第四章c
全体のもくじ→序説・にほんご - caguirofie050805
第四章 語の生成(§14−18〜)
§13 一般論として:→2005-09-06 - caguirofie050906
§14 仮説を追求しつつ:
- §§14−1〜14−17:→2005-09-07 - caguirofie050907
- §§14−18〜14−42:→本日
14−18 ここで 母音V=要素論述pのほうに焦点を移そう。
14−19 問題は 母音が交替するとき(つまり ha 端/hö 穂/he 辺//または hö・h ï 火 とhä 竃//あるいは hi 日とhä 経などの交替があるとき) それらが互いにどのように分節されているかにある。
14−20 たとえば h ï火は hö火から hö-i > h ïという変化で成り立ったと考えられている。これらの母音/ i / ï / ö /のあいだの相認識あるいは広義の法判断に どのような差異があるのか これを知りたい。
14−21 あるいは he 辺が 仮りに he < hä-i < hä < ha-i という成り立ちだったとすれば ha 端との関係で やはり母音の互いの差異を知りたい。
14−22 上の一例(he 辺 < hä という仮説)が必ずしも適切でないとすれば
- ma 目 →ma-i > mä 目
- ta 手 →ta-i > tä 手
の例によって母音/ a / ä/ i /のそれぞれの相認識を――もしそうだとすれば――知りたい。
14−23 なお 日 の場合は
- 一日 hitö-hi
- 二日 hutu-ka
- 日読ミ kö-yömi(暦)
の如く 子音/ k /と分け合って k-a / h-i / k-ö というふうに母音交替している。
14−24 ここで注目してみなければならないことは 体言に 無格と名格との別があることである。
- 無格(非独立形):ma 目; ta 手; hö 火・・・
- ma-he 目‐辺=前;ta-mötö 手元=袂; hö-kuti 火口・hö-nö-hö 火ノ穂=炎
- 名格(独立形):mä 目;tä 手;hï 火・・・
無格体言は 一般に 例示のごとく 従属形(被覆形とも)でしか用いられないからである。しかるに 名格は そのまま主題体言に用いられうる。
- 目(め)‐ハ; 手(て)‐ガ; 火(ひ)‐ヲ・・・
- *(不可):目(ま)-ハ; 手(た)-ガ; 火(ほ)-ヲ・・・
14−25 形態素 CV=t+p にかんして 要素論述 p をになうと仮説する母音の中では / -a /と/ -ö /とが 体言を形成したときにも 独立用法を持たない無格にとどまることが多い。
14−26 形態素二個から成る場合でも 次の語例のように -ö / -a を末尾とするものは 無格にとどまることが多い。
- harö- 遥 ; hira- 平 ; hirö- 広 ; hisa- 久
- hösö- 細 ; huka- 深 ; hitö- 一 ; hita- 直
- hisö- 密 ; higa- 僻
14−27 逆に すでにそのまま独立用法を持つ名格体言は 母音/ -i /またはそれが含まれる母音/ -ä < -a-i /と/ -ï < -ö-i / だと考えられる。
14−28 ここで 作業仮説としては 体言の末尾母音にかんして 次のごとく考えてみる。
- 無格: -a および -ö
- 名格: -i および -ä < -a-i と -ï < -ö-i
14−29 予めながら さらに次のように仮説する。
体言の末尾母音 | 相認識 | 体言の内的な格活用 | |
---|---|---|---|
-a | :不定相 | 無格(ma 目;ta 手) | cf.名格(ha 端;haka 捗) |
-ä < -a-i | :既定条件相としての派生概念相 | 名格(mä 目;tä 手) | |
-i | :原形概念相 | 名格(hi 日・霊;mi 見・霊;ti 道・霊) | |
-ö- | :保留相 | 無格(hö 火;kö 木;mö 身) | cf.名格(hö 穂;yö 世・代) |
-ï < -ö-i | :そのためとしての派生概念相 | 名格(h ï 火;k ï 木;m ï 身) |
- 用言の法活用としては 命令法形態の末尾母音/ -e < -i-a /は もし仮説のごとく 命令相=主観の要請の相だとすれば 体言の末尾に来ることは 珍しいと考えられる。
- 体言がこの末尾母音/ -e /を有する場合は 推定として 条件法活用の母音/ -ä /から -ä > -ä-i > -e のごとく変化して成り立ったと考えている。
- 語末に添えられると推定される母音/ -i /は 用言の法活用でも 一次Ⅲ概念法であるように その語を概念相として 確定させようとして よく用いられるものと考えられる。
14−30 すなわち 名格か無格かの相認識のちがいを ここで 体言の内的な格活用とよんでおく。
14−31 仮説における不定相=すなわち初発の格知覚のままでの要素論述pの相(= -a)は 不定としては すでにその存在じたいは一定するので 容易に名格になりうるとも見なければならない。
