意味は いまのような預言の実現にかかわっているかも知れない。男女関係のもしくは男の 悲劇ということだけに 解釈しなくてもよいと思われる。一人のマドンナであるアマテラスとかのじょをめぐる二人のスサノヲとの三角関係の悲劇としてのみに限定して解釈しなくてもよいかも知れない。
  • 《 They have never met since. 》――これは 漱石のことばである――という表現は むしろ転換期( As she goes dancing として展開される・また The moon and I will gaze on her という過程としての Twilight の時期)における極端な言い回しだと採ってもよい。なぜ そのような 或る種の煽動の辞が必要となるかと言えば 分離連関が A−Sの逆立して連関するという事態を指して言っていると思われる。Sというのは スサノヲが もしくは 性としては 女性が 生活基礎であるのに あたかも Aとしてのアマテラスが もしくは 性としては男性が 主導しているかたち これが 逆立ちであるように考えられるゆえである。社会形態としては 第一階のスサノヲ市民圏が 第二階のアマテラス公民圏(つまり国家)によって 引きずり回されるという事態を指して 逆立ちと言っているように考えられる。
  • この男と女 アマテラス社会科学主体とスサノヲ市民主体 などのA−Sの分離して連関する形態が もし逆立ちし その逆立ちの度合いを 歴史的な進展として高めていくなら その倒錯または幻想による連関の状態にまで到るなら この方向の偏りそのものによって 双条の光の交錯 Twilight が 望まれ見出され かのじょが踊り始めるというのだと思われる。かのじょの踊りが 本格的に始まるものと思われる。月とわれは――《月)とは 智恵ある者のことである―― これを見つめるのだと言う。現代がちょうど この社会形態の再編成の時代にさしかかっているとわれわれは言う。漱石を継ぎたい。

さて 最後に掲げようとする詩は すでに一部を引いた《 I rested my head... 》のうたである。
(つづく→2006-08-19 - caguirofie060819)