caguirofie

哲学いろいろ

#10

――ボエティウスの時代――
もくじ→2006-02-26 - caguirofie060226

青春

sept

夏である。夏の到来である。
それはちょうど テオドリックがドナウ河をくだって人質という旅を ローマの使節らとともに敢行しはじめた季節でもある。テオドリックはひとり部屋にいて しばらく漠然とそのことをおもっていた。
窓の外では たそがれが徐々に熟して黒い陰影が垂れ込めていくのに気づいていた。テオドリックは 放心にまかせて部屋に灯をともすこともしないでいる。それはまた 部屋に居残る夕凪ぎの暑さをのがれるためであったが ようやく吹き始めた海からの微風を感じながら 薄闇のなかにひときわ目立って白い大きなベッドのうえにひとり仰向けに寝ころんでいた。

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