- hata 端 ; hara 原 ; hiza 膝 ; höka 外
(註)末尾のほうの -a なる母音のことである。これらは 独立形たりえて 名格である。
14−32 保留相の母音/ -ö /は 法ないし相の判断保留の相ゆえ 主題条件(属格相当)として別の体言に接続しやすいし また その用法でこそ活かされることが多い。
- kö-suwe > közuwe 木末=梢
- kö-tama(dama) 木霊・谺
- 〔用言を形成していく場合の例〕hösö 細→細シ;細リ;細メ
14−33 母音/ -ö /のこの接続(条件づけ)用法というその性格は 用言の法活用では Ⅴ連体法(一次・二次をつうじて)の末尾母音/ -ö- /に現われる。
- hösörö-mï> hösöru-mï 細ル‐身
- hösömörö-mä > hösömuru-mä 細ムル‐目
これらゆえにも Ⅴ連体法活用を / -ö- > -u- /としての発生であると仮定している。
14−34 またこの母音/ -ö- /を / オ・ウ /の両方の音に自由に変化しえたと考えるのは 次の例などから類推している。
- harö 遥=/ ハロ・ハル /
- hötV- =/ ホト〔-リ(際・辺)〕・フチ(縁・淵)・フタ(蓋)・〔またホカ(外)〕 /
- hötökörö 懐=/ フトコロ・ホトコロ・フツクロ・フツクロ /
- önö 己=/ オノ・ウヌ(自‐惚れ)/
14−35 言いかえると この保留相・接続用法の母音/ -ö- /は そのままでは無格にとどまり不安定だとすれば あたかも/ オ・ウ /という発音に分かれることにちなんでのように もはや/ オ /=o そして/ ウ /=u がそれぞれ生じたとも考えられる。
14−36 ただし / オ= o / は たとえば
- -ö- → a-ö- > o または -ö-a > o
といった成り立ちが考えられる。不定相( -a )を重ねるなら 安定性(名格への活用として)が増したのではないか。
- / ウ= u / は ほとんど/ -ö- /のままで それ(ウの音)へと変化したかも知れない。
- ta/tä 手(=方向); ti 道
- → tö 跡・ト( 引用格)
-
- tö-a > to 戸・門・外
- tö > tu 津(cf. mi-na-to 水ナ門=港 )
- tö/または to 所・処
-
14−37 ちなみ(=道並ミ)に印欧語でも 《戸・門・外・処》なる語は 同一の語根から出来ている。
《戸・門》:
- 〔English〕 door;〔German〕 Tür, Tor;〔Greek〕 θυρα(thura);〔Russian〕 дверь(dver')
- 〔Latin〕 foris ( 扉 〈>pl. fores 戸〉・門 )
- →forîs / forâs ( 戸外で=〔Greek〕 θυρασι(thurasi))
- →〔English〕 foreign( 外国の )
- →forum ( 広場 )
- 〔Russian〕 двор ( dvor ・外庭 )
(註) t(d)はラテン語で f に対応している。英語の door などは あたかも日本語で * to-ra (戸‐ラ)と言っているかのようであるが それは 愛嬌である。
14−38 また 初 hatu < hatö ;昼 hiru < hirö ; 古 huru < hörö といった推定も 可能ではないかと考える。
14−39 あるいは 程 hoto( hodo ) ; 太 huto の場合は はっきり / オ=o /の名格になっているようである。
- ただし 太 huto は独立していない。
14−40 このように 末尾母音にかんして 無格( -a / -ö )および名格( -i / -ï / -ä / -o )をめぐって 体言の内的な格活用とよぶべき現象があり そこでの母音の変化が――語の生成にかんしても―― 重要な役割を果たしていると思われる。
14−41 この体言の内的な格活用を捉えたところで 引き続き 母音の生成を次章で見てみよう。
14−42 なお 用言のⅤ連体法活用を 細ル身 hösör-ö-mï ;細ムル目 hösömör-ö-mäのように 保留相の母音 -ö- として仮説している。これは 体言の属格活用( -nö- )の母音とも呼応すると思われる。
- 木ノ葉 kö-nö-ha
属格には この ノ -nö- のほかに ナ -na- ; ロ・ル -rö- ; ツ -tu- < -tö- が見られる。
- 神ナ霊 kamö-na-hi(bi) ; 水ナ門 mi-na-to
- 峰ロ霊(大蛇) wo-rö-ti
- 海ツ霊 wata-tö-mi
ここでも 属格・ツ tu は tu < tö の変化を想定してもよいと思われるし ナ na と ノ nö とは 母音 -a と -ö とが ほとんど同じように無格どうしで つながりがあると考えられる。全くの不都合な事態が現われない限り いまの想定( -ö > -ö / -o/ -u〔文字の上で / オ・ウ /の二種であるが。〕 )を前提としていきたい。